最果てにいたあなたへ雪が積もった、と誰かが叫んだ。
その日は朝からずっと雨だった。
昨日まで暖かった気温が突然芯から凍るような寒さへと変わり、空も地面もすっかり薄暗い灰色に覆われていた。
「……予習してくるようにと言ったが、……」
昼食をとった後の火器の授業ほどつらいものはない。漏れでるあくびを噛み殺し、きり丸は黒板の向こうを見つめた。濡れたまぶたをぱちぱちと瞬かせ、鼻をすする。
朗々と響く土井の声も、今のきり丸にとっては子守唄に等しい。落ち着いた耳に心地いい声を聞きながら、うつらうつらとしているうちに影が射す。乱太郎に小声で「きりちゃん」と呼ばれ、反射的にきり丸が顔を上げた。
「おはよう。きり丸」
「……えへへ」
休みの間、土井家で交わされるものとはトーンの違う挨拶に背筋が伸びる。向けられたチョークに愛想笑いで誤魔化すと、土井はちらりときり丸の懐に視線をやった。きり丸が咄嗟に利き手で隠そうとするも、土井はふむと唸っただけで踵をかえす。そのまま何事も無かったかのように授業を続けた。
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