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    結ロ11佐々ぼ本進捗

    第ニ章か三章あたり「夢……ね」
     飲料水で喉を潤し、ぷはぁっと息を吐いた後、佐々木はそう静かに呟いた。
    「はい。私は、確か、に……バンドを、して、いたはずで……」
    「……分かってる。無理して言わなくていいって」
     途切れ途切れの文章を必死に組み立てて口から出す後藤の背中を、佐々木の手が優しくさする。
    「後藤のギターの腕ならバンドやってても驚かないって。ウチが何回も褒めて……あ、記憶無いんだっけか」
    「あ、はい」
     申し訳なさそうにする後藤。佐々木は人差し指で、陽光を弾く翠色の髪を何度か掻いた。
    「今さら頭がおかしくなったとは思わないよ。後藤はウチを驚かせるためにそんな嘘つかない人だって分かってるし」
    「……ありがとうございます」
    「んまあ、本当はバンドを組んでた……喜多とか先輩たち?に、こういうこと言ってもらいたいんだろうけど……」
    「あっいやっそんなことっ」
    「はは、ごめんって。ちょっと意地悪な言い方だったね」
     訂正しようと慌てる後藤の髪を、佐々木の指が優しく撫でた。
    「……なあ、後藤」
    「な、なんでしょうか」
    「この前観た映画、覚えてる?」
    「……いえ」
     俯きながら、後藤が答えた。
     無理もない。後藤ひとりには"この世界の佐々木次子"と暮らした数ヶ月の記憶が存在しない。数日前に見に行った映画の記憶なんて──
    「『ラブストーリー・オブ・パラレルワールド』ってやつ。西野圭吾の小説を映画にしたやつでさ」
    「え」
     後藤は驚いた表情を顔一面に広げたまま、俯いていた顔を思い切り上げた。
     何故ならそれは、一週間ほど前に喜多ちゃんと一緒にDVDを借りに行った映画だったから。恋愛モノは青春コンプレックスが発動してしまうし、よく分からないから自分は行かなくてもいいと言ったのだが、SF要素も含むから大丈夫だと言われて行かざるを得なかったものだ。内容は……自分にはよく分からなかったが、喜多ちゃんは十分に楽しめたようだった。
    「記憶のない後藤のために補足しておくと、ウチと後藤は数日前、映画館にその映画を観に行ったんだ」
    「わ、私も、一週間前にその映画、観ました。喜多ちゃんと」
    「……なら話は早い」
     佐々木はカバンからタブレット端末を取り出し、そのタブレットに添えられたペンを手に持った。
    「それは?」
    「学校の授業でメモ取ったり……」
    「あれ、うちの学校、授業中の電子端末禁止じゃ」
    「……こっちの世界だといいの! てかそんなの後でいいだろ!」
     学校の帰りに見つけた花やネコをスケッチする目的で持ち歩いている──なんて乙女チックな趣味を必死に隠したまま、佐々木は話を進めた。
    「いいか? 後藤が元いた世界は、夢ではないと思ってる。いわゆる、"パラレルワールド"ってやつ」
    「はぁ……」
     後藤が上手く飲み込めていないのは織り込み済みだったのか、佐々木は手慣れた手つきで2本の時系列を書き出した。
    「こっちがウチのいる時間軸。こっちが後藤の元の時間軸……違いがややこしいから、ウチが今まで会ってた後藤をパラレル後藤って呼ぶか」
     デフォルメ化されたかわいらしいイラストの下に、パラレル後藤と書き加えられた。
    「『ラブストーリー・オブ・パラレルワールド』では、こう説明されてた。『歴史は最終的に到達する場所は決まっていて、間に起こる出来事の順序を多少入れ替えても結果は変わらない』って」
    「は、はぁ」
     そういえばそんな話をしていたような。と、後藤が映画の内容を反芻する。
    「ウチがパラレル後藤と映画に行ったように、後藤は喜多と映画を見た。私たちはリアルタイムで。後藤は公開から1年後にDVDで。些細な差はあるけど、同じイベントが起きてる」
     2本の時系列のそれぞれ違う地点に、同じような大きさの丸が書き込まれた。
    「そんで、多分なんだけど……ウチがパラレル後藤と体験したことは、後藤も体験してる。もしくは、これから体験することになる」
     ネタバレになるから何を体験したかは言わないけど。と唇の前に人差し指を立てた後、佐々木は話を続けた。
    「後藤とパラレル後藤が人生で経験するものは、同じになるはずなんだ。『ラブスト』の説明に沿うならな。だから──」
     2本の時系列が指でなぞられる。
    「10年後、20年後……いつかは分からないけど、後藤とパラレル後藤は同じところに行き着く。それまでに経験することの順序はバラバラでも、だ」
     時系列の上に何枚か付箋のようなものが貼られ、佐々木はそれを剥がして順番を入れ替えてみせた。
    「でも、後藤は今から1年後の4月までの記憶しか持ってない」
    「は、はい、そうですね」
     後藤は話の本筋がよく分かっていなかったが、なんとか必死に理解しようとしていた。
    「……で、こっからはウチの仮説な」
     ペンを膝の上に置き、佐々木は天を仰いだ。
    「今から1年で……来年の4月までに、後藤が前の世界で得た経験をなるべく多く体験する。そうすれば、後藤は元の世界に戻れる……んじゃないかな、って」
     佐々木の言葉は歯切れが悪かった。確信がないことを断言するほどの自信が彼女には無かった。
    「正直、理屈も何も無い。私が漫画やアニメで見たSF知識でそれっぽいこと言ってるだけ。世界中を探せばパラレルワールド(そういうの)の研究してる人なんか一人くらいいそうだけど、相談しようにも『パラレルワールドから来ました』なんて馬鹿げた相談はできない。というか──」
     佐々木はそこで言葉を切って、空を見上げていた目を後藤の方に向けた。
    「というか、さ。本当は……後藤に何か目的を持って動いてほしい。ってのが、本音だったりする……んだよ」
    「佐々木さん……」
     佐々木は後藤の目を見つめていた。そうして数秒後、ほんの少しだけ目を伏せた。
    「後藤は、あれから……ああ、パラレル後藤か。今から半年前……そっちの世界からだと1年半前の文化祭の日。あれ以降ずっと塞ぎ込んでた。私と親と妹以外とは会話してないくらいだ。だから、さ、その……何かしてほしいんだよ」
    「……それで」
     言葉を切った。自分が発した言葉を聞いて佐々木が伏せた目を自分の方に向けてくれることを、後藤は待っていた。
    「私が、佐々木さんの元からいなくなってしまうとしても?」
     後藤ひとりがこの世界に紛れ込んでから、この世界の後藤ひとり……パラレル後藤は一切姿を見かけていない。
     パラレル後藤に後藤ひとりが憑依しているのか、それともドッペルゲンガー方式で絶対に出会わないようになっているだけで、この世界のどこかにパラレル後藤が生きているのか。
     そして、後藤ひとりが元の世界に戻った時、パラレル後藤はどうなるのか。というか、この世界……後藤ひとりから見たパラレルワールドはどうなってしまうのか。
     解決に手を尽くしても、いずれ消えてしまうかもしれない世界だ。そんな世界のために、佐々木次子が手を貸す必要は?
    「そんなの、決まってんじゃん」
     矢継ぎ早に質問をする後藤の額を、佐々木のデコピンが吹き飛ばした。
    「ウチは後藤に、幸せになってほしいんだよ」
     額を抑える後藤の顔を、白い歯を見せた笑みが見下ろした。
    「佐々木さん……」
    「さて、お話もいいけど時間が無いわ。急ぐぞ」
     佐々木は後藤の手を取って立ち上がらせ、タブレットを自分のカバンに仕舞った。
    「来年4月までに、今のこの状況を後藤の元いた世界になるべく近づけるんだ。大変だぞ〜」
    「そ、そうですね!」
     そんなことをしても戻る保証はない。それは二人にも分かっていることだった。分かった上で、二人は空元気を振り絞って公園から出ようとした。
    「と、ところで何をすれば」
    「まあ、まずは原点からだわな。一番大事なもの」
    「一番大事な……」
    「そう。結束──」
    「あれ、それギター?」
     夕陽に照らされた公園。立ち上がり歩き出そうとした私たちの前に、金髪を靡かせた長身の女性が現れた。
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