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    kasyoku

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    POIPOI 3

    kasyoku

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    王国滅亡後あたりに人間として転移してきた🐐と、お・は・し(お前を離さない死なせない)な超激重感情💀①

    デミとパンアクを添えて

    ⚠️巨大幻覚/捏造/監禁/ヤンデレ化

     ナザリック地下大墳墓 第九階層ロイヤルスイートの一室
     かつての親友、モモンガ。
     今はもうアインズ・ウール・ゴウンとして、この世界に魔を導く王として君臨している。
     彼は俺に向き直り、手の中に収めていた物をゆっくりと差し出してきた。


    「ウルベルトさん。これは、あなたの選択のためのものです」


     掌に乗せられたそれは、小さな黒いキューブ。
     黒曜石のように鈍く光り、どこか生きているように微かに蠢いている。


    「悪魔として永遠に生き続けることができます」


     言葉は静かだった。でもその意味は、あまりにも重すぎた。
     俺は気づいてしまった。
     なんの能力も持たない脆弱な人間──リアルだけじゃなくナザリックにとってもド底辺のゴミ──として帰ってきてもなお、ギルドマスターの変らない優しさやNPC達の献身も、このための誘導だったのだと。


    「俺だけじゃない。どうしてもこの場所にいてほしいと願ってしまった。仲間として、もう一度居場所を渡すには、…ねじ曲げるしか、ないんです」


     何も言えなかった。
     かつてはただのゲーム仲間で、互いに少し皮肉を言い合いながら、それでも支え合っていた友人だった。
     けれど目の前にいるのは、数千年を歩んでいく死の支配者。世界を治める者。そして、俺を悪魔にしようとする存在だった。


    「もう一人は耐えられない」


     しばらく身を寄せようと思っていた。今の自分じゃ何もできないから、自立の準備が整うまで、とも。
     ナザリックはただの避難所、懐かしい思い出の居場所。けれど今、この場でそれを口に出すことは、できなかった。
     ただ、その手の中のものが、まるで俺の答えを待っているように脈動していた。



      ・
     

     
     
     ナザリック地下大墳墓 第七階層赤熱神殿
     第三秘匿収蔵ファイル
     《悪魔化計画『ディアボロス』》
     
     対象者…ウルベルト・アレイン・オードル
     種族変更…「堕落の種子」による悪魔化
     発動条件…
     ・対象本人による意識下での生贄への殺意の肯定
     ・ナザリックの一員でありたいという執着の深化
     ・魂の共鳴による選択的契約
     
     ナザリック最高の智者が差し出したものの中には、計画の素案と無数の行動記録が書き映されていた。
     食い入るようにファイルを見つめる創造主の瞳には疑念と微かな恐怖が滲んでいたが、被造物は柔らかく笑った。まるで父に甘える子のように、静かに言う。


    「貴方様が変わりたいと思った時のための道を用意しているだけです」


     甘美でありながら、底知れないものを孕んでいるようで、拭いきれない疑念が胸の奥に渦巻く。数時間前の、乾いた男の声が鮮明に蘇った。
     ウルベルト・アレイン・オードル。デミウルゴスにとっては唯一無二の存在であり、どんな姿であっても彼のすべてを守りたいという気持ちが、忠誠の証であった。
     炎獄の造物主は選ばせる。あくまで、自分の意志で。信念を歪めるのではなく、信じたまま堕ちるように。
     水面下で進められていた計画は、決して単なる手段ではない。むしろ選ばれるべき運命だ。デミウルゴスの行動は、忠臣としての選択に他ならなかった。


    「アインズ様が望まれたものは、ウルベルト様がこの世界に残り続けること」


     二人だけしかいない部屋の中で、耳触りがよく優しい慇懃な声が響く。言葉には、深い愛情と忠誠心が込められている。


    「そのために最も確実で、最も尊い方法。それが、貴方様がこの世界で永遠の存在となることだということを、私は理解しています」


     アインズがかつての仲間を迎え入れ、再びここにいることがどれほど嬉しく思っていたか。
     しかし、その喜びの中で、アインズが苦しんでいることにシモベ達は気付いていた。ウルベルトがただの人間であることの恐怖を抱えていたのだ。
     現実世界は環境汚染が酷く、防毒マスクや人工心肺が必要になるほど大気汚染が進み、水や土も荒廃している。劣悪な環境に晒され続けた身体は、どれだけ対策していたとて長くはもたない。ましてや下層の住人であった負け組は平均寿命にも届かないだろう。
     アインズのその恐れこそが、デミウルゴスの胸に響いた。
     至高の存在の御心を消耗させるようなことは断じて許されないが、再び我が身にもたらす絶望を決して受け入れることができなかった。
     

    「ウルベルト様。貴方様がナザリックからいなくなることは、もはや魔導国の国家的危機に等しいのです」
    「俺一人が、か?」
    「はい。貴方様がこの地を離れれば、アインズ様は沈黙のうちに崩れていく。アルベドやパンドラズ・アクターはアインズ様のご様子に耐えられなくなる。私は裏切ることになる」
    「なんだよ、それ。ただの人間だぞ、俺は」
    「いえ、至高の四十一人のお1人であらせられる、偉大なりし御方です」


     デミウルゴスの言葉に、魔将をはじめとした部隊が展開していた。足元には気配を隠して張り付いている影。部屋が施錠され、魔法の障壁で空間ごと封印されていく。


    「…監禁か?」
    「違います。保護です」


     一切の狂気も、悪意もなく。
     悪魔であるのに、ただ、心からの尊敬と慈愛を込めた瞳で、まるで聖者のように微笑んだ。
     「手放したくない」と願う気持ち、ウルベルトが存在し続けることを確実にするために、時には歪んだ選択をもする覚悟が必要だと理解している。どんな犠牲が伴おうとも。
     悪魔たちの言語では愛と呼ぶのだった。
     
     膨れ上がったボストンバッグが手からすり抜け落ちた。




    * * *


     
     
     
     椅子に座ったまま、静かに天井を見上げていた。
     荒廃した荘厳な石造りの神殿。まだ現役だった頃この灼熱に包まれた階層を手掛けた際に幾度も眺めたものだ。
     だが、こんなにも圧迫感を覚えたのは初めてだった。
     今日だけじゃない。現実世界で死んで、ただの人間のまま異世界にきてからずっと、違和感が積み重なっていた。
     最初は〝レベル1にも満たない下等生物を保護するための行動〟として気を回してくれているのだと思っていた。
     部屋から出ると、必ずプレアデスの誰かが通りかかる。最古図書館に立ち寄れば、マーレが本を手にしながら偶然を装っていた。読もうとした本はいつのまにか机に置かれていて、興味のある分野ばかり。円形闘技場を見学すれば、セバスが礼儀正しく挨拶してきた。 
     何より、夜寝ていたら、扉の外からかすかな足音が数時間おきに聞こえる。
     過剰な護衛、全方位の配慮、寝る部屋にまで監視の気配。
     もはや何度目かも分からない、異常な忠誠と好意の包囲網。日替わり担当の一般メイドの笑顔はどこか引き攣っていて、目が合うたびに怯えるような、けれど逃げない視線。ナザリックの空気が、日ごとに軋ませていた。
     

     ――これは保護じゃない。檻だ。
     

     思わずそう呟いた瞬間、どこかで何かが、静かに噛み合ってしまった。
     背筋に氷の針のような冷たいものが走った。恐怖が芽生えた瞬間だった。もう、直感を無視できなかった。
     過剰な礼遇。断ってもついてくる護衛。常に最適化された環境。周囲にいるメイドや八肢刀の暗殺蟲たち。それぞれが微妙に距離を取りつつ、観察の視線を逸らさない。裏に覗く圧倒的な執着。
     ナザリックは異形なる者達が住まう地獄。いくら元はギルドメンバーであったとしても、能力はなく、戦闘もできず、魔法も使えない。役に立たない人間がタダで飯を喰らい、いつまでも身を寄せていい場所ではない。
     魔導王のよき理解者の友人でいれたらいい。人間の街でひっそり暮らすために、せめて生きていける最低限のこの世界の常識や知識が収集されるまでは…と、仮住まいとしてしばらくいることを、伝えていたのに。
     ここには、ギルドで共に過ごしたあの頃の面影がまだ残っている。だが、いつの間にかナザリック全体が、自分を静かに取り囲む檻になっていた。 
     俺はもう知ってしまった。ナザリックの中で自分がただの客ではないことも。


    「出ていく。ただ、それだけでいいんだ。誰にも迷惑かけない。…それの、どこがいけねぇんだよ」


     喉が焼けるように乾いていた。力が削がれていく。魔力ではない、精神そのものが。
     〈堕落の種子〉は、悪魔種へ変更できる種族変更アイテムの一つだが、転職に必要使用条件は、生贄を捧げなくてはならない特殊なものだ。
    「…誰も、差し出したりはしねぇ」
     囁くように、それでも言い切った。
     生贄として提示されたのは、囚人。犯罪者。特別でもないただの人間。
     児童連続暴行犯。自分を有能だと信じて疑わない馬鹿。謀反を起こして魔導国に降伏した貴族達。金銭目的でナザリックに侵入した請負人。どいつも現実世界で忌み嫌っていた類の者たちだ。
     「善良な民じゃないから」「死刑に値する存在だから」そう言われた。モモンガさんは俺の好みが分かって差し出しているに違いない。
     それでも、絶対に曲げない。たとえその選択の代償が、自分の精神であっても。
     俺は本当の悪人殺人者になりたかったわけじゃない。



      ・
     

     
     一度だけ、自殺未遂をした。
     本気ではない興味本位だったが、今思い返せばやけになっていたのかもしれない。
     いつでも生贄を殺せるよう、刃を支給されていた。薬物でも毒でも魔法も込められていない、ごくありふれた鉄製のナイフ。俺が唯一使える道具だった。
     ゆっくりと刃を首筋にあてる。
     視界が焼けるほどの光と共に、魔法が発動する。
     空間転移――パンドラズ・アクター
     

    「あなたに自傷の権利は存在しません。命の管理は、我々が行います」
     

     鋼のような言葉。
     腕を掴まれる。ナイフは吹き飛ばされ、首筋に傷は残っていない。
     それ以降、二重の監視下に置かれている。
     行動制限、ナザリック及び魔導国・近隣周辺国内の立ち入り制限、周囲には常時二体の死の騎士・影の悪魔・八肢刀の暗殺蟲を忍ばせる。大図書館、各階層、空間への立ち入りは申請制に格下げ。
     さらに、デミウルゴスとアルベドが交代制で監視し、モモンガさんは数時間ごとに様子確認の〈伝言〉を送るようになった。
     
     自由を失った。
     ただし、全て彼らなりの保護だった。
     
     壁に拳を叩きつけた。何も壊れない。何も響かない。
     まるで、最初からその言葉も感情も、世界に拒絶されているようだった。


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