浅瀬に溺れる水は透き通り、陽光を受けてきらめいていた。
夏の匂いと蝉の声に包まれて、私たちは川辺にいる。
私は岩に腰を掛け、無邪気に水で遊ぶ小平太を眺めていた。
水面が光を反射し、その揺らめきが身体に映し込まれている。
「わははっ! 冷たい!」
小平太は笑いながら水をすくい、こちらへと飛ばしてくる。
頬や肩に飛び散る水しぶきに思わず笑みを浮かべると、それを見た小平太はさらに楽しそうに声を上げた。
「長次~! こっちこい!」
……無邪気だ。とても最高学年と思えないほどに、幼さを感じる。
そう思うのに、濡れた髪が頬に張り付き、滴る雫が首筋を伝うのを見てしまった途端、胸が焼けるように熱くなる。
心臓の鼓動が耳に響き、騒がしさは自分のものとは思えないほどだ。
呼ばれるまま川へ足を踏み入れる。水が脚の間をすり抜ける冷たさが心地よい。
ざぶざぶと重みを伝えてくる水流が、嫌いではなかった。
「ほらっ!」
再び飛んできた水しぶきに反射的に手をかざす。
「こら、小平太」
「あはは、長次もずぶぬれになれ!」
そう言って小平太が勢いよく飛びかかってきた。
いつものことなので難なく受け止める――だが、服が濡れているぶん身体がいつもより密着している気がして、思わず息を呑む。
近い。近すぎる。
跳ねる心臓の鼓動が伝わってしまいそうだ。
それなのにお構いなしに小平太はぎゅうぎゅうと私の体に抱きつき、肩にぐりぐりと顔を埋めてくる。
「こ、こへいた」
水にぬれていくらか薄くなった小平太の匂いが鼻をくすぐった途端、頭が真っ白になり、体から力が抜ける。
次の瞬間、私は小平太を押し倒すようにして浅瀬へと倒れ込んでいた。
「うわっ――」
大きな水音。陽光を散らす飛沫。
小平太が「いてて」と顔をしかめるのを見て、慌てて身を起こした。
「す、すま――」
わざとじゃないと謝ろうとしたその瞬間、言葉が途切れる。
視界に映った姿に、息が詰まった。
濡れた衣服が肌に張り付いて浮かぶ体の輪郭。胸元の隙間からのぞく柔らかな肌。
大柄な体に似合わず小さく尖った蕾が、薄桃色に色づいていた。
……駄目だ、見るな。
目を逸らして立ち上がる。
風呂で何度も見てきたはずの肌なのに、今目にしているそれは全く別物のように感じられる。
夏の暑さに当てられて、頭がおかしくなっているのだろうか。
「長次?」
きょとんとした顔で見上げてくる顔に、うまく視線を返せない。
小平太はよっこらしょと立ち上がり、服を絞る。
前髪をかき上げる仕草ひとつでさえ、目を逸らせない。
水滴が赤らんだ唇から首筋、胸元へと滴り落ちる。
……こんなにも純粋無垢な顔をしているのに、私は。
「……」
「長次?」
心配そうに覗き込む顔が近づく。
やめてくれ、今の私は正気ではない。川の冷たい水が足元を抜けていくのに、どうして熱を奪っていってくれないのか。
「………長次……」
不意に小平太の顔が近くなる。
一瞬で距離を詰められ、唇が耳元へ寄せられ、普段の声からは想像もできないほど小さく甘い囁きが届いた。
「なあ……興奮したか?」
心臓が掴まれたように跳ねた。
そのまま顔を引かれ、気がつけば唇を重ねられていた。
ちゅく……柔らかな感触。薄い舌先で掠められ、すぐに離される。
つぅと糸を引くのが見えて、ぷつりとちぎれた瞬間に我へと返る。
――何を、された。
問いかけるように見やると、細められた瞳が真っ直ぐこちらを射抜く。
まるで、全部わかっているかのように。
「ははっ……顔、真っ赤だぞ?」