君が居なくなってからあの子がワープスター型の宇宙船に乗って、元居た場所に戻ってからどれくらいの年月が流れただろうか………。
あの後一線から退いた私はあの子が初めてやってきた場所の麓に小さな家を構えた。一人暮らしをするのにはちょうど良い大きさの家……。陛下から退職祝いとしてこの家を頂き、その時に部下であったソードとブレイドの二人を安定した収入を得るまで城に置いて欲しいと頼み込んだ。
二人は暫くの間子供達への剣道の講師としてある程度収入を得ていたようで、その後落ち着いた頃に二人同時に城を離れたという。
その二人もどのくらい前だろうか…?生まれた子供達が写っている葉書きを送ってもらったのを最後に連絡は途絶えた。
あれから皆元気にしているのだろうか……便りが無いのは良い便り…。そう思いながら私はひとり庭に出てイーゼルを準備し、その上にキャンバスを乗せる。
瞼の裏に居るあの子の姿を思い出しながら木炭を使い、サッ…サッ……と丸を描きながら下書きを進めていく。小さかったあの子も素敵な大人になっているに違いない……。そう思いながら。
輪郭をはっきりと目立たたせ、赤い頬や目のあたりに濃淡をつけていく。あの時自分の側に居た姿を思い出し、少ししんみりする。本来なら200年後にやって来る筈だったあの子がこの村にやってきて私たちと共に悪の根源を滅してくれた。あのまま同じ時間を過ごせば良かったのだが…運命はそうはいかなかった。ワープスターのシステム上の関係で、あの子は村から出なければならなかったのだ。
眠っているカービィを乗せてワープスターが去っていく。…私はその姿をただ見守るしかなかった。共に行ければ…とも思ったのだが、あの子のワープスターを修理する為に必要なパーツを使ってしまった。未来あるあの子の為……私は共に生きる事を諦める道を選んだのだった。
「こんなものかな…。」
キャンバスに描かれた白黒のあの子。座りながらある一点の方を見つめる姿……。
出来上がった絵を見ながら、ぎゅっ…と力強く木炭を握りしめる。そのまま私は
「…いつかは君に会えるのだろうか………。」
と呟いた。
雲一つもない青い空に混ざってキラリ……と空から大きな光とともに何かが近づいてくる。もしや…と思い部屋に戻りカレンダーを見つめる。
当初のあの子が来る筈だった予定の期日……初めてこの村に来てから200年目の日……。
私はいても立ってもいられずあの場所に向かって走り出した。
あの丘にたどり着くと、昔良く見たあの宇宙船のかたちをしたワープスターが着陸していた。今回はちゃんと着陸することができたのだな……と思った瞬間、影から大人な体格になった桃色のあの子が現れる。
「……カービィ……。」
ごくり……と息をのむと、あの子も気付いたのか此方の方を見て驚いた顔をした。
「メタナイト……卿…?」
大人になったあの子は中性的な顔立ちをしており、声の調子も昔と変わらなかったが…言葉が喋れる分、少し大人のように感じた。
「ああ……私だ……もう…卿では無くなったがな…。」
そう言いながら優しく微笑むと、あの子は顔をくしゃくしゃにしながら私の元へ駆けつけた。
「……会いたかった……会いたかったよ……!!」
そう言いながらぎゅっ…と抱きしめられる。あの子に纏っている甘い桃の香りに思わずくらくらすると
「あ……ごめんなさい…嬉しくってつい……。」
とあの子はそう言いながらゆっくりと体を離した。
「いや…いいんだ……あの時みたいに私の事を思っていてくれて…嬉しかったぞ。」
私は胸のトキメキを一生懸命隠しながら返事をするとカービィは
「…良かった……。」
と言いながら胸を撫で下ろした表情をする。その後間髪を入れずに真面目な表情になり、慎重に口を開いた。
「…あのね…メタナイト………聞いてくれる……?実は……。」
丘の草に風が当たって大きく揺れる。
ざざっ…と言っている中でカービィが呟いた言葉に私は驚愕し、歓喜した。
「だから………これからもずっと……一緒に居てくれる……?ボクと一緒に幸せになろうよ……。」
彼女がにっこり…と微笑む。
「勿論だとも………。今まで会えなかった分……互いに幸せになろう。」
「嬉しい………。」
そう言って互いに近づき、もう一度深く抱き合う。
ひとり寂しかったこの丘に、温かく元気な声が増えて賑わいが増していく。
その声が増えるのもそう遠くはない未来の話……。