死者の妄言、生者の真言(前) おや、旅の方。あそこの屋敷を気になさる。
屋敷、というのもおかしいですな。あれはただの焼け跡。長く風雨にさらされて、崩れた塀の向こうでは黒々とした柱が数本立つばかり。昔は立派な竹林に囲まれてもいたのですがね、須らく燃え失せましたさ。
さて、最後の住民はいつだったか。もう何十年も前の話ですよ。
村の人間でも、あの家の主が何者であったかわからず仕舞い。いつだって気が付いたら使用人含めて出入りの人間が変わっている。なんなら誰も住んでいないときの方が多かった。
私のばば様、かか様、みな屋敷の詳しいところは知らぬと言う。また村では、屋敷には触れるなという不文律のようなものがありましたからナァ。
――ほ、ほ、ほ。
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