名を呼んだ声は力なく、それでも同じ響きのまま、マヨリの脳裏と目頭をなでる。
身を彩った禁忌の力は、すでに彩度を失っていた。まだ身を起こすこともままならないのだろう。倒れたままの影に寄り添い、首を支える。
ずっと下を向いているせいだろうか。溜まっていた心がふと、こぼれた。
「兄上はずるいお人だ。わらわもずっと、名前でお呼びしたかった……」
「おまえが願うならいくらでも。オレはここにいるじゃないか」
声が詰まる。言いたいことはたくさんあるのに、波に混ざって溶けてしまう。
もう一度名前で呼んでくれるだろうか。瞬いたそんな願いごとは、ほおを流れて伝い落ちる。
それはこの世界にたった一人の。誰でもない兄の名を呼んだ。