メカクレの少年少女が好きだ。
常日頃からバーソロミューはそう豪語している。それはカルデア内の全ての人間(というのも語弊があるがーーー)が把握していた。
その為、メカクレと見れば見境なく褒めちぎり、満面の笑みを浮かべる。だが、今ロビンフッドの目の前をヨタヨタと歩いているバーソロミューはメカクレのロビンフッドを見ても小さく微笑むばかりで、誰が見ても異常事態であった。
「大丈夫か?オタク、随分と……その、随分な顔をしてるが」
ロビンフッドはバーソロミューに声をかけた。
霊基が脆弱であるバーソロミューは種火を取り込む度に蠱惑的な表情をする。そういえば、下腹部に熱が溜まる感じなのだと以前本人が話していた気がする。
潤んだ瞳で見上げられてみれば、なるほど、男女問わず彼に惹かれる人間がいると言うのもあながち嘘ではないのかも知れない。
バーソロミューはマスターから随分と気に入られている様でマスターは事ある度に聖杯を注ぎ込み、種火を与える。そうしてその度にバーソロミューは紅潮し、己の鈍い欲望に耐えているのであった。
「……メカクレの君に心配されるなんて嬉しいな、ありがとう。お察しの通り種火を取り込んだばかりでね、……なに、いつもの事さ」
「部屋まで送る」
「気持ちは嬉しいのだけども……、気味が悪かったら笑ってくれ、送り狼ならぬ送られ狼になってしまう自信があるよ、はは」
「オタク程の伊達男ならカルデア内にそういう相手がいると踏んでたんだが」
「生憎私は面食いでね、それに友には手を出したくないし海賊どもはもっての外、メカクレとは言えども少年少女に手を出す趣味もないよ」
「意外と常識人なんだな」
ロビンフッドはなおも遠慮するバーソロミューに肩をかしてやり、彼の部屋に向かって歩き出した。
マスターもこの現象には理解があるのか、バーソロミューに種火を与える際は彼を1人部屋に配置している。部屋に戻れば彼は1人で己を慰めるのだろう、とロビンフッドは下卑た事を思った。
甘い吐息を吐きながら、バーソロミューは小さく謝罪の言葉を述べた。
「私がもっと強かったらなんて言わない、二度目の人生を謳歌しているからね、でも、カルデアで簡単に足を開く様な男でもないんだ私は」
「わーかってますよ、オタクの霊基自体は確かに弱い。でも俺はオタクを強いと思ってますよ」
「……?」
「心?精神?そんなもんが。……自分で気付いてないんです?それだけおっ勃たせといてマスターにも手を出さず友にも少年少女にも手を出さないと誓い耐えてるし、なんならオタクのステータス俺より普通に高いですからね」
「……?」
「俺!レベル70!オタク100でしょ!!」
「……君……、ああだめだ、はなしてくれ、ここからはひとりで、」
「なに、別に乗り掛かった船ですし、」
「のりかかるのは、わたしが、きみにだよ。……うめあわせはかならず、」
必ずするから、頼むから離してくれ。
そうじゃないと私は君に襲いかかってしまう。
バーソロミューは己の掌から血が流れ出る事も厭わず、懸命に己の欲と戦い強く握りしめた。
「たった一晩で崩壊する様な関係は作りたくないんだ……きみは、みりょくてきだから、」
「オタクの部屋には入りませんよ、部屋に投げ込むだけ。それなら許容範囲でしょ」
「……ああ、それなら。たのむよ。なるべくわたしの理性が焼き切れてしまうまえに」
フェルグスならこの表情で誘われた、と認識するのだろう。ロビンフッドは男女問わず欲望のままに一夜を共にするセイバーの事をふと思った。
「……ふふ、私以外の事を考えているのはそれはそれで癪だな」
「オタク、俺をどうしたいんすか」
「さあ、どうしたいんだろう。……どうしたいんだろうね」
「バーソロ、」
「さ、着いたよ。ありがとう。助かった」
「あいよー。……なぁ、オタクさぁ何かあったら、」
「うん?」
「いや、何でもない。温かくしてとっとと寝なよ」
「そうするよ、この状態で会ったのが君で良かった」
何かあったら誰かに頼る癖を付けた方がいい。だがそんなお節介を口にするにはバーソロミューとの関係はあまりに粗雑なものだ。同じカルデアに属するだけの他人。そんな他人から言われても響く様な言葉ではなかった。
このカルデア内にバーソロミューの霊基が弱いと嘲笑する者は本人のみである。実際、種火を取り込むだけで身体に異変を来している事を鑑みればある意味ではそうなのかも知れない。
先日のレイシフトで仲良くなったと聞く円卓の騎士であれば、バーソロミューももう少し心を開くのだろうか。あるいはインドの大英雄であれば。
兎角、彼の宿り木になるのは自分の役目ではないし、あの熱を発散させる事もない。
ロビンフッドはそれを少しーーーほんの少しだけ寂しいと思った。