先輩に対しての感情、ですか!?
いや、私は、その様!な!正直な所大切な人だとは思ってます。ただ、恋愛感情かと言われると……愛だとか恋だとか私にはまだ未体験のものです。その名を付けるべき感情がどの様なものか理解に及んでいません。
ただ、このカルデア内ではその様な関係になっている、もしくはなろうとしているお二人を見れば恋とは甘く、苦く、辛く、楽しく、苦しく、愛しいものであるという事は理解してるんです。
先日の事です。
円卓の騎士パーシヴァルさんと、海賊バーソロミュー・ロバーツさんが愛おしげにお互いを見ているのを見つけてしまいました。食堂における、円卓の方々がいらっしゃる席と海賊の方々がいらっしゃる席には少しばかり距離があるのですが、それでもお二人は確かに視線を合わせてーーーまるで視線だけで愛を交わしている様な、そんな風に感じました。
お互いウェールズ出身ではあるものの時代が違い、サーヴァントとして召喚されるまでは出会った事もなかった。そんな2人がまるで宝物を見つめるかの様で私はお二人が恋仲であるのではないかと思ったのです。
妄想であると笑われてしまうかもしれません。
ですが、ドバイへのレイシフト時からお二人は時折その様な視線を交わしていました。マスターである先輩への対応とも違う、互いの仲間である円卓の騎士達への対応や海賊たちへの対応、そして彼らの友である筈のカルナさんへの対応とも違う。
私はバーソロミューさんにお話を伺うことにしました。
「あの!不躾な質問で申し訳ないのですが!」
「どうしたんだい、マシュ嬢?」
「バーソロミューさんは、パーシヴァルさんと、その、恋仲なんですかっ?」
「違うよ、……んふふ、マシュにまで聞かれるなんてね。もう何度もこの質問をされた。そうして何度も違うよと答えた」
「……では、恋とはどういうものなのでしょう?バーソロミューさんとパーシヴァルさんが恋仲でないのなら私には恋とは何か分かりません」
「……私が勝手に恋をしているだけだよ、パーシヴァル卿とは恋仲じゃないんだ」
あの夏を忘れられないだけなんだよ、とバーソロミューさんは微笑みました。やはり、お二人の間柄が恋ではないのなら、私は恋愛というものをどう定義すれば良いのでしょうか。
「私には、パーシヴァルさんもバーソロミューさんと同じ目をしていると、」
「色の話かな?……すまない!これから予定があってね!君と話していたいのはやまやまなのだけれどーーーすまないね」
バーソロミューさんはそう言って自室へと帰っていってしまいました。
きっと気分を害されたのでしょう。申し訳ない事をしてしまいました。私の中に燻るこの思いに名前を付けたくてバーソロミューさんには悪い事をしてしまいました。きっと彼の中では既に決着の付いている事なのでしょう。恋仲にならずともお二人の間に不穏な空気など流れてはいないし、これ以上私が掻き回すのも良くない。
お二人からお話を聞くのは諦めよう。
そう思っていた最中でした。今度はパーシヴァルさんからお声掛けいただきました。
「マシュ、元気がない様だが……どうかしたのかい?」
「あの、えっと、……バーソロミューさんに要らぬ質問をしてしまって……」
「うん?」
「バーソロミューさんとパーシヴァルさんは恋仲なのか、と」
円卓の騎士は私の答えに小さく微笑みました。先程のバーソロミューさんと同じ表情であった気がします。顔の作りも違うお二人にそう思うのは不自然な事なのでしょうか。
「ふふ、恋仲ではないよ。……私が勝手に恋をしているだけだよ」
つい先程も聞いた答えでした。お二人は互いに恋をしながらも恋仲にならずにいる。それはマスターである先輩を思ってが故になのかそれとも互いの感情に気付けずにいるだけの鈍感なだけなのか。
「でも!私にはおふたりが、」
「マシュ、それ以上はいけない」
パーシヴァルさんは私を静止し、更に言葉を続けました。
「確かに我々はお互いに恋焦がれている。理解はしているよ。でもサーヴァントとしてカルデアにあある以上、関係を進展させる気はないんだよ、バーソロミューも、私も」
「だって!物語では恋焦がれた方とは、その……体温を分け合ったりだとか、したいものだと……」
「そういう、恋もあるのだろうね」
でも我々はそこからは外れた恋愛をしているのだろう。結ばれなくてもいい。ただ相手を思うだけで満足し、充実感を覚えてしまっている。
パーシヴァルさんはそう言ってまた微笑みました。
確かに私は先輩と体温を分け合いたいだとか、そういう肉体的なものを望んだ事はありません。ただ、先輩がいない未来を想像したくないと言うだけで。
結局、パーシヴァルさんとバーソロミューさんの関係に付いてどう形容して良いものか分からず仕舞いでした。
けれど、そういう恋の仕方もあるのだと理解はしました。シグルドさんとブリュンヒルデさんの様に愛を紡ぎあう以外にも恋愛と言うのは様々な形があるのだ、と。
出会う時が違えば運命も違ったかもしれない。なんて常套句ではありますが。
幸せそうにお互いを想う2人にそれ以上の言葉を私は何も言えませんでした。
ただ私は彼らの行く末が少しでも幸福なものであれば、と願うばかりなのです。