どうにも腹が減った。
ここ最近パーシヴァルに盛られ続けていたせいか、胃が許容できる量が増えてしまった。いつもより多く食した日は多めに動いて消化した。
だが、そのせいで胃が大きくなってしまったらしい。
夕飯は数時間前に済ませた。朝食にはまだ早い。そんな時間に腹が減ってしまった。
「おや、カルナ。君も食糧を奪いに来たのかい?」
「お前もか」
「パーシヴァルのせいで最近胃が大きくなってしまったみたいでね……」
「お前もか」
パーシヴァル盛りの被害者であり、友であるバーソロミューは眉を下げ笑った。
口の回るバーソロミューでさえ避けられぬものを俺が避けられる筈もない。パーシヴァル盛りには困ったものだ。
かと言って、このまま空腹を感じたまま朝を迎えるには少々腹の虫がうるさい。
——そういえば、ガネーシャ神が褒め称えていた食べ物が棚にあったはずだ。
彼女曰く《いざと言う時の非常食っスよ!》。
だが俺は彼女が深夜にそれを喰らい、肉を増やしている事を知っている。
「所で、共犯になる気はないか、バーソロミュー」
「なんだいなんだい、楽しい事かい?今日は気分がいい、君の案に乗ろう!何をするんだい?」
「掠奪だ」
いいね!とバーソロミューはにぱ、と笑った。この男は全く計り知れない。深海よりも冷たい眼差しを向ける時もあれば、今の様に幼女の様にも笑う。
夏に出来たこの友は俺を飽きさせる事がない。
「私の得意分野だよ。で、何を掠奪するんだい?」
「これだ」
俺は棚から《かっぷらーめん》を二つ取り出し、一つをバーソロミューに手渡した。
ガネーシャ神の食糧を掠奪する。以前彼女は《カルナも一度食べて見るといいっス!》、と言っていた。
食べろと勧められた。だからこれは掠奪には当たらないのかもしれない。だが、事前に許可も得ず奪うというのはやはり掠奪に当たる気はする。
「これは……、カップラーメンだね。私も食べた事はないんだ。噂には聞いた事がある。黒髭が絶賛していた。これは誰から掠奪するんだい?」
「ガネーシャ神だ」
「っ、」
「構わん。……構わん」
「許可を得ていたら掠奪にはならない。カルナも随分と悪い事を覚えてしまったね」
「友がそうであるからな?」
「ンッフフ……、では海賊の流儀をお教えしよう!」
バーソロミューはそう言って冷蔵庫を開け、肉の塊を取り出した。ちゃーしゅー、とか言うらしい。
「これを入れるともっと美味しくなるんじゃないか……?」
「天才か」
「そうだろうそうだろう」
「なら、これはどうだ」
俺は葱を取り出してバーソロミューに見せる。
「天才か」
「そうだろう。……そうだろう」
「ならこれはどうだろう」
ゆで卵だ。
バーソロミューはやはり機転が効く。絶対にうまいやつだ。間違いない。
そうして俺たちは食堂の冷蔵庫から、焼豚、葱、ゆで卵、チーズ、サバ缶、生姜、……とにかく合いそうな物を取り出した。食べていない以上、合うのかどうかは分からない。だが、俺は戦いも憎悪もないこの時間を楽しいと思った。
取り出した食材はかっぷらーめんの皿の中に入りきらない事は理解出来た。俺たちは取り出した食材を少しずつ皿に乗せた。
「後乗せ、とか言うやつだ!」
「ふむ、好きな食糧を好きに足せる。素晴らしいな」
「そうだろうそうだろう。で、これはどうやって食べるんだい?」
「分からん」
「分からん!?んー……、黒髭はエミヤが作ったらーめんには劣るがあれもオツなものでちよ〜とか言っていた。らーめんと名も付いている事だし、らーめんぽくなるのでは?」
「何をしているんだい?2人とも。楽しそうだね」
元凶であるパーシヴァルだ。
水を飲みに来たらしい。もうこうなれば一連托生だ。俺はバーソロミューを見やった。彼は頷いた。
「お前もどうだ」
「何をしているのかな??」
「悪い事、だ」
「悪い事はよくない」
「……私とワルい事、したくないかい。パーシヴァル」
「そういう誘い方はずるい!します!」
そうしてパーシヴァルを仲間に引き入れた。
彼には一等大きいかっぷらーめんを手渡してやった。
◾️
「食べ方が分からない?……お湯を入れて3分放置して終わりだよ。それで食べられる」
「湯を入れるだけ!?エミヤ要らずじゃないか?!」
「嘘はよくない」
「嘘じゃないよ。以前、円卓の者達と食べた事がある。一度試して見たら分かるよ」
俺たちは鍋に湯を沸かし、カップラーメンの皿の中に注いだ。確か3分待つ、と言っていたな。
3分の間、雑談する事にした。
「で、お前たちはいつくっ付くんだ」
「えー、と」
「あー、……」
「なんだ、もうデキていたか」
「…………昨日からだよ!!!カルナ、別に隠そうとしていた訳じゃないんだ、ただ、タイミングが、」
「誤解しないで欲しい!私たちが恋仲になったとて、私達と君は友だ、そこに変わりはない!」
「ズッ友とか言うやつか?」
「「ズッ友だよ!!!」」
「そうか。……そうか。友の恋が叶い、これ程嬉しい事はない。良かったな、2人とも」
個別に恋の相談を受けていた身としては喜ばしい限りだ。
そういえば、3分はゆうに過ぎている。
2人を促し、かっぷらーめんの蓋を開けた。麺が少し多い気がしないでもないが食うには困らないだろう。
俺は祝福代わりに2人のかっぷらーめんにゆで卵を乗せた。
友の幸せそうな笑顔が見れて俺は満足だった。
だから、初めてのかっぷらーめんがブヨブヨで美味しくなくとも、後日ガネーシャ神とエミヤから物凄い喧騒で怒られても、問題はなかった。
ただ少し、ガネーシャ神の拳が痛かっただけで。