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    現代パロ パーバソ。
    健全なお付き合いをしている二人が公園デートしてる話。

    #パーバソワンドロライ
    お題/ソーダ色(1h+30min)

    もうすぐ陽も落ちようかと言う頃合いに、誰も居なくなった公園で二人で過ごすのが日課だった。
    公園の側に据えられた自販機や、今では珍しくなってしまった老人が営む駄菓子屋で飲み物を購入し、それを飲み干すまでの間座って他愛もない話をする。それがパーシヴァルとバーソロミューの逢引きだった。
    手を繋いだ事は一度だけで、それ以上の事はした事もなかった。
    パーシヴァルは時折沈みゆく陽と共にバーソロミューが消えてしまいそうな心地がして、抱き締めてしまいたくなる。
    だが、いつ人が通るかも分からない公園で欲望のままにそうしてしまうのは憚られた。パーシヴァルはバーソロミューとの関係を恥じた事はないが、以前にこの関係は二人だけの秘密にしておこうとバーソロミューから提案された為、誰からも知られる訳にはいかなかった。
    約束を違えてしまえば、バーソロミューは己の元から去ってしまう。言葉にして伝えられた事はないがパーシヴァルはそう確信していた。

    氷の入った水の中で冷やされ続けたソーダはするすると渇いた喉を通り、瓶の中身はあっという間に半分程になってしまった。
    パーシヴァルは瓶から口を離し、バーソロミューの様子を伺った。同時に彼もまたパーシヴァルを見た。
    同じタイミングで互いを見やり、目が合い、微笑み合う。それだけで気分は高揚した。肉体的な交わりがなくとも構わない、とパーシヴァルは何気ないこのひと時を愛しく思った。

    話す内容と言えば他愛もない事ばかりだった。
    お互いの事をまだよく知らないまま二人は恋仲になった。話す事ならば山の様にある。
    勿論、手離しでは話せない様な事もあるが、バーソロミューにならいつか話せる日が来るのだろう。同様にバーソロミューにも話せない事はあるとパーシヴァルは思う。
    いつか全てを知りたい。まるで一つの存在であるかの様に何もかもを把握したい。されたい。
    だが、どれだけ一つになりたいと願っても二人は二人であったし、それ故に手も繋げる。話も出来る。それは僥倖だった。

    残りのソーダを飲み干し、空になった瓶をしばし見つめていたバーソロミューが口を開いた。
    そろそろ帰宅の時間かとパーシヴァルは残念に思った。

    「もう一本、飲もうかな」
    「……!えぇ!そうだね!」
    「買ってくるよ、同じものでいいかな」

    パーシヴァルが頷くとバーソロミューは急ぎ駄菓子屋の方へと足を運んだ。駄菓子屋の店主はもう随分と老体であった為、閉店も早い。公園の隅に備え付けられている自販機でも事足りるが、それを口にしてバーソロミューの気持ちを萎えさせるのは嫌だった。
    横目に赤らんだバーソロミューの頬を見て、この時間が終わってしまうのが勿体無く感じているのが自分だけではないと知りパーシヴァルは安堵した。

    「っ冷た!?」

    頬に冷たい感触を感じ、パーシヴァルの身体はビクリと跳ねた。バーソロミューはその様子を見て悪戯が成功した子供の様に喜んだ。
    にぱ、と笑うバーソロミューは可愛かった。パーシヴァルからしてみれば如何なる表情を見せるバーソロミューも愛しく感じているものの、やはり笑った顔は殊更可愛く思う。

    馴れ初めはパーシヴァルの一目惚れだった。
    初めて出会ったのは茹だる様な暑い夏の日だった。知人の知人として紹介され、一言二言会話を交わした頃にはもうバーソロミューと離れ難くなった。
    それからしばらく、言葉を尽くしバーソロミューに愛を説いた。
    最初は怪訝な表情を向けていたバーソロミューであったが、いつしかパーシヴァルから視線を外し、頬を紅潮させる様になった。
    初めて言葉を交わしたあの日からもう随分と時間が経過していた。パーシヴァルは今でも初めて会った時の衝撃を忘れられずにいる。
    チョコレート色をした肌も、美しい海を模した様な瞳も今なおパーシヴァルを魅了し続けていた。

    「君みたいだ」

    バーソロミューは手にしたソーダの瓶とパーシヴァルを見比べて笑う。

    「瞳の色も、キラキラしている所も。私には眩しいくらいにね」
    「私からすれば貴方こそキラキラしていると思うよ。私の毎日を照らしてくれる」

    バーソロミューから手渡されたソーダの蓋となっているビー玉を押すと小気味良い音を立てて瓶の中へと沈んでいった。
    瓶の中でソーダはシュワ、と泡立ち、そして消える。

    「貴方は、この泡の様に消えたりしないでほしい」
    「アハハ!私を人魚姫か何かだと思ってる?」

    消えたりなんかしないよ、とバーソロミューは空いた手をパーシヴァルの手に添えた。
    突然のバーソロミューからの触れ合いに驚きつつも、パーシヴァルは精一杯冷静を装って手のひらを返し、指を絡めた。どうか、手のひらの汗には気付かずにいてほしい。


    完全に陽は落ち、辺りはいつの間にか街灯が灯されていた。
    バーソロミューと離れ難かったが、そろそろ帰路に着く時間となってしまった。手にしているソーダもパーシヴァルの体温で温くなり始めていた。

    「そろそろ帰ろうか、パーシヴァル」
    「あと五分だけ。……駄目、かな」

    バーソロミューは驚き、パーシヴァルのソーダ色の瞳をじっと見つめた。
    やはり我儘が過ぎただろうか。パーシヴァルは諦め、繋いでいた指を解いた。途端、強い力を込めてバーソロミューが手を握り直し顔を近付けてくる。少しでも動けば触れてしまいそうな距離にパーシヴァルの心臓は激しく脈打った。

    「嬉しいな、君からの我儘は初めてだ」

    バーソロミューの表情に嘘偽りなど微塵も見えなかった。今までバーソロミューの望む様に、繋いだ関係を手放さぬ様に、とそればかり考えていたパーシヴァルにとって、バーソロミューの言葉はまさに青天の霹靂であった。
    そも、パーシヴァルとしては恋仲になった時点で人生最大の我儘は叶えて貰っているつもりだった。

    「心配しなくても、私もこの関係を終わらせたくないと思ってるし、手を繋ぐ以上の事も可愛い恋人の我儘を叶えるのも、この先の全部を君としたいよ」

    まぁ、今はまだ時期尚早だとは思うけど、とバーソロミューは赤面しパーシヴァルから目を逸らした。じんわりと手のひらに汗が滲んでいた。パーシヴァルが彼自身のものであると感じていた手のひらの汗は二人のものだった。
    こんなにも愛されているだなんて思いもよらなかった。好いた相手からの直接的な好意を表す言葉がこんなにも心地よいだなんて知らなかった!

    「私も、全てを貴方としたい。いずれ、ね。……今日はもう帰ろう。随分と遅くなってしまった」

    パーシヴァルはすっかり温くなってしまったソーダを飲み干した。そうして、繋いだ手に力を込め立ち上がり歩き出す。
    帰路が分かれる数メートル先の曲がり角までもう少しだけ、どうか、このままで。



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