何度目の夢か「人間は嫌いじゃ…でもお主は…。」
少し寂しげな声が聞こえた。
「…またこの夢か。」
同じ夢をみる。
赤い桜の木の下でどす黒い血の池に沈む自分が見える。息ができず苦しくもがきながら沈んでゆく。
冷たい。
暗い。
苦しい。
死にたくない。
消えゆく意識の中、青白い手が俺の手を掴み、池の中から引きずり上げる。
「お主はまだ生きなければならん。」
誰が、俺を助けた?
聞き覚えのある声。
だが思い出せない…。お前は誰だ?
いつもそこで夢から醒める。
忘れちゃいけない。
思い出さなければいけない気がするがどうしても思い出せない。
何かとても大切な事を忘れている。
頭を抱えていると視線を感じた。
視線の先を見るとじっとソレが俺を見ていた。
「…起きてたのか。」
俺の問いに黙って頷くだけで何も言わない。
奇妙で不気味で妖しいこいつをあの時連れてこなければ、と何百回思ったことか。
でもなぜか殺せなかった。
なぜか抱きしめてしまった。
墓場から産まれたこいつを人間じゃないと知りながら連れて帰って一緒に暮らしている俺は、きっとあの時から頭が狂ってしまったんだろう。
手に絡んだ自分の白髪の髪の毛を見つめる。
あの村の記憶をこいつと引き換えに誰かが持っていったのか。
それ程に辛く苦しい記憶だったのか。
それとも楽しく輝き嬉しい記憶だったのか。
思い出せない今となっては、真実は分からない。
生き残ったのは、俺と…。
「鬼太郎。」
その名を呼ぶと俺の元へ駆け寄ってきた。
静かに俺は抱きしめた。
ひんやりと冷たく人間じゃないと感じる。
俺は鬼太郎と生きなければならない。
たとえ報われない絶望しかない世の中だとしても。
夢の中の誰かが、生きろと願ってる気がするんだ。
「お主が生きる未来。この目で見てみとうなった。」
どこからかそう聞こえた気がした。