モデキャス モーディスは深く溜息を漏らした。普段から制服のネクタイを締めない彼も、公の場ではそんな礼節に欠ける行動が取れる筈もなく、何度か袖を通しているモーニングコートを纏っていた。黒地のジャケットの中は同色のベストを着込み、白地のシャツの首元は黒い縞の落ち着いたネクタイをきっちり締めている。見た目を補正する為のサスペンダーやシャツガーターのお陰かシルエットはすっきりしているが、慣れぬそれは窮屈には違いなかった。ただでさえ気乗りしないこの状況、しかしモーディスを悩ませるのは別の問題がある。
視線の先、壁の花として給仕に勤しむキャストリスだ。彼女は淡い紫色の長い髪を持ち、髪の隙間から覗く少し尖った耳も、丸くて大きなアメジストのような瞳を持ち、ビスクドールのように人の目を惹く美しい少女ではあるが、彼女に声を掛ける男は一人もいなかった。
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