フラグじゃない!0
「ごめんね。夢野くんの気持ちは、とても嬉しいのだけれど」
申し訳なさそうに下げられた眉。冷たい印象にならないよう配慮された、曖昧な笑み。ばっさりと切って捨てるわけではないと言いたげな、ためらいを含んだ沈黙。
夢野は、絵に描いたようなリアクションを見せる男の、無駄に整った宝石級の顔面をじっと見つめた。
中王区内に設けられた、ディビジョンラップバトルの会場。そのバックステージの中でも極めてひと気がなく、薄暗い場所だった。
だが、素っ気ない灰白色の壁に囲まれていても、彼の持つ煌びやかさこそが、場の華となる。さすがは、シンジュクのナンバーワンホストといったところか。
ファイナルと銘打たれたディビジョンラップバトルの勝者が決まり、ノーサイドで観客たちに披露した最後の一曲も終えて、裏へ引き上げてきたところだった。チームの垣根を越えて盛り上がる面々をそっと見回して、人知れず声をかけた彼と共に、人通りの少ないここへ足を運んだ。
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