わがままのゆくえ わがままと名付けられる行為には、実に様々な種類がある。
「最近ずっとソイツにかまけてるよな、アンタ」
平板だが棘のある声が、ちくりとこちらを刺してきた。物言いこそ粗野ではあるが、その響きは実に涼やかだ。生まれ持った艶もあり、言葉遣いさえ整えれば途端に高い品格を備えるだろう。
そんな声の主を振り向けば、同じ寝台で眠っていた男が、その美しい細面に不機嫌さを滲ませていた。
「起きていたのか。少しも気が付かなかったぞ」
「だろうな。そんだけ、その板っきれにご執心なら」
「板っきれではない。タブレットという情報端末機器だ」
ラムダから借り受けているこれは、紙の本の数十ページ分にも満たない厚みでありながら、何百、何千、何万もの書籍に匹敵する情報を有している優れものだった。
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