日差しがじりじりと照りつける中、ヒトラーはザヴァツキ夫妻と並んで大通りを散歩していた。眠る赤子が乗ったベビーカーを押すクレマイヤーを横目でちらりと見れば、その横顔は初めて会ったときの青ざめたものではなく、堂々とした母親の顔立ちをしている。ザヴァツキも同様に、以前の情けない面影はすっかり消え、凛々しい印象を与えていた。何ヶ月か前までは、気になる相手に対して一歩踏み出す勇気すらなかったようなこの男が。ずいぶん変わったな、と、ヒトラーの顔に思わず笑みが浮かんだ。
夫妻からふと目を離すと、反対側の歩道のベンチに、呆然として空を見上げる男が座っていた。ヒトラーは、その男に見覚えがあった。大きな目、少し茶の交じった白色の髪、そして特徴的な口髭────。
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