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    キタハル

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    キタハル

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    半伝のつもりで書いてる半と伝 情操教育 いつか自分がいなくなった後も生きていけるようにという親や教師の愛があってほしい気持ちと、いつまでもループ時空で一緒にいてほしい気持ち、心がふたつある

    ##半伝
    #半伝

    花の名前「土井先生、見なさい、芍薬が咲き始めましたよ」

    忍術学園の薬草園で、丸いつぼみをほどき始めたシャクヤクを眺め、山田先生はふと顔を綻ばせた。シャクヤクといえば根から鎮痛剤がとれる薬草である。薬がご入用ですかと聞くと、山田先生は私を見て大きくて吊った目をきょとんとさせた後、表情を大きく崩した。
    「かぁ〜っ、あんた、情緒がない男だねぇ。そりゃあ学園にある植物はみな薬草ですけれど、せっかくの花を愛でないなんてもったいない。あたしは芍薬の花が好きですよ。すいと伸びた茎は凛として意志が強そうじゃあないですか。それでいて花は華やかで美しい」

    立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
    美人の例えに使う言葉である。山田先生がシャクヤクの花に誰を重ねているのかを、なんとなく想像がついた。あれは怒らせると怖いですがね、実に佳い女ですよ。わしの妻には勿体無い。正直、いつ振られるか、戦々恐々としとります。あれはわしの戦忍の技量に惚れてくれたんだから、衰えてはいられんのですよ。いつかの酒の席で、恥ずかしがり屋の山田先生が珍しく惚気を零したことを思い出した。

    「半助、今おまえ、わしが花を語るのを馬鹿にしとるだろ」
    「い、いえ、そんなことありません。山田先生が季節を楽しまれているの、いいなと思います」
    フユカイである、と言い出しそうな山田先生に慌てて言い訳をする。別に嘘ではない。山田先生の感情豊かに大きく変わる表情を見るのは楽しいし、それが喜楽の感情から起こるものならなお良い。山田先生は一見きつそうな顔立ちをしているが、中身は愛嬌のある人で、機嫌のいい時には歌を誦じたり鼻歌をうたったりする。私とて、隣にいる人の機嫌がいいのを嬉しく思えるくらいの余裕は持ち得ている。山田先生は私の顔を見て、私の無罪を認めてくれたらしい。ふぅんと声を漏らすと、話を続けた。
    「土井先生は好きな花とかないんです?薬効じゃなくてですよ」
    「薬草としてではなくてですか。あまり考えたことがなかったので、わかりませんね……。名前や姿形はわかりますけど……」
    「うーん,知識ばかりで情緒がないなぁ。花は毎年咲くのに。もったいない」
    山田先生はひげを生やしたあごをつるりと撫で、良い事を思いついたというように私の顔を見た。
    「あんたが良ければ、花見でもしませんか。なに、桜ばかりが花というわけじゃあない。忍術学園教師の先輩として、あんたに見どころを教えてやりましょう」
    こうして、山田先生引率・四季折々の花見会が始まったのである。

    額紫陽花。梅雨の時期。民間では葉や花を煎じ、解熱の薬に用いることがある。花の色は青や紫、赤などがある。咲き始めの白から色変わりをする様子から、七変化などとも呼ばれる。まあ梅雨といったら紫陽花ですな。お約束の安心感があります。この端っこのちょろちょろしたやつ気にならない?あと紫陽花は花もいいですが、生きる力がたいへんよろしい。人の背丈よりも大きい株を見ると感心してしまいます。

    桔梗。梅雨から初秋。根を薬にすると、鎮咳,去痰作用がある。花は主に青紫。丸いつぼみがぽんと咲くと、星型の花弁がさっぱりとして愛らしい。このつぼみをねぇ、つついてみたくなるもんですよ。まあ大人なんでやりませんけど。絵に描きやすそうな花の形もいいですね。これは派手でないところがいいですね、部屋に飾っても収まりがいい。学園長先生も茶花として愛用されてるんですよ。

    山百合。花期は夏。根を食用に用いる。また、薬とすれば滋養強壮,利尿,鎮咳作用をもつ。背が高く、漏斗状の大きな花を咲かせる。色は白。香りが甘く、強い。歩く姿は百合の花、なんて言うけど、百合って結構でかくて迫力あるよなぁ。あとここの斑点、ポツポツしてて気持ち悪くない?いや、好きですよ。でも美人っていうより、迫力あって強そうなところがいいんだよなぁ。

    竜胆。花期は秋。根の苦味は消化不良による胃もたれ,食欲不振に薬効があるとされる。晴天の時だけ開く青紫の花は鐘の口を上向きに向けて、人間の目を楽しませてくれる。色味も相まってすっきりと背筋を伸ばした様がうつくしい。咲いた花もいいが、つぼみもシュッとしていて感じでかっこいいよな。落ち着いた魅力といった感じだ。切花ももちがよくて、使い勝手がいいそうですよ。

    椿。花期は冬。冬も葉が落ちないどころか花を咲かせる低木で、種子から油を取ったり、葉や花を薬用にすることがある。葉は生のまま絞った汁を止血に用い、花は干したものを煎じて飲むと滋養強壮の効果があるとされる。冬に咲く花は正直それだけで目を引きますね。色も鮮やかで、雪が降ると一層美しい。まあ雪かきは面倒ですけどね。そういえば椿と山茶花の違いは知ってます?椿は花が丸ごと落ちるけど、山茶花は花びらがそれぞれ散らばって落ちるから、掃除が大変だって言ってた人がいましてね。山茶花の咲いた端からむしると楽な事に気がついたそうなんですが、花を見るために咲かせてるんじゃないかと思うとおかしくって。

    花見会への参加者は私一人の時もあれば、通りがかりの生徒たちや先生方を交えることもある。山田先生の花の楽しみ方は気さくであり、素朴で気取らない。雑談から話がそれていくことも多く、敷居の低さがありがたかった。

    福寿草が顔を出し、梅に桜と春の花が賑やかに咲き始める。桜の花見では菓子を食べ、酒の代わりに茶をすする。八分咲きといったところの桜の枝を楽しんでいると、山田先生に水を向けられた。
    「そういえばあんたと花を見始めて、だいたい一周した気がしますね。最初はまだ暖かかったから。なにかあんたの気に入る花はありました?」
    問われて考える。桔梗や竜胆の姿が思い浮かび、そう伝えると、へぇ、小振りの青紫の花が好きですか。なんとなく意外です。わしはあんたにゃ黄色や赤の大きな花が似合う気がしてたから。と笑って言われる。そういえば私の山田先生では花の趣味が結構違うかもしれない。どこが好ましく感じたのだろうと自問すると、紫の小袖を着た人の伸びた背筋が頭に思い浮かんだ。以前、芍薬の花を好きと言った時の山田先生の顔を顔を思い出す。私は今、どんな顔をしているのだろうか。

    ********

    ある日、職員寮の自室に戻ると、机の上に一輪の桔梗の花が飾られていた。飾るといっても、欠けて使われなくなった器に水を入れ、手折った花を差すという素朴さではあるが、空間に色を差しているので飾ると言っていいだろう。
    部屋におられた山田先生に、これが何だかご存知ですかと問うと、わしが摘んできたと言う。あんた、前に好きだと言っていただろう。桔梗の花の咲くのを見たら半助を思い出してな。使うのは根だし、一輪くらいいいだろと失敬してきた。山田先生はいたずらが成功したような顔で私に笑いかけた。
    覚えていてくれたんですか。数ヶ月前に話した雑談の内容を覚えていて、わざわざ私の好きな花を摘んで来てくれたんですか。あなたに似ているからという理由で好きになった花を、あなたが手ずから手折ったのですか。
    「はい、好きですよ……」
    そんなの、好きになってしまうでしょう。顔が熱い気がする。忍びでも、色に出にけり我が恋は。どうしたと問われる前にと、仕事を理由に山田先生に背を向けた。
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    キタハル

    DONE半伝のつもりで書いてる半と伝 情操教育 いつか自分がいなくなった後も生きていけるようにという親や教師の愛があってほしい気持ちと、いつまでもループ時空で一緒にいてほしい気持ち、心がふたつある
    花の名前「土井先生、見なさい、芍薬が咲き始めましたよ」

    忍術学園の薬草園で、丸いつぼみをほどき始めたシャクヤクを眺め、山田先生はふと顔を綻ばせた。シャクヤクといえば根から鎮痛剤がとれる薬草である。薬がご入用ですかと聞くと、山田先生は私を見て大きくて吊った目をきょとんとさせた後、表情を大きく崩した。
    「かぁ〜っ、あんた、情緒がない男だねぇ。そりゃあ学園にある植物はみな薬草ですけれど、せっかくの花を愛でないなんてもったいない。あたしは芍薬の花が好きですよ。すいと伸びた茎は凛として意志が強そうじゃあないですか。それでいて花は華やかで美しい」

    立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
    美人の例えに使う言葉である。山田先生がシャクヤクの花に誰を重ねているのかを、なんとなく想像がついた。あれは怒らせると怖いですがね、実に佳い女ですよ。わしの妻には勿体無い。正直、いつ振られるか、戦々恐々としとります。あれはわしの戦忍の技量に惚れてくれたんだから、衰えてはいられんのですよ。いつかの酒の席で、恥ずかしがり屋の山田先生が珍しく惚気を零したことを思い出した。
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