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    キタハル

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    キタハル

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    半伝 デートしてほしくて書き始めたら二人してトレイルランニングに出かけてしまったので、トレラン雑誌読んで付け焼き刃して無理矢理書きました。ランの人は大目に見てくださると助かります。特にオチはない。デートしてほしかったんだ

    ##半伝
    #半伝

    山頂でおにぎりを食べる「デートがしたいです!」
    「デート、ねぇ」

    お茶を飲み和む休憩時間に、前のめりに勇んで言うと、あんまり気のない返事が返ってくる。教師陣の今月の勤務予定表が出て、山田先生の一日休みに珍しく、私の休みを被せることができそうだったのだ。忍術学園は愛と正義のホワイト企業の雰囲気を出しつつも、その実まあまあブラックだ。いや、学園長先生の思いつきに振り回されている時点でホワイトも何もないかもしれないが。授業のない日も事務や準備などの仕事ははみ出すし、教師陣は学園の警備員を兼ねているところもあるので、好き勝手に休むわけにはいかないのだ。いや、安藤先生などは器用に勤務時間内に仕事を終わらせているらしいので、やはり突発的な対応が多いせいかもしれない。つまりだいたい学園長先生のせいなのだ。三割くらい。失礼ながら。
    「あんまり気が乗りませんか?」
    「いや、そういうわけじゃないんだが、職場でずっと一緒にいるのにわざわざ一緒にどこかに出かけんでも、とは思ってしまうなぁ」
    「職場で一緒も嬉しいですけど、私はデートがしたいんですぅ」
    口を尖らせて子供のように手足をバタバタして見せると、みっともないからやめなさいと嗜められる。
    「前に巫女舞を一緒に見に行ったじゃない」
    「あれは結局楽しかったですけど、半分女装の所作の研修だったじゃないですか」
    伝蔵さんじゃなくて伝子さんでしたし。私も半子さんでしたし。私は伝蔵さんとデートがしたいんです。そう言って頬を膨らませて見せると、膨らませた頬をつつかれる。
    「ふぅん、じゃああんたどこに行きたいんだ?」
    「そう言われると、自分が何も考えていなかったことに気がつきますね」
    「阿保。いや別にいいですけどね。休みの日ね、わしは走りに行きたかったんだがなぁ」
    「えっ、予定があったんですか」
    「予定というほどしっかり考えていたわけじゃないから別にいい。いや近頃いい気温になったでしょう、外を走るのにいいと思ったら、一日がかりのランニングをやりたくなって」
    「山田先生って元気ですよね」
    「どうだ、一緒に行くか」
    「えっと、待ってください、さっき一日がかりって言いました?どこまで行かれるおつもりで?」
    「裏裏山まで行こうかと」
    「人間って一日で裏裏山まで往復できるんですか?」
    「忍者にとっては日の出てない時間も活動時間だからな」
    この人は本当に一日がかりで走るつもりらしい。年齢は私の方がずいぶん若いはずだが、体力勝負をしたら勝てるかと言われると全く自信がない。ぐぬぬ、と黙り込んでしまった私に、なぁんだ、行かないのか、一緒に行きたかったのに寂しいなぁー、などとわざとらしく軽口をたたいてくる。
    「裏山までまけてください」
    「うん?」
    「ご一緒したいです、ご一緒させてください!でも裏裏山までだと楽しく走れる自信がないので裏山までにまけてください、私、遊山がしたいです!」
    「遊山ね、まあこの時期は花なんかも楽しいからな。早い時間から出かけるが、構わんか?」
    そういうことになった。かくしてデートがしたいという可愛いわがままを言ったせいで、休みの日に一日がかりで走るはめになったのである。


    「とは言ってみたけど、まあ普通に楽しみなんだよな」
    自分からは行楽として出てこない案ではあるものの、体を動かすのは嫌いではない。得意か不得意かと言われたら、得意な方だと思っている。いつも一緒にいるのが実技担当の山田先生であるため、比べるとどうしても劣ってはしまうものの、忍者としての体力・体術に特別不足を感じたことはない。手裏剣よりチョークの方が馴染みがあるというのはあるけれど。例えば安藤先生と比べたら、私の方が数段優れているのではないか、と自惚れているところすらある。いや、あの人の本領は体術ではないし、安藤先生が戦っているところ、ほとんど見たことないけれど。
    予定日までの間、少しだけ走ってみることにする。万が一、足を引っ張るようなことになったら申し訳ないし、これでも好きな人の前ではかっこつけたい気持ちもあるからだ。山田先生は朝ラン派であるが、私は朝は少しのんびりしがちなので、夕方、こどもたちとの授業が終わった後に、広大な学園の敷地内を走ることにする。仕事と私生活の区切りになって気分が切り替わるので、思いの外楽しかった。一日の疲れを、汗と砂埃と共に洗い流す風呂も爽快だった。これは新しい習慣として取り入れるべきかもしれない。
    遊山を兼ねるのであるからと、当日の弁当に思いを馳せる。走るのであるから、当然重箱などは持っていけない。仮に持って行ったとして、上下左右に揺らされた弁当が悲惨なことになるのは、火を見るより明らかだった。冬を越えて生命力を吹き返した裏山には清水の川も流れ、いざとなれば食べられるようなものはたくさんある。とはいえ遊山なので、弁当はほしかった。やはり握り飯だな、と一人納得する。多少形が崩れたところで問題はないし、やはり米は体力になる。具は何でも美味いのだが、塩気を多く摂れるように多めの味噌にしようか。予定を心待ちにして思いを馳せる時間も楽しかった。


    「晴れたな」
    「いい天気ですね」
    私の日頃の行いのおかげですかね、と軽口を言うと、そうかもしれないな、と流される。二人して出門票に記名して、目的地へ向かう。昨日の夜に話を聞いた予定だと、裏山の頂上まで、一番走りやすい道で、行って帰ってくるだけのルートである。一日中走るつもりだった山田先生の、元の予定からしたらかなり行楽寄りになっていて、少々申し訳ない気持ちになる。
    「物足りなかったらすみません」
    「いや、たまには人と走るのもいいなと思って」
    わしも楽しみにしていたんだ。笑顔を見せられて、私も嬉しくなる。出発前に脚を中心に、筋肉を伸ばし、動かして軽く温める。山田先生は仕事以外でもほぼ毎日体を動かしているのだから、準備運動など必要なさそうな気がしてしまうが、そういうところを怠らないのがプロっぽくてかっこいいなと思う。山田先生が、タッ、タッと軽く地面を蹴る。
    「じゃ、行こうか」
    軽やかな走り出し。忍務ではないから、別段足音を抑えたり、逆に一般人のように装ったりはせず、ただ走りやすいように走る。その背中を見ただけで、体幹が優れているのがわかる。かっこいいんだよな、とふと笑って、その後ろについていく。早朝の涼しい空気が頬に当たって気持ちいい。なだらかな道から木々の茂った山道に入る。冬の間は葉を落としていた木も、枝に新しい葉を育てている。柔らかくて、食べたら美味そうだ。息が弾む。ただ走るのは、なんというか、結構楽しい。それに山の中を走るのは、毎日見慣れた学園内を走るのとまた景色が違って面白い。
    「そういえば最近、夕方走ってたな。どうだった」
    「はい、やってみたら思いの外楽しくって……、習慣にできればいいんですが。朝にご一緒できれば一番いいんですけど」
    「はは、半助が起きるのを待っていたら、朝飯の時間になってしまうな」
    いわく、歳を重ねると朝が早くなるらしい。では昔は早起きではなかったのですかと聞くと、若かりし頃は起きてはいたが眠かったと帰ってくる。朝眠そうな山田先生とか、今では想像が及ばない。
    勾配がきつくなる。山田先生は変わらず一定の速度で軽々登るが、私の方はそれが続くと少しばかり呼吸が荒れる。走り方の違いだろうか、心肺機能の差だろうか。ちょっぴり悔しい。山道の傍に咲く花々を、一瞬一瞬で楽しみながら走る。体温が上がって、汗が流れる。
    「半助、先に行くか、道はわかるだろ」
    「すみません、そうさせていただきます」
    自分のペースで走れるようにと、先に行かせてもらう。背中を追うのも楽しいが、山田先生が私に遅れることは万に一つもないだろうという安心感もいい。どうやら知らぬ間にペースが乱れていたらしい。自分の足運びに戻すと、ぐっと楽になった。

    川沿いで給水を兼ねて休憩をとる。山田先生が川の水でバシャバシャと無遠慮に顔を洗うのを見て笑い、同じように真似てみる。川の水はまだ冷たくて、火照る頬に気持ちいい。山田先生が持ってきた羊羹を分けてもらい頬張ると、甘いものが実に体に沁みる。生き返るような心地だ。
    「実際にこうやって走ってみると、思いの外疲れますね。うっかりペース配分を間違えると言いますか」
    「あんた器用ですぐ覚えるから忘れてたけど、割と人と一緒に行動するの不得意だよな」
    「お、お恥ずかしい」
    「いや、子どもたちもおらんで仕事でもなく一緒に走るのなんて、もしかして初めてくらいじゃないかと思ってな」
    結構長年一緒にいるのに、まだやっとらんことがあったんだなぁ、と面白そうな顔で言われる。そう言われるとそうだ。同じクラスを受け持つ教師で同室なので、一緒に行動することがかなり多いのだが、こうやって休みの日に共に出かけるのは珍しいかもしれない。山田先生にも人付き合いはあるのだから、あまり私ばかりが独占するわけにはいかないのだが、やはり嬉しい。
    「涼しい顔してますが、山田先生はもう走るのは慣れたものって感じですか?」
    「まぁ、長年やってると、体が楽な動きを覚えるからなぁ」
    長年と言うが、山田先生の身体能力は習熟もかなり早い。例えば新しい武器を手に入れて、彼がだいたいわかったと言えば、それは本当にだいたいわかっているのである。火縄銃やはじき玉、印字打ちの腕はもちろん、手裏剣や忍び刀のような基本的な道具から始まり、扱いが難しいとされる武器まで、山田先生は難なく使いこなす。六年生が扱う武器なども、ご本人はまだまだだと言うが、生徒に指導ができる水準で扱うのだ。いや、忍び熊手だけは何故かご自分のおしりに刺さったことがあったりはしたが。
    「じゃ、そろそろ行こうか」
    「はい」
    再び走り出す。視界を流れる新緑の柔らかい色が気分を明るくしてくれた。


    「ヤッホーーーー!!!」
    「土井先生、聞こえますよ」
    「えっ!?」
    「まあ誰も気にしないとは思うが、割と響きますよ、生徒たちが叫んでるの、裏裏山とかで聞こえます」
    「すみません、テンションが上がってしまって」
    山頂に到達するや否や叫ぶと、横からそっと注意が入る。ハアハアと息を吐きながら、自分が頬を張ってニコニコ笑っているのがわかる。走るのはなかなかクセになる。頭がぼんやりするような、すっきりするような、不思議な心持ちだ。山頂というわかりやすく爽快な終着点があるのもいい。山田先生がわざわざ休みの日に走りに出かけるのも、少しはわかるというものだ。
    「まあ、叫びたくなる気持ちはわかりますけどね」
    山田先生が額の汗を拭う。そういえば、口調がですます調になっている。私を引率する教師の気持ちになっているのかもしれない。さすがにはしゃぎすぎたか。
    「いい天気だなぁ……」
    「ほんと、景色も良くて、風が気持ちいいです」
    「さて、山頂で飯を食べたいというから任せてしまったが、忘れちゃあいないだろうな」
    「もちろんです!食堂のおばちゃんに炊いてもらったお米で、私が握りました!」
    元々上手くもなく、更に荷物の中で振り回されて形のひしゃげたおにぎりを差し出した。山田先生が目を丸くする。
    「でかいな」
    「運動後のご飯なんて、いくらでもあっていいと思いまして」
    「それはそうだ」
    山田先生が笑う。私の手のひらで、しっかり大きめに握った握り飯が、一人二個。おかずの類がないのだからそれぐらいでいいだろうと思ったが、改めて見るとなかなか張り切った大きさである。
    「じゃ、いただきますよ」
    「はい、いただきます」
    むしゃりむしゃりと米を頬張り咀嚼すると、馴染みのある味が口の中に広がる。ごくりと飲み込んでしばらくすると、じんわり胃から温かくなった。
    「身に沁みるなぁ」
    「本当ですよね」
    「米も沁みるが、味噌も沁みるんだよな」
    「そう、そうだと思って味噌味にしてみたんです。味噌汁なんかあったら最高なんでしょうけど、荷物は軽くしたかったので、握り飯の具でどうかなと」
    「うんうん、頭がいいぞ、いい子だ半助」
    冗談混じりに褒められて、遠慮なく得意な顔をしておく。次があったら今度はただの味噌じゃなくて、葱や梅を混ぜてみようか。弁当じゃなくても、普段の夜食に握るのもいいかもしれない。雑談を挟みながら食べていくと、思いの外あっという間に二個とも食べ切ってしまう。他に誰もいないのをいいことに、行儀悪くごろりと横になった。木々の間から見える青空がきれいだった。山田先生が面白がって歌を口ずさむ。声を聞きたくて、目を閉じる。眠ってしまいそうになるくらい、心地が良かった。

    ********

    「さて半助。山は下りの方が事故や怪我を起こしやすい。まあ、あんたなら心配いらんと思うが、十分気をつけるように」
    「はい。帰った後の風呂が楽しみですね」
    「あんまり先のことを考えてると、うっかり足元を取られるぞ」
    「は、はい、気をつけます」
    「まあ、わしもそれは同じなんだが」
    山田先生がふいと顔を逸らす。何かあったのかな、と顔を覗き込むと、視線だけこちらに寄越された。
    「難しいかもしれんが、また一緒に走りに来ようじゃないの。今度は裏裏山まで。楽しい時間は、長い方がいいからな」
    はい、と笑顔で答える。恥ずかしがり屋の山田先生はくるりと背を向けて、さっさと先に走り出してしまった。
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