羽根 薄い靴底の下で固く柔い何かが潰れた。足裏の皮膚が粟立つ。虫を踏み殺してしまったらしい。
幼子が気付けば酷く嘆くだろう。
しかし、水木が足を止めることはなかった。戦地で足を止めること、行軍を乱すことを、許されたことはない。だからこの足は藪の下に咲く野花を踏み、土竜塚を蹂躙し、珊瑚礁に切り裂かれ、人の死体を踏み越えようとも機械的に進行を続けた。
その先が死地と知ってなお。
水木は眼前の濃緑を睨みつけた。掻き分けても掻き分けても、葉の重さに頭を垂れた木の枝や鋭利な葉を惜しげもなく身に付けた笹竹が、視界を塞ぐ。その先を垣間見ようとしても繁った森の中は奈落のように暗く、閉じている。
足下に視線を落としても路はない。当然だ。獣道じみた林道からはずれて既に数時間は経っている。
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