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    #ディズムの1072 妄想文。全8ページ。シナリオ・NPC・セッション全てネタバレです。

    #ディズムの1072
    1072OfDism.
    ##SS

    うつくしい予感 予感が、あった。
     いつだって先生は、あたしの知らないことを教えてくれるから。

     * * *

     最初で最後のデートだっていうのに、先生は早々に頭を打って、記憶を飛ばしてしまった。せっかく特別扱いしてもらってるんだから、どうせなら海で一緒に遊びたかったなあ、とか思わなくもないけど、まあ、辛気くさいよりはいっかと思い直す。いろいろ混乱してる先生をなんとかホテルにひっぱって、冷蔵庫を開けた。好きな人に手料理をふるまう日が来るなんて思わなかったからちょっと緊張する。でも、自分でも自信をもって言えるくらいには料理が得意でよかったって思う。先生にはいっつもダメなとこばっかり見せてたから、これで少しは見直してもらえるかな。
     自分を信じられないでいる先生とわちゃわちゃケンカをしながらも手際よく腕を振るう。料理の合間に、ソファに座って居心地わるそうにしてる先生を見つめたりして勝手に照れた。これってまるで夫婦みたいじゃない?うれしい。
     お酒を飲む、飲まないでまた先生ともめたけど、とうとう「俺も飲まないからお前も飲むな」って言われちゃった。きっと記憶があったとしても同じことを言いそうだし、無理言ってきらわれちゃってもいやだから、しょうがなくノンアルのシャンパンでガマンする。先生はこんなときにも理性的で、正直めんどくさいこともあるけど、でも、そこが好き。子ども扱いはいやだけど、あたしを大事に思ってくれてるのがわかるから。
    「いただきます」って食べ始めた先生の反応が気になってしかたなくて、「美味いよ」って言われてテンション上がって、だから、もっともっと褒めてほしくて調子にのってしまった。
    「毎日食べたい?」
    「それどういう意味だ!?」
    「まいにち食べたいっ?」
     こんなこと聞いたってあたしに先生との毎日なんてこないのにね。あわよくばプロポーズ的な言葉を聞けないかなって思って、自分でも目がキラキラしてるのが分かった。
    「……そらこんなに美味いなら、毎日食えたらいいけど」
     あたしの圧に負けたのかもしれないけど、先生がそう言ってくれたことが嬉しくて、うれしくてうれしくてたまらなかった。毎日食えたらいいなんて、ホントにプロポーズみたい。
    「ありゃりゃりゃー!そっかー!!!」
     変な声を上げて喜んで、「糖尿になる」とか変なこと言ってごまかす先生がすっごくすっごく可愛くてニヤニヤして。後でぜったい悲しくなるに決まってるのに、そんなのもどうでもいいって思えるほど嬉しくて、先生が優しくて幸せで、今言ったことが全部ホントになったらいいのにって思った。思ったっていうか願った。心の中で祈って、舞い上がるなって言い聞かせて、でもこの幸せの余韻にずっとずっと浸っていたかった。

     * * *

     楽しかったときはあっという間で、先生はとうとう記憶を取り戻しちゃった。
    「平気なのか」
     なんて、ザンコクなことを訊く先生。家族や友達からもう何度も訊かれてるからちゃんと答えられるけど、こんなの、どう答えてもダメな質問じゃん。あたしよりも先に死にそうな顔してる先生にどうしようって思ったけど、やっぱり、先生の前ではいい子でいたい。ぼんやり笑って、もう何度もした説明を先生にも言って、これはつまり、先生の言ってた『実感』ってことだよなあなんて考えた。あたしが死ぬと世界が助かる。お母さんたちも、先生も助かる。その世界にあたしの居場所はどこにもないんだなって思ったら泣いちゃいそうで慌てて考えるのをやめた。こんなこと、実感したくなかったな。
    「なんで俺なんだ?」
     いじわる。
    「それ言わせるぅ?」
     ヘラヘラ笑って言ったけど、先生の前なのに、上手に笑えなくなっちゃったかもって内心焦った。どうかな、笑えてるかな。ダメだろうな。先生、ますますひどい顔になっちゃった。
    「なんで……毎日料理食べたいなんて訊いたんだ」
     そんなこと言われても、先生の言葉が聞きたかったんだもん。傷つかないで。あたしは平気だから。お願い。
    「言ったら……その、プロポーズとか来るかなあと思って」
     わざと大げさにリアクションを取ったら、先生も乗ってくれた。よかった。
    「あたし的には罠を張ったつもりだったのにー」
    「先生大人だからな、お前が今日限りの命だろうと、今日明日で死ぬって分かっていようと、お前の言うこときいたりはしないからな」
     そう言っていつもの先生に戻ってくれて、あたしはようやくホッとして、また前みたいに笑えてる自分にもホッとした。
     ありがとう先生。好きだよ先生。さよなら先生。へーキヘーキ。これであたしも、いつも通りにお別れできるよ。
     
     * * *

    「千夏」
     最期の一日をめいっぱい遊んで、寂しいとか悲しいとかよりやりきったーたのしかったー!って気持ちでいっぱいになってたら、おもむろに先生が「未練はないか」とか聞いてきて、そんなんあるに決まってるじゃん!って怒ったら、大学行かなきゃなって。あたしは大学より先生と乾杯がしたかったけど、先生がめちゃめちゃ嬉しそうだからもうそれでいいかってなった。
     そしたら急にバタバタしはじめて、電話で難しい話して写真送ってくれだの言ってきて、そんでなんか考えてたかと思ったら、いきなり名前で呼ばれてびっくりした。
    「んじゃいくぞ」
     名前で呼んでくれたー!なんて喜ぶまもなく、手を握られる。
    「何が!?」
     先生の顔を見上げて、さらにびっくり。なんか先生、いきいきしてる。先生のくせに、かっこいい。
    「やれるだけやってみよう」
     よくわかんないけど、覚悟が決まった顔?ってこういうのを言うんじゃないかな。それになんか、妙に楽しそう。
    「わかんないけど、うん!」
    「まあ、信じてくれよ」
    「ずっと信じてるよ」
     先生を信じてなかったことなんて、一回だってない。変な先生。おかしくて笑ったら、先生も少しだけびっくりした顔をして、笑ってくれた。
     
     * * *

     予感が、あった。
     先生はいつだってあたしの知らないことを教えてくれたし、あたしのことをあたし以上に大事にしてくれた。ただ残念なことに、あたしはいつもそれを上手に受け取れなかった。成績もよくなかったし、先生の言うこともろくにきけなかった。それでも。そんなあたしのために先生が頑張ってくれたから、今、こうして生きている。
    「受験終わったらな」
     どうせまたかわされてしまうんだろうなって思いながら言った言葉を、先生は見事に受け止め、あたしに特大の生きる希望を与えてくれた。あの先生が。あたしと!
     それなのに立ちはだかる受験がにくい!!!!
     先生と結婚できるかもしれないってことと、その前の受験があまりにも大きな壁すぎて泣いていたら、先生は笑ってあたしの頭を撫でてくれた。撫でたっていうか、ぐしゃぐしゃにしただけだけど。単純なあたしは、たったそれだけでむくむくやる気がわいてきた。
    「せいぜい頑張れよ。先生の人生もかかってんだからな」
    「任せて。助けてもらった分、絶対に幸せにする」
    「おう。よろしく頼むわ」
     どこか吹っ切ったような顔の先生に、満面の笑みで応える。
     やっと先生の言う「生きてる実感」が分かったような気がした。
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