妖精の薬指「お待たせしました!」
「いえ、今来たばかりです」
業務が少し長引いたおかげで、恋人との待ち合わせに数分遅刻してしまった。優しい彼は、気にすることなど何もないという風に微笑んでくれる。
「よかった……あ、服装ってこれでいいかな?」
おしゃれなお店で食事をするに、ふさわしい格好だろうか。濃紺色のワンピースの裾を軽くつまみ、ちらりと彼を見上げてみる。すると、深い緑の瞳がキュッと細められた。
「ええ、非常に愛らしい……このまま攫ってしまいたいほどに」
「えっ! えへ……ありがと」
想像の倍以上の賛辞に、一気に頬が熱くなった。それを隠すように早く行こうと広い背を押せば、ケイローンはクスクスと可笑しそうに笑う。軽口を交わしながら、近くに停めてあった車に乗り込んだ。
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