夢 夢というのは一説によると記憶の整理や無意識の願望の表れだという。
ではこれは自分が密かに抱いている願望なのだろうか、と澄野は戸惑った。
「い、今みた夢って……」
時刻はまだ朝のチャイムすらも鳴っていない朝方。澄野にしては珍しく早く目覚めたようだ。
未だ心臓がドキドキとしている。
それぐらい澄野にとっては衝撃的な夢だった。衝撃的で、甘いひと時だった。
「お、俺…面影と……」
先程みた夢を思い返す。
澄野が面影の手を取り指を絡めると、面影は頬を赤く染め熱い視線でこちらを見つめてきた。
『澄野くん……』
いつも澄野をからかう時とは違い、甘く蕩けるような声でこちらを呼ぶ面影。緊張と期待でしおらしくしている面影の姿に澄野は強く惹かれていく。
可愛い、と思ってしまった。夢の中の面影が可愛くて可愛くて仕方がない、とどうしようもなく愛おしく感じてしまった。
繋いでいない方の手を面影の頬に添えると面影はそっと瞳を閉じた。小さくすぼめられた唇が妙に艶っぽい。
『面影……』
甘く蕩けるような雰囲気に溶けていくように、面影とキスを交わしたところで澄野は目覚めた。
「夢の中の面影、可愛かったな……」
夢の中の面影の反応を思い出し、澄野の心は切なく締め付けられる。夢と同じ事をしたいと強く思ってしまった。
「俺…面影のこと好きになっちゃったのかな……」
改めて口にだしてみると澄野は恋心を一気に自覚してしまった。面影に会いたい、面影と話したい、面影に触れたい。頭の中がそんな考えばかりで溢れてしまう。
「あー、もうクソっ……」
未だ朝のチャイム前だが二度寝をする気には到底なれなかった。
「……薬品室で戦闘用の薬の補充でもしてこようかな。いや、決して面影に会えるかもとか期待してるわけじゃないけど!」
誰もいないはずの自室で言い訳をしながら澄野は薬品室へと向かった。