💎成オリ病院のコンビニの近くのソファーで時間をつぶす奈津緒と佑(佑と佑ママが病室にお見舞いに来ており、話をする両親に飽きて2人で院内をうろうろしている)
「今度〇〇が野球教室するから、奈津緒もうちの枠で参加しろって監督が言ってた」
「まじで?行く」
「…奈津緒さ、チーム辞めたの後悔してる?」
「……」
奈津緒はすぐに答えは出さず、怒ってはいないがどこが寂しそうな複雑そうな顔を見せる。現状奈津緒が置かれている状況でも、少々無理を通せばオリオンズに在籍し続けることができるのではないか。奈津緒が野球を辞めてしばらくたった今でも、佑は考えずにはいられなかった。
奈津緒は一度出した結論を簡単に変えることはしない奴だと分かっているのに。佑は奈津緒から顔を反らし思わず俯いた。
「……ごめ」
「後悔してる」
「え」
奈津緒の口から予想外の言葉が飛び出し、佑は思わず顔を上げた。後悔している、その言葉とは裏腹に奈津緒は腹をくくったような真っ直ぐな目で佑を見つめていた。野球を辞めると佑に告げたあの時のことを佑はフラッシュバックする。佑は困惑しながら奈津緒の言葉を待った。
「でも、もし家族に何かあったら、多分オレ一生後悔すると思ったんだ」
「……うん」
「何であの時一緒に居てあげられなかったんだろうって」
佑は知っていた。奈津緒はこういうヤツだって。真っ直ぐで、折れなくて、ただただ優しいヤツだって。知っていたのに。
それでも佑は諦められなかったのだ。同じ高校に行けるなんてもとより思っていなかった。
「佑、一緒に野球できなくてごめん」「ごめんな…」
幼稚園からずっと一緒に野球をやってきた日々を思い出す。
負けた悔しさも、レギュラーもらった時の喜びも、勝利の高揚も。幼なじみとして分かち合ってきた楽しい思い出が沢山ある。
佑は奈津緒から顔を反らした。喉がひりついて奈津緒に返事をすることもできなかった。固く結んだ唇の横の滑らかな頬が光るのを、奈津緒は只々眺めていた。
奈津緒と一緒に野球をしたい。ただそれだけだった。