黄朱の子 この里からけして一人で出てはならない。小さな頃に歩けるようになって以来口が酸っぱくなるほど大人たちにそう言われてきたのに、言いつけを守らず出てきてしまったことを少女は生まれて初めて後悔した。これまでも一人で里から抜け出して虫を捕まえたり、花や実を持ち帰って遊んだりしてきた。忙しい大人たちは自分の脱走に気づかなかったし、危険なことも起こらなかったから彼女はすっかり油断していた。
しかし今回ばかりは悔やんでいる。突然目の前におりてきた褐狙が今にも自分に襲いかかろうとこちらを見ている。大人の狩りに付いていった時、あれが老人を切り裂き食いちぎるところを見たことがある。それを尻目に必死に駆けて逃げきった。卑怯なことをしたわけではない。それが黄海で暮らす者の処世術だ。より生き残る可能性が高いほうが可能性の低いほうを犠牲にして生き延びる。それだけだ。
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