子虎たちのまどろみ 孫尚香はうんと伸びをしながら、人気のない庭に来ていた。武芸の稽古ならばまだ楽しんでいられるものの、裁縫やら料理やらと望まれるのは少し窮屈だった。少し息抜きをしよう、と踏み入れた先には、先客の姿があった。庭の木によりかかって座っているのは、自分の二番目の兄の姿だった。片膝を曲げて、その上に書簡を立てかけている。
「権兄様」
と、声をかけようとして尚香は足を止めた。孫権はこくりこくりと船を漕いで眠っていた。尚香はくすりとして、その隣に座り込んだ。書簡を覗き込むと、何やら難しそうな書を読んでいたのが伺える。なんだ、権兄様もきっと気分転換に来ていたのね。風がさらさらと木の葉を揺らす音を聞き、尚香は欠伸をした。そろそろ戻らなきゃ、探しに来られたら兄様も一緒に小言を言われてしまうかも。そんなことを思いながらも、尚香は兄の肩に頭を寄りかからせた。
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