ハグ 最近どうも悟飯の様子がおかしい。
「悟飯くんに何かしてあげたい?」
「あぁ、どうもストレスを溜め込んでいるようでな」
神殿にやってきては楽しそうに振る舞うが様子がおかしいことくらいこの俺でも気がついていた。
そんな弟子に何かしてあげたいと思いブルマに尋ねたが少し悩んだ末おかしなことを言い出した。
「――じゃあハグでもしてあげたら?」
「はぐとはなんだ」
無知な俺に呆れを隠せない様子のブルマだ。
「要は抱きしめてあげたらいいのよ」
「そんなことでいいのか?」
「悟飯くんからしたら"そんなこと"ではすまないのよ」
「???」
ブルマが何を意図しているのかわからないがそんなことでストレスは発散できるのだろうか。
「7秒よ」
「え?」
「7秒間じ〜っくりハグしてあげると良いわ」
「何故?」
「脳からオキシトシンっていう幸せホルモンが分泌されるの。さぁ、思い立ったら吉日!つべこべ言わずに行ってきなさい!」
半強引にブルマに追い返されてしまった……。
しかしそんなことで悟飯の力になれるのだろうか。
◇
「ピッコロさん!急にどうしたんですか!?」
部屋の窓を覗き込むと悟飯はすぐに俺を出迎えてくれた。
「お前、今時間は?」
「もちろんありますよ!なくてもピッコロさんのためなら作ります!」
「そうか、では少しこっちに来い」
「え?」
戸惑っている様子の悟飯の腕を引っ張って強引に抱きしめてやった。
「え!?!?ちょ、な、ななな、何して」
「まだだ悟飯。暴れるな」
腕の中の悟飯の体温はみるみる高くなっていく。本当にこんなことで意味があるのだろうか、疑問に思いながらもそれを続けた。
「ちょっ!!ピッコロさんっ!?!?」
「あと3秒……」
「……っ!?……ちょっと……本当に……!」
「2……1……よし!……どうだ悟飯!」
腕から解放された悟飯は目をぐるぐるの回していた。
相当窮屈だったのだろうか?
「そんな……ドヤ顔されても……はぁ……」
「……悟飯?」
「……もう……何なんですか急に……」
「?お前、少し顔が赤いぞ?やはり熱でも……」
「ち、ちがいますよ!ピッコロさんのせいです!」
俺のせい?ブルマに言われた通りやったつもりでいたが、間違えたやり方をしてしまったのだろうか。
「す、すまない」
一息ついた悟飯は尋ねてきた。
「……どうしてこんなこと急に」
「お前が、最近ストレスを溜め込んでいる様子だったから何か俺にできることはないかと思いブルマに聞いたんだ」
「えっ……ブルマさん僕のこと分かっててわざと……くそ〜〜やられた!」
「どう言う意味だ?」
「いやっこっちの話です。と言うか僕別にストレスなんて溜め込んでいないので大丈夫ですよ!」
悟飯はそう言うが俺にはどうも最近様子がおかしく見えるのだが……。
「……なら良いんだが」
「あー……でも、こんなこと僕以外にやったらダメですからね?いいですか!?」
「……そうなのか?」
「そうです!」
悟飯が何を必死になっているのかはよくわからないが首を縦に振ると安心したようにまた笑った。
まぁ、こいつの笑顔が見れるならそれで良いか。
「あ、あの、もしストレス溜まったらまた今みたいにやってくれますか?」
「ああ、任せておけ」
「……ふふ……ピッコロさんって本当に……なんて言うか」
「なんだ」
「え!?あっいや、なっ何でもないです!」
悟飯の様子は相変わらずおかしいままだが……元気そうな姿を見て安心した。
……俺の心配のしすぎだったのかもしれないな。
◇
「なんてこともありましたね〜!」
「何をニヤニヤしていやがる」
軋むベッドの上で悟飯は突然昔話をしだす。
「あの時はほんとにびっくりしましたよ。爆発しちゃうんじゃないかって思いましたね」
「なぜだ?」
「だって僕はあなたへの恋心を拗らせていただけなのに、あんなことされたら逆効果っていうか」
あの時の俺が"ストレス"だと勘違していたものは悟飯曰く"恋心"だったらしい。
「……そうだったのか……しかし恋心というのは今だによくわからんな」
「えー……?僕とこんな関係になって、毎日こんなにエッチな事までしてるのに?」
「っ!……そ、それはお前が求めるから!」
「僕が求めなかったらしないんですか?」
「そ!!……そんなことは……言ってない…………だろ……」
「ふふっピッコロさんかーわいいー♡」
「バカにするな!!!」
どうもこの手の話になると悟飯のペースに乗せられてしまう。
「じゃあ今度は僕からね……おいで?ピッコロさん」
「……」
操られたように無言で悟飯の胸に顔を埋めると、俺の身体は爆発しそうなほど熱くなるのがわかる。
……そうか、あの時の悟飯もこんな気持ちだったのだな。
「さっき恋なんて今だにわからないなんて言っていたけど、本当に?」
「…………」
「……僕のこと、好きじゃないの?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ好き?」
「…………」
軽く首を縦に振ると、今度は無理やりベッドに押し倒される。
「……ふふっ……あの時ハグされた僕の気持ち、わかった?」
「……ああ……体が熱って、今にも爆発しそうだ」
俺は照れながらも正直にそう言っただけなのに悟飯はというと超サイヤ人へと変身していた。
「はぁ……ピッコロさん、本当に煽るのが上手だよね……今日は朝まで付き合ってもらいますからね♡」
眼鏡を外すのを合図に額と額がぶつかった。
「……!?……お、おい、ごはん、落ちつ……んんっ」
あの時だったら考えられないキスの嵐……その行為に、俺の思考はどんどん溶けていく……。
「ご、悟飯……」
「すきだよ、ピッコロさん♡」
そう言って悟飯はまた俺にハグをした。
それ以上のことをこれからするというのにこんな事すらドキドキしてしまう俺の体はきっとどこかおかしくなってしまったのだろう……。
「お、おれも……だ」
そう言って今度は俺からハグをしてやった。
END