鯉月SS 明治軸「おお、ちょうど良いところに。鯉登の副官か」
月島は見知らぬ将校に対し適切な角度と秒数をかけて敬礼をし、鯉登の合図を認めて生真面目な表情で前に出た。執務室の主である鯉登は足を組んで寛いでいる。どうやら気のしれた友人のようだ。
「随分な堅物だ、ハハ。そう警戒しないでくれ」
「ふざけた奴だが士官学校時代の同僚だ……英国から戻ってきて、顔を見せに来た」鯉登は静かに言い添える。月島は黙って一つ頷いた。
「叩き上げの軍人だろう、振る舞いで分かるさ。いま我々が話していたのが……お前、ウインクはできるか? こうやって……」将校は片目をパチンと閉じてみせた。「西洋にある茶目っ気を見せる仕草だ」
月島はそれをじっと観察してから、機械的に片目を閉じてみせた。二人の将校は笑う。
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