「でね。今日は編集部に行ったのだが…そこにチラシがあったのだよ!」
誉は、ペンを握りながらそう話す。片手は、携帯をそっと耳に当てていた。
そろそろ梅雨の訪れも感じる季節。少しだけしっとりとした湿度の高さを肌で感じている。
明かりの灯った夜のバルコニーで、誉は一人、執筆に勤しんでいた。
ただ、執筆だけをしにきたわけでは無い。
電話の向こうにいる、恋人との時間を取りにこうして外に出ていたのだった。
『そういや、各所に送ったって言ってたな』
電話の奥からは、最愛の恋人、丞の声が届く。少しだけ、低さの削がれた電子の声。
それも寂しいながら愛おしく、誉は携帯に耳を寄せた。
劇場近くの美味しい店、会場による反応の違い。そんな話をぽつりぽつりとしていく。落ち着いた声と調子でただ二人だけの時間を楽しむ。
1830