面影の青年「すみません、ここに秋樽桜備いますか?」
「え、あ、はい……」
教会前の掃き掃除をしていた俺は顔を上げると同時、一瞬で固まってしまった。
鳩が豆鉄砲を食ったようとは、まさに今の自分を指すのかもしれない。
それはまだ稼働前のオンボロ第8特殊消防教会に人が訪ねてきたことでも、その人物が今どきの若者の風貌だったからでもない。
ただ『どこかで見覚えがあるだけ』なのだ。
刈り上げた短髪を明るい金色に染めたツートンカラー。耳にはピアスがジャラジャラと何個もついていて、指先には漆黒を思わせるネイル。そしてスパイシーな中にどこか甘さを感じる香水の匂いもする。
モデルや俳優、いやバンドマンかもしれない。そう思わせる若々しさとチャラさ……いや、華やかさを感じる青年だ。
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