渇き──わかっている。
ヴァラダは理性の奥でそう思っていた。
目の前にいる男は何も言わず、ただ黙ってヴァラダを見ている。挑発でも誘いでもない、ただそこにいるだけだという顔をして。
だが、それがどうしようもなく腹立たしい。
こんなにも喉が渇いているのに。
今までずっと、欲しがらなかったわけではない。求めなかったわけでもない。ただ、それを表に出せなかっただけだ。言葉にも、態度にも、どうやっても落とし込めずにいた。
だが、今は違う。
ヴァラダは衝動に突き動かされるままに、デーヴァの肩を掴んだ。
デーヴァは微かに目を細めたが、抗わなかった。驚きもせず、当然のように受け入れる。まるで最初からこうなることを知っていたように、余裕すら感じられるほどだった。
それがまた、癇に障る。
「……お前は、なんで」
俺を試すような顔をしている?
俺がどれだけお前を求めているか、もう知っているくせに?
けれど、ヴァラダはその言葉を口にする前に、デーヴァの襟を掴んで引き寄せた。言葉よりも、行動のほうが早かった。
デーヴァは抵抗しない。されるがままに、ヴァラダの激しさを受け止める。
それが、たまらなく悔しい。
──なぜ、お前はもっと抗わない。
追い詰めたいわけではなかった。けれど、こんなにも飢えているのに、ただそれを許容されるだけでは満たされない。
もっと欲しい。もっと、何かを引きずり出したい。
「……ヴァラダ」
デーヴァの声が耳元で響いた。低く、静かで、それだけで身体の奥が疼く。
乱暴に組み敷いたはずなのに、まるでそれすら受け入れることを最初から決めていたかのような声音。
「……お前のその顔、いいな」
その瞬間、ヴァラダの中で何かが切れた。
息が乱れる。手が震える。これ以上、冷静ではいられない。
デーヴァはヴァラダの顔を見つめたまま、微かに唇の端を吊り上げた。
「デーヴァ、お前……っ」
ヴァラダが搾り出すように言うと、デーヴァは眉をわずかに動かし、目を細めた。
「どうした?」
ヴァラダはそれ以上何も言えなくなった。
だが、言葉はなくてもいい。
どうしようもなく、こみ上げる熱に突き動かされるままに、ヴァラダはデーヴァを求めた。
まるで、渇きを癒すように。
貪るように。
求めずにはいられないほどに。
デーヴァはそのすべてを、黙って与え続けた。
ヴァラダは、自分がどれほどの勢いでデーヴァに縋りついているのかもわからなかった。
胸の奥が焼けつくように熱い。
それでも足りない。もっと、もっと欲しい。
デーヴァは何も言わず、ただ受け入れ続ける。
ヴァラダがどれだけ激しく求めようと、乱暴に触れようと、拒まない。
まるで最初からそうなることを知っていたかのように、静かに受け止める。
──それが、たまらなく悔しかった。
どうして、お前はそんな顔をする。
俺がこれほどお前を欲しがっているのに、お前は少しも焦らず、まるで最初からすべてを許していたかのように、ただ応じるだけ。
「……くそ……」
ヴァラダは息を乱しながら、デーヴァの胸元に顔を埋めた。
喉の奥で熱が燻る。爪を立てた指が、デーヴァの腕を掴む。
それすら、デーヴァは当然のように受け入れる。
「……俺がどれだけ、お前を求めてるか……わかってるくせに」
その言葉を聞いて、デーヴァは微かに目を細めた。
そして、ヴァラダの髪にゆっくりと指を滑らせる。
「わかってる」
低く、落ち着いた声が耳を撫でる。
「だから、くれてやる」
次の瞬間、デーヴァの腕がヴァラダの背を強く抱き寄せた。
驚くほど、迷いのない力だった。
ヴァラダの呼吸が詰まる。
ずっと追い求めていたはずのものを、こうして与えられてしまうことが、どうしようもなく悔しい。
欲しかったのに、たまらなく、欲しかったのに。
「……くれてやる、じゃない……」
掠れた声で、ヴァラダは呟いた。
「勝手に……」
デーヴァの指が顎を持ち上げる。
黒い瞳が、ヴァラダをじっと見つめる。
「……勝手に?」
同じ問いを、投げかけられる。
ヴァラダは何も言えなくなる。
言葉では抗えない。
だから──
ヴァラダは衝動のままに、デーヴァを押し倒した。
デーヴァは抵抗しなかった。
ただ、微かに笑って、ヴァラダの指が自分を乱暴に掴むのを許した。
それが、たまらなく腹立たしかった。
なのに、それ以上に、どうしようもなく嬉しかった。
もう、何も考えられない。
ただこの渇きを、埋め尽くすまで。
ヴァラダは、デーヴァを貪った。