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    mukahi__aoi

    @mukahi__aoi

    羽龍らくがき置き場

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    付き合い始めくらいの羽龍と小麦畑
    旅行で愛媛の方に行ったら黄金色の畑が散見されたので慌てて調べたら品種は違うけど麦の一大産地でこれ小麦見つけたときとか小麦畑を見たとき羽京どんな気持ちだった………?になったよって話

    #羽龍

    黄金の原はいまや遠く 金の穂が平野に揺れる。
    大樹や杠たち農耕チームが日夜をかけて拓いた小麦畑は実りの季節を迎えていた。視界一面に広がった穂が戯れに吹き抜ける風に波打つ様子はさながら黄金の海のようだと小さく笑みがこぼれる。
    「羽京、ここに居たのか」
     覚えのある低い声に名を呼ばれ振り返った。
    鮮やかなオレンジのコートを羽織った未来の船長が風に飛ばされないよう帽子を押さえながら歩み寄ってきている。
    「龍水。なにかあった?」
    「コハクが気になる航空写真を見つけてな。すぐ出れば日暮れまでに戻れる距離だったからクロムと調査に行って欲しいんだが、」
    「そっか。すぐに戻る……」
     そうして隣まで来ると、自分と同じように黄金の原へと目線をやった龍水に言葉が止まる。波立つ穂を見て穏やかに緩む目元には、なんとはなしに似た感想を思っているような気がした。
    「フゥン、見事だな。これを見に来ていたのか?」
     口ぶりからして畑を見に行く旨を伝えていたクロムから聞いてきたのだろう。クロム自身はきっと探索の準備に取り掛かっていて、代わりに呼びに来たというわけだ。
    再び畑に目を向けながら頷いた。
    「うん、僕の地元のあたり麦畑がたくさんあってね。刈られる前にちょっと見ておきたいかなって。」
     航海のための食糧を確保するために数ヶ月の時間をかけて育てられた、金色の実はもうまもなく収穫が始まるだろう。
    その前に忙しい探索の合間を縫って畑まで出てきた理由はといえば、それはもうただ単純な郷愁でしかない。
     クロムと共に小麦の群生地を見つけたときも、脳裏に浮かんだのはいつか見た、きっととうに失われてしまっているだろう故郷の光景とそこに居る人々の姿だった。
    感傷とも言っていいそれに無意識でキャスケット帽のつばに指が伸びる。
    「羽京、貴様どこの出身だ?」
    「え、ああ愛媛だよ。船乗りなら来たことくらいはあるかな?」
    「愛媛か!当然行った。造船業も盛んで腕のいい職人も多かったからな。全人類の石化復活をするならば物流網の確保も重要になってくる。あそこもいずれ手に入れるぞ!」
     欲しい。そういつもの口癖を力強く発する龍水に圧倒されつつも、そこにほのかな配慮を感じた。いずれ手に入れるということは、そこに居る石化した人々も復活させてくれるということだ。
    勘のいい龍水のことだから、こちらの郷愁を察したのだろう。しかしその言葉が励ましのためだけの空言で終わらないだろうことも解っていた。七海龍水という男はそういう人間なのだ。
    そしてそんなふうに世界の全てを欲しがる男にそれでも欲しいと言ってもらえるのは、少しだけ誇らしい。
     吸い寄せられるように手を伸ばし、頬を手のひらで包んで、眩しいくらいの未来を語る唇に己のそれを軽く押し当ててからゆっくりと離れる。
    「君にそう言ってもらえると嬉しいよ。」
    あふれる感情のままに緩めた頬はちょっとだけだらしない気もしたけれど、嬉しさと愛しさに上塗りされてまあいいかと開き直った。
     龍水はといえば、唇が触れた一瞬らしくない妙な顔をしたが、数拍ののち高らかな笑い声と共にフィンガースナップを決めてみせた。でもそれが照れ隠しであることは赤らむ耳元を見てしまえば明白だ。
    微笑ましく見つめていれば、今度はこちらの番だと言いたげに手首を掴まれ腰に腕が回される。
     秋風に吹かれる黄金の海原は、ふたりを囃し立てるようにざわめき続けていた。
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