栄光の手 眼球が残ったのは奇跡だった。
これが形成手術を終えて叩き起こされ二番目に言われた言葉である。ちなみに開口一番は熊にでも襲われたのかと思いました、だ。
とどのつまり顔面の皮が裂かれて肉が抉れているのだから、そこに大した違いは無いだろう。結果を生み出したのが鋭い爪のついた獣の五指か、芝生を踏みしめて駆けるための靴のスパイクかというだけで。
というようなことを上手く回らぬ舌で回答したら、医者は微笑んで所見ありとカルテに記した上で看護師に指示して腕に繋がった点滴から鎮静剤を落としてきた。わし様が王座にまします皇帝の如くあまりに落ち着き払っていたから、却って異常を疑ったのかもしれない。余計なお世話というものだ。
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