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    水鏡零

    某あの茶の人
    訳あって別のハンドルネーム

    男性向けのイラストを穏やかに置いてゆくことが多いよ
    シチュボイス系のイラストも置いてゆくよ

    R18系はモブ攻めと明らかに人を選ぶシチュばかりなのです
    観覧は個人の責任でお願いしますヨ

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    水鏡零

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    ※アイ様とノインさんの本当の名前出てきます
    お菓子作るのが得意な運命ちゃんと、某花嫁ちゃんのお話
    雛ちゃんが可愛ければいいのだという。
    ちょっとギャグで内容が無いような感じもする…かな。

    きっと君は幸せアイさん家の廊下で、雛が女の子を見つけた。
    どうしていいのかわからなかった雛達は、私の足をペチペチ叩いてその子の所に連れて行ってくれた。
    「ホントに女の子だ。気を失ってる?」
    たまにこの場所には読んでもいない人間が来るときもある。
    前には雛を虐めた奴がいて、その時は問答無用でぶん殴ったこともあった。
    あの時には、一心不乱に顔とか殴り続けていたから、アイさんに止められた時にはKO勝ち寸前くらいだったと思う。
    元より、此処に来る人間って言うのはロクな奴はいないとアイさんは言っていた。
    …なんでも、私は違うらしいけど。
    「ねぇ、大丈夫?」
    真っ白なワンピースに真っ白なリボンをつけた女の子は、青い組紐をリボンの布に巻きつけている。
    とても華奢な身体なのに、胸だけは変に発育していて、悲しいかな私よりも全然大きかった。
    と、そんな事を言っている場合じゃない。
    「ねぇ!アイさん聞こえてるでしょ?!ちょっと手伝ってよっ!この子は悪い子じゃないと思うんだけどっ!!」
    薄暗い迷宮の天井に向かって、私はこの迷宮の持ち主でもあるアイさんを呼ぶ。
    足元では雛達もキィキィキャッキャッと声をあげて、パパを呼んでいた。
    が、一向に返事は来ない。
    「え…留守なの?……まじか。」
    たまにフラッと何処かに出かける事もアイさんはある。
    ちょっとコンビニに行くくらいの軽い感じで、この場所を離れる事もあるらしい。
    とはいえ、彼が帰ってくるまで女の子をこんな冷たい床の上に寝かせておくわけにはいかない…。
    「雛っ。お兄ちゃんたち呼んできてっ。みんなでこの子を動かすよっ!」
    私は手のひらサイズ程の雛達に声をかけ、皆を一斉に動かしだす。
    部屋の奥からシーツを一枚持ってくること。
    客もめったに来ないのにやたら大きな部屋として造られた客間の扉を開けてくること。
    それから、良く育った大きな雛達を集めてくること。
    ピッと小さな手で敬礼した雛達は、一斉にあちらこちらに散らばってゆく。
    足が速いこの子たちは優秀で、私の一声で直ぐに皆が集まってきてくれた。
    不思議だな。なぜか、女の子を見てびっくりして飛び上がっている子もいる。
    「良い子たち!ちゃんとシーツを持って来てくれた。さぁ手伝って!お姉さんを部屋に運ぶよ!」
    一番大きくてがっしりした饅頭みたいなアイさんが居ないのなら、次に大きな大福みたいな大きく育った雛達に手伝ってもらうしかない。
    慣れた手つきでシーツを広げ、声を合わせて女の子をその上に乗せた雛達は、わっしょいわっしょいと私の動きに合わせて大きすぎる客間に連れて行った。
    いつ使うのか思うような豪華なソファにその子を降ろした私たちは、皆で頑張ったとねぎらう。
    「雛達、みぃんないい子!ありがとう、手伝ってくれて。」
    言葉は同じではないが、私の言う言葉はわかってくれているのか、雛達は私の声に可愛らしく飛び跳ねる。
    嬉しそうにまわりを走り回る子もいれば、照れて赤くなっている子もいた。
    「パパが帰ってくるまで、ちょっと様子を見ていようか。…あ、その前におやつだね。」
    私はふっとある事を思い出し、先まで一緒に廊下を歩いていた雛達へと顔を向ける。
    雛達は思い出したように飛び跳ねだし、私の前を歩いて別の部屋へと向かっていった。

    ―――

    甘い香り。
    お菓子の香り。
    フワフワのスポンジケーキの香り。
    閉じた目の裏側で、ぼんやりとしたお菓子の映像が流れてゆく。
    あまり食べた事は無いけれど、これはきっとケーキの焼ける香りだ。
    お菓子屋さんには特別な時しか行った事がないけれど、いつも―――と通っていた道で甘い同じ香りを何度も嗅いだのを覚えている。
    あれ?
    ―――って誰ったかな?
    思い出せそうで思い出せないや。
    そうだ、あまり長く眠っていると…


    ―――さまに心配されちゃう。


    「あれ…?」
    いつもと同じお気に入りの場所で目が覚めたと思ったけれど、重い身体を起こしてみるとそこは全然見た事のない場所だった。
    大きなテーブルに大きなソファ。
    凄く大きな照明とキラキラした壺や置物。
    天井は遠くて見えないし、床はお城のようなレンガでできていた。
    「あれ…?どこ…ここ?」
    真っ白な布に包まれていた私は、いつもより重く感じる身体を何とか起こして、とっても大きなソファの上から降りてゆく。
    冷たいレンガの地面がひんやりと身体に伝わって、それとは真逆に甘い香りが漂っていて、とっても不思議な場所だ。
    おとぎ話のお城みたいで、ちょっと不気味な感じがしている。
    「―――さま?どこ…?」
    私は―――さまの名前を恐る恐る呼んでみる。
    いつもだったら凄い速さで来てくれて、ぎゅっと抱きしめてくれるのに…何度名前を呼んでも―――さまは姿を見せてくれない。
    私の声は壁に当たって何処までもやまびこのように広がってゆく。
    包まれていた白い布を掴んでいたけれど、足が震えて立っているのも怖くなってきた。
    「…っぇ?」
    もう立っているのも嫌になってきた頃、私の足を何かがつついているのに気が付く。
    びっくりして足元を見ると、小さな丸いお団子のような不思議な子が私の顔を見ていた。
    真っ白くて小さなおててでペチペチと私の足を叩いている。
    赤いビーズみたいなキラキラしたおめめで、お団子の妖精さん?は私を見ていた。
    「お団子の妖精さん?」
    いえいえ、違います。とでも言いたいのか。お団子の妖精さんは小さなおててを左右に振る。
    ―――さまが私の足に飾ってくれたお飾りの紐を引っ張った妖精さんは、こっちにおいで!とお部屋の外を指さした。
    よく見ると、大きなお部屋の入り口には、お団子の妖精さんがいっぱいいる。
    大きな妖精さんもいれば、小さな妖精さんもいて、皆がおいでおいで!こっちだよ!と手を振ってきていた。
    …なんだか今の私は、おとぎ話の世界に迷い込んできているみたいだ!
    「こっちに行けばいいの?」
    そうそう、そうですよ!と大きな口を開けてにっこりと笑った妖精さんたちにつられて、私もワクワクしながら甘い香りのする方へと歩いてゆく。
    妖精さんたちは時々ぴょんっと飛び跳ねたり、私のまわりと凄く早足でクルクル回っていた。
    しばらく冷たい床の上を歩いてゆくと、甘い香りがたっくさん溢れてくるお部屋に到着する。
    明るい光が扉の向こうから廊下に広がっていて、中では楽し気な歌が聞こえてきた。
    「入っていいの?」
    はい、ぜひに入ってください!と言いたいのかわからないけれど、お団子の妖精さん達に押された私は少しだけ開いた扉の中に入ってゆく。
    果物の香りやお砂糖の香りがいっぱいに広がったお部屋に入ると、髪をきれいに結ったお姉さんが私を見てほほ笑んだ。
    「ようこそ!素敵なキッチンへ!お茶にしましょう?」


    ―――


    真っ白な手で恐る恐るイチゴを手に取った女の子は、薄いクレープ生地の上にそれを置いている。
    隣ではシェフの帽子と私が名付けたコック帽をかぶった雛達が、女の子に果物の置き方を教えていた。
    「ここはシェフ雛達のキッチンだよ。」
    「しぇふひな?」
    「そう。貴女の前で果物を切ったり、生クリームを泡立てている子たちの事。」
    「ひなちゃんって言うの?」
    「うん、そう。」
    クレープ台の上で焼き上がった生地を取り、私はお皿を持ってきた雛に渡してゆく。
    雛達は一匹ずつお行儀よくシェフ雛の前で並び、自分好みのクレープを作っては、嬉しそうにテーブルの方へと運んでいった。
    おやつの時間はいつもこんな感じで、皆が初めて見る人の子のお菓子にキラキラと目を輝かせている。
    シェフ雛達は私の作ったお菓子を覚えるのが早く、アイさんいわく、お前が居ない時には頑張って意見を出し合いながらまねて作っているぞ。とのことだ。
    「お団子の妖精さんかと思った…。」
    「あはははっ。それいいね。後でこの子たちのパパに言ってみるよ!」
    「えへへ。」
    不慣れな手つきでもシェフ雛の補佐として頑張っている女の子は、お料理が好きなのか一生懸命に手を動かしている。
    イチゴやバナナ…ブルーベリーにカシューナッツや色んな木の実。
    それからチョコレートに生クリーム。
    雛達はクレープ生地の上にいろんなものを乗せて、顔をくちゃくちゃにしながらも、おいしそうにほおばっていた。
    それからシェフ雛達の分もクレープ生地を焼いてあげ、シェフの帽子を脱いだその子たちも、ニコニコと幸せそうな顔で自分のクレープを運んで行く。
    後は私と、この女の子の分だけだ。
    「さぁ、貴女も好きな物を乗せてみて。自分だけのクレープを作ろう?」
    「くれぇぷっていうの?」
    「ん?食べたことない?」
    「…う、うん。見た事はあったけど…ない。」
    「そっか。んじゃぁ、大盛でもてんこ盛りでもいいよ。」
    「そしたら、ひなちゃん達みたいに畳めないよっ!」
    「あはははっ、そうだね。そうそう。そうだわな!」
    まるで学生の頃の友達が隣にいるみたいで、私は女の子の反応に笑ってしまう。
    何を笑っているのかわからない状態でも、私の笑う顔を見てなのか、ケタケタと雛達も笑い出した。
    そして、女の子もそれを見て笑い出す。
    「ほらほら、生クリームはすぐ溶けちゃうから、早く作らないとだよ?」
    「う、うんっ!」
    味の合わせ方を女の子に教えながら、私は自分の好きなようにクレープを盛り付ける。
    ココはお店でもないし実家のケーキ屋さんでもない。
    だからどんなにヘンテコな盛り付けをしても、それは笑って済ませる素敵な場所だ。
    「残ったモノはどうするの?」
    「残ったモノはね?…お出かけ中の人の為にとっておくの。」
    「そうなんだ…。」
    「貴女も誰かにとっておく?貴女が作ってあげてさ?」
    「え…、い、いいの?」
    「もちろんだよ。」
    クレープの記事をもう二枚焼いて、私は雛達が用意したお皿にそれらを一枚ずつ乗せる。
    一枚はご不在中のアイさんの分。
    それからもう一枚は…

    この子を迎えに来るはずの…ナニカさん…の分。

    ちょっと前に、ご不在中のはずのアイさんが頭の中に語りかけてきた。

    とりあえず、ソレの面倒をみていろ。面倒なのに話をしてくる。
    あぁ、俺たちのせいじゃないってちゃんと言うさ。
    …あの神に話が通じるか知らんがな…

    きっとその神様が、この子の主なんだろう。
    私と同じ人の子の姿をしているけれど…
    私と同じこの子も…もう人じゃないはずだ。
    似ているのかしらね。わかんないけど。


    ―――


    お料理の上手なお姉さんとしぇふひなちゃんに教えてもらって、私は初めてくれぇぷを作った。
    ふわふわの薄い生地と、甘いチョコレートやイチゴやバナナ。
    ほっぺたが落ちちゃいそうなくらい美味しくて、このお姉さんは凄い人だと思った。
    お姉さんは別の世界でケーキ屋さんになりたかったらしいけれど、ちょっと理由があってケーキ屋さんになれなかったらしい。
    でも、いっぱいお菓子のお勉強をしたら、ひなちゃん達に教えてあげていると言っていた。
    私にもできるかな?お姉さんにそう言ったら
    「貴女にだってできるわよ!」
    そう言ってくれた。
    魔法みたいにフワフワのクリームを作ったお姉さんは、ココアの上にふんわりと乗せて私やひなちゃん達に飲ませてくれた。
    お口のまわりに白いおひげを作ったひなちゃんは面白くて、他のひなちゃん達と一緒にいっぱい笑った。
    いっぱい笑う事は疲れたけれど、なんだか心が温かくてすごく楽しい。
    ―――さまと一緒にいる時間は大好きだけど、それとはまた違った楽しいと嬉しいがいっぱい見つかった。
    「上手に出来たじゃない!…さては大好きな人にあげるために頑張ったのかしら?」
    「う、うん…!」
    「素直でよろしい!」
    「ふふふ。」
    真っ白なお皿の上に乗った一枚のくれぇぷ。
    これは私の分じゃなくて―――さまの分だ。
    甘いものが好きなのかはわからないけれど、クリームソーダやチョコレートだって一緒に食べてくれるから、きっと好きだと良いな。

    そういえば、どうして私はこの場所に来たんだったっけ?

    なんだか知らない人に手を引っ張られて、途中で―――さまの声がしたと思ったら…
    気が付いたら寝ちゃった。

    「じゃぁ、知らない人に連れ去られちゃったのかしらね?」
    「うん…。」

    お皿を片付けているひなちゃん達の近くで、私はお姉さんに覚えている事を話している。
    ぼやぼやとしてどんな人に手を掴まれたのかは覚えていないけれど、いつものお気に入りの場所に勝手に誰かが来たのはびっくりした。
    だって―――さまのけんぞくさんしか遊びに来た事は無いから…

    「ということらしいよ。アイさん!」
    「あいさん?」
    「そう。恥ずかしがり屋さんみたいで、いるのに姿を現さないひな達のパパさん。」
    「へぇ…。」

    天井に向かって声を向けたお姉さんは、テーブルの上をお掃除しているひなちゃんに「パパ、恥ずかしがり屋さんなんだよね」と言っている。
    ひなちゃんは小さな手で顔を隠すと、にこりと笑って他のテーブルのお掃除に走っていった。
    色んな大きさのひなちゃん達がいるけれど、お姉さんには全部違って見えるらしい。
    やっぱり、このお姉さんは凄いなと思った。

    「ふぅん。なるほどねぇ。……あ、そろそろお迎えが来るみたいだよ。」
    「えっ?」

    目を見開いたお姉さんは、戸棚の中から綺麗な紙を取り出してくる。
    レースのような柄が入った紙で、私が作った―――さまに食べてもらうくれぇぷをきれいに包んでくれた。
    キッチンの出口では、ひなちゃん達が並んでいて、私に向かって、あっちだよ!っと指を向けてくれている。
    「短い時間だったけれど、とっても楽しかったわ。…今度は、知らない人に連れて行かれないようにね。」
    「うん…。気を付ける。」
    「危ない人が来たら、助けをすぐに呼ぶの。そしたら、貴女を守ってくれている人が直ぐに来てくれるはずだから。」
    「…うん。」
    ポンポンとお姉さんに肩を叩かれた私は、ひなちゃん達が示してくれる方へと歩き出す。
    廊下に出るといっぱいのひなちゃん達が皆で手を振ってくれて、なんだか涙が出てきてしまいそうだ。
    「じゃぁね。気を付けてね。」
    「うん!ありがとう!…ひなちゃんも、ありがとうっ!」
    手に持ったくれぇぷが崩れないように気を付けて、私はひなちゃん達に導かれながら、同じような道がずっと続いている通路を歩いてゆく。
    一度振り返って見ると、ひなちゃん達とお姉さんが私に向かって大きく手を振ってくれていた。
    私は精一杯手を振ってから、あっちだよ!と小さなひなちゃんに教えられてレンガの道を駆けていく。
    「あ……。」
    同じような景色が続く先で真っ白な髪が揺れているのが見えて、私は頑張って走り続ける。
    手に持ったくれぇぷが崩れないように気を付けながら、私は大きな槍を抱えたノインさまの元に走り寄った。

    「良かった!どこも怪我はしていないかい?」
    「は、はい。大丈夫です!」

    ノインさまは大きな手で私の頭を撫でてくれると、手に持ったくれぇぷに気が付いて目を丸くしている。
    私は恥ずかしいけれど、どうしても今渡したくて…おずおずとノインさまにくれぇぷを手渡した。
    「あ、あの。私が作ったんです。の、ノインさまに食べて…も、もらいたくて……。」
    「君が?俺の為に?」
    「は、はいっ!」
    「そうかぁ……。」
    白い包紙を開けて中を見たノインさまは、大きな口でパクパクとくれぇぷを食べてゆく。
    なるほどな。こんどはこれもいいかもしれない。おもいでをけすのは…とか、何か呟いているけれど、私はドキドキして聞いていられない。
    お口にあったかなぁ?と美味しくなかったとか、言われたらどうしようと思ってしまうからだ。
    「すごくフワフワとしていて、美味しかったよ。……ありがとう、俺の花嫁。」
    「わぁ…。」
    口についたクリームを手ですくい取りペロリと舐めたノインさまは、私の身体を優しく抱きしめてくれる。
    大きな胸板でちょっと苦しいけれど、やっとまた会えた事に私はほっとしていた。
    「話は聞いたよ。なんでも、知らない人に連れて行かれそうになったらしいな?」
    「へ?…ぁ、はい。……白い羽の…兵士さんみたいな恰好をした人に…いきなり腕を掴まれて…」
    「なるほどなぁ……。どこまで、あいつらはおせっかい何だか…。」
    「???」
    大きなため息を一つしたノインさまは、私の頭をまた撫でてくれる。
    片腕で抱き上げられた私は、落ちないようにぎゅっと彼に抱き着いた。
    「おい、アイホート!!今回は借りができた!礼を言うぞっ!」
    「…もういい。…とっとと帰れ。」
    「ははは!冷たい奴だなぁ!礼の一つくらい聞けよ!」
    「……いいから、帰れ。厄介なモノがニオイに釣られてコッチにも来ては困る…」
    「んぁぁ。そういう事か。ま、他人の家で血生臭いのは避けたいからな。わかった。早々に帰らせてもらう!」
    「……。」
    先のお姉さんと同じように、ノインさまは暗い天井に向かって言葉を向けている。
    お姉さんの時と違うのは、天井から低いうなり声みたいな声が聞こえてきて、たまに大きなため息が響いてくるくらいだ。
    ノインさまが片手に構えた槍を地面に当てると、私たちは住み慣れた水の中に飲まれてゆく。
    目の前が青一色になった頃、ふと私はある事に気が付いた。
    「先の声、ひなちゃんたちのパパさん!……恥ずかしがり屋のアイさんって人だっ!!」
    「っくはっ!!!はははははっ!!恥ずかしがり屋のアイさんかっ!!!そりゃぁ、傑作だ!!」
    私の言葉に笑い声をあげたノインさまは、何故か目に涙を浮かべるくらい声をあげて笑っている。
    苦しい笑い死ぬ…と凄い震えるほど笑ったノインさまと一緒に、私は恥ずかしがり屋のアイさんのお家を去っていった。


    ―――


    「誰が恥ずかしがり屋だ!!!あいつの大事な物を思って壊さぬようにと姿を消してやったのに!!」

    大きくテーブルを叩いたアイさんは、何かを聞いたらしくて物凄く怒っている。
    しいて言えば、口まわりに生クリームべったりなので、あまり威厳がない。
    雛達は目を真ん丸にさせてパパの顔を指さしている。
    何せほんとに盛大にクレープの中に顔を突っ込んだのだから。
    「そんなに驚くことあったの?」
    「…驚くどころか、腹立つことだ。」
    「あー、先の女の子迎えに来た人のこと?」
    「あんのクソ神めっ!!海の底に瓦礫ごと沈めるぞっ!!」
    「もー、物騒な事言わないでよ。…顔、凄い事になってるから。」
    雛が持って来てくれたタオルを受け取り、私は怒りに震えているアイさんの顔を拭いてあげる。
    アイさんは不服そうながらも大人しく顔をふかれ、テーブルに置かれたクリームが乗ったココアを何も考えずにずいと飲んだ。
    結果、口のまわりはクリームで大惨事だ。
    「あの子、結局何?私と一緒?」
    「…あ?あれか?……あれは、お前とは違うぞ。運命。」
    「違うって…どんなふうに?」
    「…そうだな。」
    クリームの口ひげを着けたまま、アイさんは神妙な表情を浮かべ目を逸らす。
    机の下で雛達が必死に笑いを堪えているのには、気が付いていないようだ。
    「噂には聞いていたが、アレは魂を捕らえられているようなものだ。器はあのノーデンスが勝手に作ったモノで、それに人の子の魂が埋められている…みたいなもんだな。」
    「へー、じゃぁ、あの子って捕らわれのお姫様?には、見えなかったけど。」
    「…さぁな。ヒトの幸せってものは未だよくはわからん。」
    「ほうほう。」
    プヒュウ!と小さな噴き出した音がテーブルの下で聞こえると、一目散に小さな雛達が部屋の外に逃げてゆく。
    恐らく、アイさんのココア生クリーム口ひげの顔に耐えられず、噴き出してしまったのだろう。
    ピーピーと笑い声をあげ、部屋の外で転がっている子も見える。
    が、当の本人であるアイさんは未だ気が付いていない。
    「幸せなら良いんじゃないの?…あの子、その…ノーなんとかさんの為にクレープ作っている時、凄く幸せそうな顔してたもの。」
    「そうか。ノーなんとかさんの事をか。…変わった人の子の魂だ。」
    ようやっとアイさんは自分の顔の大惨事にまた気が付いたらしい。
    彼はタオルで自分の口元を拭くと、コホンと咳払いをした。
    雛達はまだ部屋の外でピーピー笑いながら、見ていなかった雛達にパパのココア生クリーム口ひげを教えている。
    教えられた雛達はちらりと部屋の中をのぞくと、ピュンと走り去って同じようにピーピー笑っていた。
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