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離れがたい、という気持ちだけで抱きしめていた柔らかな身体は、腕の中でわずかに肩を揺らした。しゃくりあげるような小さな声に、そっとほんの少しの距離をとると、青い瞳がこちらを見上げる。
「あ」
その瞳から、はらはらと落ちる涙すら綺麗だなと瞬時に思ってしまってから、ひとつ声が漏れた。
血も雨も、拭いきらない手で無遠慮に触れたせいで、涙が伝う頬を汚してしまっているし、仕立てのいいコートと手袋も、ところどころに雨と血が染みている。
「……っ、あ、あの、う、嬉し泣き、なので」
かちあった視線はすぐに、ちいさく震えた声とともに外されてしまう。俯いた頬をもう一度上向かせたい気持ちを抑えて、視線を天幕の奥へと向ける。
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