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    くろん

    @NKGJER

    サン星サン沼にずぶってる20↑

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    くろん

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    『お付き合いはじめました』の前日譚のような話。四人で和やかにおこたでみかんを楽しんでいたはずなのにいつの間にか無自覚にいちゃつき始める出来てないサン星とダメージを受けるなのか。丹恒は空気(に徹してちゃっかり難を逃れる)。

    #サン星
    ##未ログ

    お付き合いはじめてません(おこたでみかん編) 星、なのか、丹恒の三人はサンポからの招待を受けてベロブルグへと降り立っていた。サンポからの、という時点で怪しさ万点なので断ろうとしたのだが、例によってあの手この手で口説き落とされていつの間にか訪問の約束を取り付けられていたのである。
    「それにしても、サンポの言う暖房器具って何なんだろうね?」
     『お三方がベロブルグを救ってくださったおかげで他の星との交流が復活しまして、とある星から珍しい暖房器具を輸入できたのです。これはこの星の救い主たる大英雄のあなた方にぜひ体験していただかなくてはと、こうしてお誘いしたのですよ』というのがサンポの言い分だった。
    「いくら珍しいからって、わざわざ『体験』なんて言うようなものじゃなくない? 暖房って」
    「あの男の言葉が大げさなのは今に始まったことでもない。大方、俺たちの名前を宣伝にでも使いたいという魂胆なんだろう」
    「それならしっかり使用料を搾り取らないとね」
     指定した場所に赴けば、揉み手をしたサンポが満面の笑みで出迎えた。
    「これはこれは大英雄の皆様! わざわざご足労いただきまして。さ、準備はすでに整えてありますから、どうぞお入りください」
     相変わらず大仰な仕草で入室を促したサンポに、三人揃って右の手の平を差し出す。
    「ええと……お姉さんに三月さん、それに丹恒さんまで? 何ですこの手は?」
    「名前の使用料。宣伝に使うならきっちり払って」
    「……あはは、すっかりお見通しというわけですか。さすが大英雄、お見それしました。いやいやもちろん、最初から払わせていただくつもりでしたよ? 当然ではないですか、商人は信用が第一なのですから。しかし純粋にあなた方にこの商品の良さを味わっていただきたいというのも決して嘘ではありません。料金は後でちゃんとお支払いしますから、まずはぜひ、使ってみてください」
     これ以上玄関先で押し問答しても仕方がないので素直にサンポの後について行くことにする。こちらです、と通された部屋には、盛り上がった布の上に一枚の板が置かれた謎の器具が設置されていた。
    「これが暖房なの?」
     てっきりストーブのような物だと思っていたなのかがぱちくりと目を瞬く。サンポは布の一部を捲り上げ、そこに脚を差し入れるようにして座った。
    「このように入るのですよ。この板はテーブル代わりですね。ささ、みなさんもどうぞ」
     促されるまま、三人も同じように布を捲って脚を入れた。その瞬間ほわりと柔らかい温かさに包まれて、「わぁ……!」となのかが感嘆の声を上げる。
    「あったかい……なにこれ、ウチもう出られないかも」
    「ふふ、三月さんは早速コタツの魔力に魅入られたようですね」
    「コタツ? それがこいつの名前?」
    「ええ。他の星にはあまり広まっていませんが、地元では非常に有名でして『一度入ったら二度と出られない』と評判なのですよ」
    「そこまでいったらホラーじゃん……でもあながち大げさじゃないかも。ウチもうここに住む……」
    「あはは、気に入っていただけたならなによりです。いかがですか一台お買い上げというのは。もちろん他ならぬあなた方にお売りするのですから、勉強させていただきますよ」
    「うう、サンポから何か買うなんて絶対だめなのにこれは抗えない……!」
    「ちょっと三月さん! なんてことを言うのですか!」
    「あははは~、いいじゃん商品は気に入ったんだから! 星と丹恒は……あ、聞くまでもなさそう」
     丹恒はいつもピシッと伸びている背筋が若干丸くなっているし、星にいたってはテーブルに顎を乗せて気の抜けきった顔をしている。
    「ま、商売の話は後にして、今はもっとコタツの魅力を存分に堪能してください」
     そう言ってサンポは卓上に置かれている籠を三月の方へ寄せた。中には何やら果実のようなものが盛られている。
    「オレンジ?」
    「の、仲間のようなものですね。コタツを輸出している星の特産品でして、その星ではコタツに入ってこの『みかん』を食べるのが至高の冬の過ごし方とされているそうです。オレンジと違って手で簡単に剥けるので、ゴロゴロしながら食べるのに向いているとか」
    「へぇ~」
     それじゃあ早速、となのかはみかんに手を伸ばす。サンポの言葉通り簡単に皮を剥いてひと房取り外したところで、その薄皮は食べられますから、と言われてそのまま口に入れた。
    「ん、おいしい!」
     コタツの熱で火照った体にみかんの少しひんやりとした瑞々しさが心地いい。サンポのことだからどうせまた大げさに言っているのだろうと思いつつも、なるほどこれが至高の冬かと納得してしまいそうになる。
    「たくさんあるのでどんどん召し上がってください」
    「どのくらい買ったの?」
    「そうですね、ざっと六キロほど」
    「キロ!?」
     業者か! とツッコんだところで、そういえば業者だった、と思い至った。
    「甘いですよ三月さん。かの星では一般家庭であってもみかんはキロで買うのが常識です」
    「いやいや、さすがに嘘でしょ」
    「とんでもない! この僕が今まで嘘をついたことなどありましたか?」
    「めっちゃあると思うけど」
    「というわけで僕が買ったのも中規模な一般家庭程度の量ですね。僕たち四人なら充分に足りるでしょうから、どうぞ遠慮なく」
    「スルーかい」
     やけに気前のいいサンポのセリフに若干嫌な予感がしないでもないが、やはりみかんの魔力にも抗えぬと二個目を手に取ったところで、三月は妙な光景を目にして思わず動きを止めた。
     三月と同様にみかんを剥いていたサンポがひと房取り外した瞬間、ぽけーっとしていた星がぱか、と口を開けたのだ。それはもう雛鳥のごとくに見事なぱか、だった。
     いやあんた何やってんの、と言いかけて、そういえばこの奇妙な友人はサンポをからかうのを趣味にしている節があると思い出した。また何か変なことを考えているのだろうと、気にしないことにして皮むきを再開しようとしたのだが。
    「え」
     今度こそ完全に三月の動きが止まった。サンポが特に何を言うでもなく、当たり前のように取り外した房を星の口に放り込んだからである。星もまた当たり前のような顔をしてもぐもぐと口を動かした。その間にサンポは次のひと房を自分の口に入れ、また次の房は再びぱか、の口に放り込む。
     何度かそれを繰り返したタイミングで、じっと見つめる視線に気づいたのかサンポがふとなのかの方を見た。きっと二人がかりで自分をからかっているに違いない、何かネタばらしがあるんだろうというなのかの期待はしかし。
    「どうかしましたか三月さん。あ、もしかして悪くなったのが混じっていましたか? すみません、みかんは傷みやすいもので。ちゃんと取り除いたつもりだったのですが」
    「なの、悪くなってるって分かってて食べるようなことしちゃダメだよ。またお腹壊すよ」
     という、今の二人の状況とは微塵も関係ないセリフにあっさりと打ち砕かれた。
    「またって何!? ウチが前にやったことがあるみたいに言わないでよ!」
     別にみかんは悪くなってないわよ、と言えば、彼らはそれ以上の追及はせずにまたみかんを食べ始めた。相変わらず星はぱか、ともぐもぐを繰り返すばかりで一向に自分の手を動かす気配がない。そしてふたりともそれを疑問に思うような様子もまるでなかった。
     あんたたちいつの間に付き合い始めたの、とは到底聞けそうにない雰囲気である。助けを求めて傍らの丹恒を見るも、どうやら彼は何も見なかったことにする気らしく目すら合わない。仕方なくなのかは、半ば生気を失ったような目でただただみかんを食べ続けた。
     こんな状況で食べてもおいしいとは、なんと偉大な果物であろうか――なのかはサンポから何キロかみかんを買い取って帰ることに決めた。
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    くろん

    DONE余裕ある大人の態度で星ちゃんを口説くサンポとばっちり口説き落とされる星ちゃんとその後の逆転劇と星ちゃんの独占欲の話
    かわいいあんたは私だけのもの 未だに時折何かの間違いか、そうでなければ夢か何かかと思ってしまうが、私は今、サンポといわゆる「お付き合い」というものをしている。
     サンポから好きです付き合ってくださいという申し出を、少しばかり遠回しな言い方で受けた時、私が真っ先に感じたのは困惑だった。
     私には「好き」というものが分からなかったから。
     私の知っている好きとは星穹列車の仲間や開拓の旅で出会った人たちに向くものであり、それはきっとサンポの言う好きとは違うものだろう。私は彼らと恋人のように接したいとは思わない。
     イエスノーの返事の代わりに正直にそう打ち明ければ、サンポは「ならお試しで付き合うのはいかがです?」と言った。
    「お試し?」
    「ええ。僕だって始めから都合よく両思いになれるだなんて思っていません。まずは付き合ってみて、僕を好きになれるかどうか試してほしいんです。じっくり考えていただいて構いませんよ? こう見えて気は長い方ですから――ああもちろん、お試しの間は一切手を出したりはしません、誓って」
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