お誕生日(仮)おめでとう!「はっぴぃばーすで~」
気の抜けるようなローテンションの声と、パン、という発砲音にも似た乾いた音。
自宅のドアを開けるなり耳に飛び込んできた聞きなれた声に、なぜここに、と問うことはしない。いくつかあるセーフハウスのうちからサンポの帰る場所を的確に当てているのも、合鍵を渡しているわけでもないのに当たり前のような顔をして室内にいるのも、もうすでに毎度のことだからだ。
だが今回はさすがに、ひとつ指摘しておかなければならないことがある。色とりどりの紙吹雪やキラキラした金銀のテープを肩と頭に纏わりつかせたまま、サンポは侵入者に向き直った。
「今日は別に、僕の誕生日ではありませんが」
「うん、知ってる」
侵入者――星は役目を終えたクラッカーの残骸を潰してゴミ箱に投げ入れながら、あっけらかんと言い放った。頭には陽気な飾りのついた三角帽子をちょこんと乗せている。
「でしたら、なぜ」
「だってあんたに誕生日聞いても、はぐらかすか嘘の日にちを教えるかされそうなんだもん」
「そんなことは――」
ない、とは言えなかった。何しろサンポは自分の誕生日を知らない。分からないと答えたら理由を聞かれるだろうことを思うと、星の予測した通りの返答をする可能性は極めて高かった。そういった意味では、先ほどの言葉も嘘といえば嘘だ。もしかしたら、本当に今日が誕生日なのかもしれない。
「だからね、勝手に今日を誕生日ってことにして、祝うことにしたの」
心持ち得意げな顔で星が指さした先には、テーブルの上にいくつかの料理とケーキが乗せられていた。出来合いのものか合成したものか、いずれにしてもいわゆる「手料理」と呼べるものではないだろうが、それでも星が自分のために用意してくれたものだと思うと、自然とサンポの頬が緩む。
「あなたに祝っていただけるというなら、いつだろうと大歓迎です。しかし、どうして今日なのですか?」
何か意味のある日だっただろうかと、商売のタネを探すために記念日について調べた時の記憶を引っ張り出すが、特に思い当たるものはない。思案顔で首を傾げるサンポの頭にも色違いの帽子を乗せ、星は目を細めてふふ、とほほ笑んだ。
「今日はね、私とあんたが出会った日だよ」
「――え」
「『私にとってのあんた』が、産まれた日!」
きらきらと。眩しいほどの笑顔で星が高らかに宣言する。
そうだ、星とサンポが初めて顔を合わせたのは、ちょうど去年の今日だった。もしかして、ケーキの中央に一本だけ立てられたろうそくは単にサンポの歳を知らないからではなく。
「――来年も、こうして祝ってくれますか?」
「もう来年の話? 気が早いね。そんなに嬉しかった?」
「ええ、とても」
「だったら来年だけじゃなくて、再来年も、その次も――何十年先もずっと、宇宙のどこにいたって駆けつけて祝ってあげる」
「それはそれは、今から楽しみですねぇ」
ふたりで食べるには少々大きすぎるケーキに、それでも挿しきれないほどの数のろうそくを立てて、ボロボロだと笑い合って。
そんなささやかで、朧気で、儚い未来を、このときサンポは生まれて初めて、心の底から願った。