キスの日「……なぁ、水希。まだ?」
「んー……あと、もう少し?」
夕陽が窓から差し込み、誰もいなくなった教室にいる御影玲王と皇水希を照らしている。
今日は《キスの日》らしく、たまには彼女からキスをして欲しいと思った玲王は水希にキスをねだった。
もちろん、最初は恥ずかしいから無理と断られていたのだが、押しまくり、ようやく了承して貰えた。
あー、必死に背伸びしてる。ぷるぷる脚震えてるし、キュッ……って目を閉じてんのも可愛い。どーせ届かねぇのになぁ。
身長差は25センチ。それは彼女が背伸びをしても埋められないものである。分かっているのに玲王は可哀想で可愛い彼女の姿を見たいがために黙っていた。
「も、無理だよ……れーくん、背が高いんだもん」
背伸びをするのが疲れてしまった水希は後ろにある机に座ってしまった。
「ははっ、意地悪してごめんな?」
「意地悪だったの!?」
「だって水希の背伸びしてる姿が可愛くてさ」
そう言いながら玲王は彼女の髪や頬にキスをする。頬に優しく手を添え、唇にキスをしようとすると、唐突にネクタイを引っ張られ彼女から頬にキスをされた。
「はっ…?」
「キスの日、なんでしょ?だから、ほっぺに私からキスしようかなって……」
恥ずかしくなったのか、頬を赤く染める水希はとても可愛らしすぎて玲王は彼女の唇に噛み付いた。触れ合うだけのキスだったが、それだけでは我慢できず舌をねじ込む。水希も玲王に動きを合わせるかのように舌を動かすがたどたどしい。
「あっ……ふ……」
「ん……」
静かな教室にぴちゃ、くちゅ……という水音と2人の呼吸音が響き渡る。
キスだけで腰が抜けてしまった水希は玲王の胸元に倒れ込む。
「っと……がっつきすぎたか?まぁ、水希が可愛いのが悪いんだけどさ」
そう言って玲王は水希を姫抱きして、2人分の通学カバンを持って教室を出る。
◇◇◇◇
御影玲王リムジン内にて。
「なぁ、ごめんって。(多分きっと)二度とやんねぇからこっち向いてくんね?」
先程の教室での事を根に持ってはいないが、意地悪のお返しをしている水希は玲王から顔を背けている。
「急にキスしなくてもいいじゃん、しかも教室で…」
「あれは水希が可愛くてつい、な!?それに2人きりだったんだしいいだろ?」
「巡回中の先生に見つかったらどうしてたの…」
「そこんとこは大丈夫。時間くらい把握してるし」
さすがだなぁ、と関心をしていると玲王はまだ顔を向けてくれない水希の手を両手で包む。
「ほんとごめん、これからは(一応)時と場を考えるから…許してくんね?」
まるで捨てられた子犬のかのような顔で見つめてくる玲王に水希は思わずふふっ、と声が零れた。
「ん、ふふっ…いいよ、そんなに怒ってないし。確かに驚きはしたけど」
「……本当に?」
「うん、意地悪されちゃったからそのお返しだよ」
「んだよ、焦ったぁ…」
安心しきった玲王は水希を強く抱き締めてからキスをしようとする。
「……なに、この手」
「ば、ばぁやさんに見えるかもだよ!?」
「いいって、気にしねぇよ」
「玲王くんの部屋に行ったら沢山していいから!!」
「言ったな?約束だぞ!」
(あれ、もしかして私ミスった…?)
とてもご機嫌な主人と自分の言ったことを後悔している主人の彼女に運転中のばぁやは微笑ましく思った。