ハグの日【離れないで、離さないで】
◇◇御影玲王◇◇
嫌な夢を見た。水希が、俺から離れていく夢。理由は分からねぇし、水希が俺から離れていくなんてこと有り得ねぇ。分かっているはずなのに、心のどこかではいつか自分から離れていくのではないかという不安があったんだ。だからきっとくだらねぇ夢を見てしまったんだろう。
「っ…はぁ、はぁ……」
カーテンの隙間から光が差し込む寝室。汗が止まらず、俺の額や背中は湿っていた。隣を見ると心地よさそうに寝息を立てている水希の姿があった。
「みず、き……」
俺は彼女の頬をそっと撫でる。飛び起きたことによってベットが揺れたからなのか、彼女は「…ぅん…」と少し顔を顰め再び寝息を立て始めた。
隣で穏やかに眠るその姿に安堵した俺は彼女を優しく抱きしめ、頬にキスを贈り、瞼を閉じる。こうしていれば今度はきっと彼女と一緒にいる幸せな夢を見られると思ったから。
「……絶対離れないでくれ、ずっと…俺の傍にいてくれ。そんで水希も、俺を離さないでくれ。頼むよ……」
弱々しいこの言葉は眠る彼女には届かない。
◇◇皇水希◇◇
私の彼氏、御影玲王くんはスキンシップ――特にハグをよくしてくる。お風呂上がりや読書中も私を抱きしめて満足するまで離してくれない。彼に抱きしめられるのは嫌じゃない、むしろ安心する。するんだけど、流石に料理中は危ないからやめて欲しい。
「れーくん、私今包丁もってるから離れて欲しいな」
「じゃあ包丁置けばいいじゃん、俺はくっついてたいの」
みんなの前では大人で王子様な彼が私の肩に頭をぐりぐりと埋め、甘えてくる姿に胸がきゅんと鳴る。
「何笑ってんだよ」
「んー?可愛いなって。れーくんっていつも大人な感じだから、こうして甘えてくるなんて珍しいし」
そう伝えると彼は先程よりも力強く抱きしめてきた。きっと照れ隠しなんだろう。私は包丁をまな板に置いて、彼と向き合い抱き締め返す。
「好きだよ、れーくん。ずっと、これから先も」
「いつもは言わねぇのに、こういう時に言うのはずるくね?……俺も、好き。大好きだ、永遠に。だから、離れないでくれ」
「離れないよ、大丈夫」
彼の不安を少しでも拭えるように、私は彼の頭を優しく撫でた。