番外編1.5(終).ファンタジー赤黛その日黛は夢を見た。赤司が看守たちに暴行されているところを遠くから見ていることしか出来ない自分。
そんな悪夢を見ているうちに彼の身体から黒い瘴気のようなものが溢れ出してきた。それはゆっくりと広がっていき、鎖や鉄格子を腐らせていく。その様子を見て看守たちは恐怖の声を上げる。
「なんだこれは……! 何が起こってんだよ!?」
「わかんねぇよ! 俺たちは何もしてねぇぞ!」
「落ち着け!! とりあえず逃げるぞ!」
彼らは一目散に逃げ出そうとするが、扉が開かないことに気づく。鍵を使って開けようとしたがびくともしなかった。そうこうしている間にも鎖や鉄格子はどんどん腐食していく。
「くそったれが!!!」
「ちくしょう! なんで開かねえんだよ!!」
「…………っ」
その時黛はゆらりと立ち上がった。その姿はまるで幽鬼のようで瞳は虚ろだった。そしてそのままゆっくりと看守たちに近づく。
「うわあああっ!!!」
「来るな! くるなぁあああっ!!!」
黛は無表情のまま手を伸ばす。その瞬間、牢屋の扉が勢いよく開いた。そしてそこから現れた人物が黛の手を掴む。
「黛さん!!しっかりしてください!!」
「あか……し……?」
「ああ、オレだよ。遅くなってすまない」
赤司はそのまま黛を引っ張ると、黒い瘴気をいっさい気にせず彼を抱きしめた。黛は何が起こったのか理解できず呆然としていたが、次第に正気を取り戻し始める。
「赤司……無事だったのか……。いや、怪我してるな……ごめん、オレのせいで……」
「いえ、オレは大丈夫。それより黛さんのほうこそ……」
「オレも大丈夫だ。心配かけて悪かった」
黛は少しだけ微笑むと赤司から離れる。そして驚怖で気絶してしまった看守たちを冷たい目で見下ろした。
「こいつらは消してしまわないとな。いや、この国を消さないと……」
「待って黛さん。そんなことしなくていい。そんなことはオレにだってできる。君が手を汚す必要なんてない」
「でもこのままだとお前が酷い目にあうかもしれない。オレはそれだけは許せないんだ」
「オレのためだと言うなら尚やめてくれ。君が直接そいつらに復讐をしたいというなら止めない。しかし、そうじゃないでしょう?」
「赤司……」
赤司は黛をじっと見つめる。しばらく無言が続いた後、根負けしたように黛が小さくため息をつく。
「わかった……」
「ありがとう。それじゃあ力が溢れすぎてるみたいだからちょっと抑えさせてもらうよ」
手をかざすと黒いモヤのような物は霧散する。すると黛の姿も元に戻っていた。しかし先程までの恐ろしい様子とは違い、今はどこかぼんやりとしているように見える。
「……大丈夫かい? 気分が悪いとかあるかな?」
「んー、なんかまだ眠たい感じだけど問題ない」
「そうか、よかった。では早速行こう」
「行くってどこに?」
「帝都だよ。弟がそこに住んでいて、ここに捕らえられていたうちに迎えを呼んだんだ。もっと早く呼べてたら……」
悲痛そうな表情しながら赤司が黛の傷をなぞると、たちまち傷が塞がっていく。黛は驚いて目を瞬かせた。
「すごいなこれ。オレはできないから……」
「本当ならそもそも傷ついてほしくなかったんだけどね……」
「お前が悪いわけじゃない」
「ありがとう。とりあえず弟と合流すればなんとかなると思うから一緒に来てくれないかな?」
「もちろん。どこへでも連れて行けよ」
「ああ、必ず今回の件に決着をつけるよ。約束しよう」
赤司が黛に向かって小指を差し出した。黛はそれを見て苦笑しながらも自分の小指を絡める。
「……もう絶対に離さないから覚悟していてくれ」
「はいはい。お好きにどうぞ」
そして黛が歩き出そうとすると、赤司がそれを制してさも当然のように黛を横抱きに抱え上げた。
「ちょっ……!」
「歩かせるつもりはないよ」
「いや、あの、自分で歩くけど……」
「ダメだ。君は怪我をしているだろう? 無理しないほうがいい」
「でも……」
「それにこうしていた方が君の顔が見られるから安心する」
「……ばか」
「ふふ、顔が赤いよ?」
「うるせぇ」
顔を隠すように黛は赤司の首筋に顔を押し付けた。そして小さく呟く。
「……助けに来てくれてありがと」