清明、緑と紅 瑞山に人影が二つある。自然とその視界にうつる、腰のあたりまでの花々には蝶がゆき交い、頭上には若葉と花がさざめく。生命の明るさに満ちた季節だ。歩を急ぐこともなく、その二人は立ち止まった。山越えの道連れではないのだろう。旅装というには品を備える長いマントの、体格にすぐれた男たちだ。──
心安く言葉を交わしていた目と目がぶつかった。凝と見られていることに気がついた一人の目が、見ているもう一人の目に捕らわれたのだ。そのままたがいに離れず、じっと動かない。吊りあがった目を一度瞬き、
なんだ、飛虎。
ようやくそう言いかけた聞仲を黄飛虎がさえぎる。
「変わんねぇな、オメーは」
聞仲は清冽で凄烈だ。綺麗で硬く柔らかい。聞仲を見るうちに体の底から不意にこみあげる情熱が黄飛虎の胸を破り、そのまま言葉になった。だが、かれの胸は聞仲とともにいるとき、いつも張り裂けそうな表面張力をもってみなぎっているのだ。ささいなきっかけでそれはいつも溢れだす。
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