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    白枝すみこ

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    白枝すみこ

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    清明の頃の飛虎聞。飛虎からの告白。

    #飛虎聞
    flyingTiger

    清明、緑と紅 瑞山に人影が二つある。自然とその視界にうつる、腰のあたりまでの花々には蝶がゆき交い、頭上には若葉と花がさざめく。生命の明るさに満ちた季節だ。歩を急ぐこともなく、その二人は立ち止まった。山越えの道連れではないのだろう。旅装というには品を備える長いマントの、体格にすぐれた男たちだ。──


     心安く言葉を交わしていた目と目がぶつかった。凝と見られていることに気がついた一人の目が、見ているもう一人の目に捕らわれたのだ。そのままたがいに離れず、じっと動かない。吊りあがった目を一度瞬き、
     なんだ、飛虎。
     ようやくそう言いかけた聞仲を黄飛虎がさえぎる。
    「変わんねぇな、オメーは」
     聞仲は清冽で凄烈だ。綺麗で硬く柔らかい。聞仲を見るうちに体の底から不意にこみあげる情熱が黄飛虎の胸を破り、そのまま言葉になった。だが、かれの胸は聞仲とともにいるとき、いつも張り裂けそうな表面張力をもってみなぎっているのだ。ささいなきっかけでそれはいつも溢れだす。
     流れろ。
     木立ちに爽やかな緑風が立つ。かれらをかろやかに吹きぬける。
    「俺は、──殿の太師を初めて見たときのことを覚えてるぜ」
     黄飛虎が思う以上に、黄飛虎の声は低く熱くなった。かれらは、三百年を生きる不老の道士と、二十数年を生きる若い人間だ。聞仲が知る、黄飛虎の知らない時間は長い。それでも、聞仲がかれらしくそうあるのは、かれがただかれだからだと黄飛虎はその厚い胸に知っている。
     聞仲は、今かれらの遙かうえで澄みわたっている殷の空よりすこし明るくすこし薄い色の目をわずかに瞠ったあと、黄飛虎を見たまま口もとに笑みを浮かべた。まるでいま発見した面白いことを告げるかのように、かれは黄飛虎に口をひらく。今は、この山の来歴を話していたところだろう。なんだ。
     どうした、飛虎。おまえは。いつものことだが。
    「唐突な、──面食らわせる男だ」
    (おい、どっちがだよ)
    (だいたい、これぐらいで驚いてんじゃねぇよ)
     黄飛虎はそんな衝動的な不満と渇望をのみこみながら、一方、だがまあおまえらしいなと暢気につづけている聞仲の言葉は心地良い満足にかみしめる。聞仲が黄飛虎を知っているという、ただそのことは、踏んで立つ地面が固くなるような安堵と、ただ単純な喜悦を黄飛虎に与えるのだ。
    「……だが、そうか」
     顎に指をあて聞仲が不意の思案を見せる。
     ほら見ろ、オメーも唐突じゃねぇか。そう思いながら、瞬時、わずかに瞼を落とす聞仲のかたちに黄飛虎は見惚れた。聞仲は精悍で、端整で、綺麗な男だ。黄飛虎の目はいつもかれに奪われる。そしてなにより聞仲は聞仲だけにしかない精彩をいつも放っている。
     まっすぐに目をあげ、聞仲は黄飛虎に言葉をかえした。
     真相を諭し、語るまなこをしている。
     おまえの心に残るほどに。
    「私が、よほど恐かったか」
    (──そんなわけねぇだろうが、この大馬鹿野郎)
     おのれが奪った少年の黄飛虎の心も、今なおわし掴みつづける成年の黄飛虎の心も、いつも黄飛虎の心のどれほどかなどすこしもわからず、今も頓珍漢な納得を見せて笑う聞仲に黄飛虎は腹から唸った。


     朝歌より山をめざし遠駆けに男二人で花を見にきているのだった。凍える冬に熱い酒を遣りながら、春を思って交わした約束だったが、多忙に嫌われ、それでももう花もしまいかというころあいになっても、ならやめようとはどちらも言いださなかった。
     ひらり。
     淡い紅色の薄片が、ひとひらあえかに聞仲に落ちる。聞仲も知らぬころから生きる、ゆうに樹齢何千年というその大木は、花の盛りとはなんだ。それこそが愛でるものか。それはなにひとつこの美しさにも存在にもかかわるものではない、と言うように、堂々と古色蒼然に、おおきく枝を広げている。世に荘厳という言葉が在る。ひらり。ふたひらめがまた聞仲に落ちた。
     ひらり。
     黄飛虎にもつもる。
    「──、遅咲きとはいえ間に合わんかと思ったが、見事なものだ」
    「ああ、すげぇな。……すげぇ、綺麗だ」
     黄飛虎と目が合った聞仲が、そうだなと微笑む。
     常人より抜きんでて丈高く逞しい二人はかれらよりさらに大きな古木の許に在る。黄飛虎は、そして、聞仲の上品な金髪にそのほの紅い花弁が映えるのを目に焼きつけ、古臭く、だが一生忘れられないだろう鮮やかな色だとただ思う。同時に、黄飛虎の心にはそのときまたべつの色が滲みだしている。清水のような空の風のような思いが黄飛虎の胸に溜まった。
    (おまえといるこの時間が俺の時間だ)
     鼓動とともに確信は黄飛虎の胸に刻まれ、また刻まれてゆく。
    「恐いわけあるかよ」
     じっと聞仲を見ながらかれの真実を黄飛虎は告げる。
     なんだ。またさっきの話か。
    「まさかな。恐いはずだ」
     明快に返し聞仲が笑う。
    「ねぇよ」
     そんな恐ぇやつを好きになるかよ。
     一緒に生きたいなんて思うはずねぇだろ。
     だが、それはまだ口にされず、黄飛虎の胸からあふれ流れた心は聞仲という堤に堰きとどめられている。


     ざ、ざ──。
     風がまた木々の梢を揺らした。
     天を仰いだ聞仲の透きとおる水色の目に、まだ明るい空の青が落ち、混ざるのを黄飛虎は見る。聞仲のその横顔、その姿は黄飛虎にとって存在することが不思議なほどの印象強さだ。聞仲を見ると、いつも信じられないものを見るように、こんなに綺麗なやつがいるのかと黄飛虎は思う。
     だが、動けば、喋れば、もちまえの豊かな感情を見せれば、聞仲はなお比べられないほどの強烈な、鮮明な男で、まざまざと移り変わる生彩ある現実として、確かな生身で黄飛虎のまえに、かれ自身の強い意志で殷に立っている。黄飛虎の持つ時間は、聞仲を知るたび、生涯忘れられないものになる。こいつをずっと見ていたい、俺はこいつを何度でも知る、俺は、こいつをずっと見て生きるのだと黄飛虎は決めている。
     聞仲の隣で、だ。
     聞仲を知ったときから聞仲がない生は黄飛虎にない、──なくなった。そうして黄飛虎の生が聞仲がある生である以上、聞仲のない生はもはや戻らない生だ。もはや、黄飛虎のものではない生と言ってもいい。すなわち、聞仲という男を与えられたおのれの生を、かれにとっては、それはかれ自身によって聞仲を得るおのれの生を、黄飛虎は当然に生き抜くと決めているのだ。
     だが、なおそれ以上に黄飛虎は手を伸ばす。それ以上を黄飛虎はもう知っている。すでにその最高の生を手にしている。だが、至る生を、至高の生を、なお黄飛虎は聞仲に教えられた。聞仲とともに作る、聞仲とともに生きる生だ。
     届け。ともに泳ぐ。ともに笑う。ともに戦い、ともに奪い、ともに求める。ともに楽しみ、ともに生きる。


     陽光の眩しさに目を細めると、聞仲は黄飛虎を見あげた。
    「そろそろ行くか。太師と武成王が朝歌からしめだされてはしめしがつかんからな」
     飛虎、と信頼に満ちた声が黄飛虎を誘う。つねならば、黄飛虎がおうよと返す馴染んだ呼応になる。あるいは、登れないこともないけどな、──おい、やれてもやめろと軽口の応酬に。
     だが、黄飛虎はどちらも口にしなかった。
    「俺は、むしろしめだされてぇよ」
     思わずの驚きと呆れに、聞仲がじろりと黄飛虎を見る。
    「なにを言う、飛虎。帰りたくないのか? 子供ではないのだぞ」
     そして笑った。
    「だが、私も楽しかった。また来たいな」
     清潔で混濁がない心のままの顔だ。子供なのはどちらだと、だがその顔にすら見蕩れながら、心を許し合う存在として、黄飛虎は聞仲の肩を抱きたい気持ちにもなる。もし、そうすれば、この先もつづく人生を生きてゆく喜びと気力が、黄飛虎には最大限に充填されるだろう。それは、人と道士であることを越えた、声をかけ合って助け合い、同じ方向へとつづく道を励まして行くことができる、えがたい友との交流だ。
     だが、それだけではけっして聞仲に伝わらない心も黄飛虎は抱えている。かれは、──帰りたくないのではない。離れたくないのだ。聞仲と。その心を黄飛虎は聞仲に伝えたい、その心を聞仲にも望み、わかち合いたい、わかち合ったそれをたがいの生身と心を使って確認し合いたい、そう望んでいる。
    (ガキじゃねぇからだよ)
     男としての黄飛虎の体は、それ以外の黄飛虎であることと同じように、以前より、とうに聞仲という猛炎に焼かれつづけているのだ。


     打ちつけろ。
     熱い視線は、だが、見ているだけでは炙り覆うことはできても奪わず交わらない。波は、揺蕩うことを希まず、奔ることを望んでいる。
     再訪への同意を期待して黄飛虎を見上げる聞仲に、どうしてもそうする以外になく、その明朗な鈍感さと健やかさへと、黄飛虎は腕を伸ばした。これまでも、──これからも。それは、その剛健さと頑丈さが黄飛虎を黄飛虎たらしめる武人の強く太い腕だ。同じ当然さで、それは聞仲のための黄飛虎の腕だ。なんのためらいもなくかれは聞仲の髪に触れる。太い指は淡い金糸を絡めてたどりその肌膚にまで触った。
    「──、────」
     黄飛虎の指はかれの情熱と欲望、当然の権利と奇跡、ただかれの聞仲に触れて揺らがない。
     聞仲はわずかに眉宇を寄せる。だが、たち塞がる巨躯に視界をいっぱいに占められ、その熱と触れられている感触を確かに知りながら、聞仲の疑念はそこになく、黄飛虎の思わぬ真剣さにかれは怪訝を感じている。
    「飛虎……?」
     その眼眸に対し、黄飛虎はまた激しい昂揚を燃えあがらせる。聞仲の目が、それは心だ、黄飛虎の目に、心に向かっているその未知数と今を、黄飛虎は逃さずに掴まえる。黄飛虎は、それがおのれの攻略の、狩りの、獲得の、所有の、独占の端緒になることを、それがかれらの相克と、協力と、征服の始まりになることを、かれの本能の根源で知っているからだ。
     勝機だ。
     その強く烈しく純粋な魂に、それをそのままに映しだす目に、かれを見る聞仲に、黄飛虎は対峙する。
    (俺のどの瞬間も、こいつのどの瞬間も、全部だ)
     黄飛虎も胸を張る。その強い拳でおのれの胸を叩く。その魂と肉体で、黄飛虎もまた昂然と聞仲に交戦を告げる。どうしてその聞仲の眼前にあり、黄飛虎におそれなど生じるというのか。どうしてただ一人のかれの聞仲をまえに。どうして、聞仲を欲し求める黄飛虎が不屈で勇敢でないことなどがある。戦わなければ始まらない。求めなければ、手に入らない。恐いわけなどない。聞仲に向かう黄飛虎の魂にいつも在るのは、沈まぬ情熱と、生きる歓喜と、燃える闘志だけだ。黄飛虎が得うるすべては千載一遇の戦機だ。
     突破を。


    「──聞仲」
     黄飛虎は聞仲の輪郭を隠す髪をかきあげた。白く聡明な額が生え際まであらわになる。
    「オメーはいつもの顰めっつらと仮面なんかで、オメーを隠せると思ってんだろ」
     全力で、全身で黄飛虎はいつも聞仲の視界に躍りこむ。
    「だが、俺には隠せねぇよ」
     聞仲もまっすぐに応じる。
    「──なにが言いたい」
     悠久の不退転を宿すその心に波打つのはつね変わらない冷静さだ。かれにとって信じるに値する目と心を持つ黄飛虎に、聞仲はそう問いかえした。せつなにわずかに生じた反駁と反発は、黄飛虎への既存の信頼によって、自然とその胸底にのみこまれた。黄飛虎の、青銅をも溶かしそうな目を沈着に見つめ、ただ黄飛虎よりかえる言葉を聞仲は待つ。
     だが、
    (──これが、飛虎か?)
     そうしていると、またべつの新規な興味が、そのとき聞仲の胸にはにわかな渦を為しはじめる。今、聞仲を真っ向から射抜くのはその執念の炎を人に移すような黄飛虎の目だ。黄飛虎と知りあって以来、聞仲が何度も目にしてきたただ直情と義ゆえの熱がゆき過ぎる目ではなく、聞仲をして圧倒を感じさせる、有無を言わさず人を黄飛虎自身の正体に引き寄せるような、黄飛虎自身の欲を強く見せるような、強情の目なのだ。
     その目をひそかに訝り、無意識に戦場に在るのと同じ泰然をもって、聞仲は慎重に貪欲に、万象を逃すまいとおのれの目を澄ました。黄飛虎がつぎに口を開くのを、並行する冷静と驚愕と強気のさなかでかれは見つめる。知らずかれは黄飛虎が晒す未知を待っているのだ。
    (こいつは、なにを明かそうとしているのだ?)
     黄飛虎の言葉に端を発した黄飛虎への渦は、聞仲の胸に、静かに、おおきく生長する。そしてそれは、──黄飛虎がいま言わんとしているのは、なぜか黄飛虎自身だというように聞仲は感じている。胸の渦からの興味の泡沫は、なお次々に生じ、ぷくぷくとかれの意識の水面に向かう。
    (飛虎は、こいつの偉そうな口はいつものことだが、私はこの目を知らない)
     その強さは無礼で傲慢なほどの、そんな黄飛虎の眼眸をものと思わず、ただ目のまえの黄飛虎を知ることに惹かれ、聞仲はじっと澄んだ目を凝らした。そして、そんなかれを映しながら、すこし顔をゆがめ、黄飛虎がよどみなく告げた。
    「これで、恐いわけねぇんだよ、聞仲」
    (……恐い? ああ、仮面の話だったか。仮面の及ぼす心象についてか)
     聞仲の不明瞭な胸のどこかで、ひそかなあっけなさと落胆が生まれる。だが、上昇しつづけていた泡とともにそれらは一瞬で消えた。かれに永続する、いつもどおりの時間と反射が聞仲に戻る。
    「そうか」
     かれは黄飛虎に返事をかえす。
    「まあ、単に身だし」
     なみだ。そう思え。
     だが最後まで、聞仲は言い切ることができなかった。そのせつなに、黄飛虎の見せた顔に、聞仲の意識はとどめられ、思わずにかれは黄飛虎を凝視していた。その顔に、よく知っているが、すこしも知らない飛虎だ、と聞仲は思う。黄飛虎が豪胆に笑ったのだ。きらきらと、ぎらぎらと、輝く目をして黄飛虎が言った。
    「俺は、一目惚れしたんだぜ、おまえに」

     
     ざん、ざ。──ざ。木々が騒ぐ。また、こぼれそうに花が揺れる。
     たぷん、と静かに水面が揺れる。
     なにも隠さない水色の目を瞠り、聞仲は眉宇を寄せた。冗談を言っているのではないと、ふざけてもいないと黄飛虎の表情が雄弁に告げる。だが、たったいま耳にした信じがたさに対処するすべが、かれにはわからなかった。黄飛虎の言葉の意味自体は理解しても、黄飛虎がそれをかれに言うことへの理解に聞仲は追いつかない。
    (飛虎は、いま、一目惚れと言った、──か?)
     黄飛虎によって開陳された新しい事実を、聞仲は頭にも心にも落とし込めない。とぎれながら、かれはゆっくりと聞いた。
    「……、──私に、──、か?」
     すぐに、黄飛虎からは揺るぎない言葉がもどる。
    「おまえしかいねぇ、聞仲。オメーが、ガキの俺にどれだけ綺麗だったか、すげぇもんだったか、俺は、一瞬で忘れられなくなった」
     そして黄飛虎はふっと笑った。
    (ああ。──そうか)
     そして、黄飛虎のその表情にせつな聞仲の胸にもわずかな納得が生じた。黄飛虎はかれ自身の昔を見ているのだ、と、そう聡明に鈍感に、それが過去への言及なのだとかれなりに掴んだことに拠って、聞仲もおのれの体勢の立て直しを思う。
    (そうだ。こいつが過去にどう思ったからといって、私に、今に、どうだというのだ)
     生来に、今もなお聞仲は硬く柔軟だ。かれはすぐに黄飛虎に口をひらく。強くなりすぎかける口調を落ちつかせた。
    「だから、──どうした、いや、そうか、」
     そして、かれは続けるつもりだった。
     そうか、怖くない理由はわかった。
     だが、そう言おうとして、聞仲はなにも言えなかった。かれは黄飛虎の目に捕らわれ、言葉はあいた口のなかにあるままに残される。
    (まさか、)
     新しい可能性として胸の底から巻き起こった想像に、聞仲は戦慄く。
    (まさか、こいつは、今もそうだと言わないだろうな)
     それほどに異常で、真摯で、追憶にはとうてい似合わないと感じる黄飛虎の視線だった。それは、しかもまだなにか言おうとしていることがあると聞仲に感じさせる。かれは秀眉をひそめる。黄飛虎が言おうとしているそのなにかを、黄飛虎が持つその答えを知りたければ、さらなる黄飛虎の言葉を待つべきか、かれが、なにが言いたいのかと問うべきかだと、聞仲は理解している。そのまさかの答えは、黄飛虎の次の一手にしかないのだ。
    (まさか)
    (だが、──それを知るまえに話をおさめるべきではないのか?)
     聞仲の胸のうちは混沌とするその状況を容量に入れても、入れているからこそ予想のできない波に波打っている。だが、その波を航行するなら、みずからのバネで泳ぐにしても、制御しやすい凪ぎの冷静さをいったんおのれの踏み台にとり戻す必要があると、聞仲は戦況をとらえた。
    「そう、」
     か、と、だが、やはりかれは続けられない。黄飛虎に遠慮はない。
    「だが、勘違いすんなよ、おまえをもっと知って、もっと好きになった。一目惚れは、俺の大切な、俺の最高の宝みたいなもんだが、それでもおまえに向かう最初ってことにすぎねぇ」
     黄飛虎は、正直にまっすぐに、かれの真実を聞仲に教える。
    「聞仲、俺は、おまえと一緒にいると楽しいぜ。はっきり言えば、俺はおまえを見てりゃあ、それだけでも有頂天だ。オメーを知れて良かったし、これからも一緒にいてぇ。絶対に、当然にだ。だがそんなことよりも、もっと、ただオメーが好きだ。まっすぐで、熱くて、頑固で、優しくて、心のままに笑ったり怒ったりする、そんなおまえを、俺は好きなんだよ」
     だからよ。一目惚れっつったが。黄飛虎は思いを重ね、聞仲に伝える。
    「過去じゃねぇし、厳密に言やぁ、今ってんでもねぇ、今しかねぇのもそうだが、未来もあるんだがよ、だが、一番大事なのは、ただそんなおまえでしかないおまえが俺と一緒にいることで、俺がおまえと生きることで、なにより、俺が愛しているただそんなおまえなんだ」
     黄飛虎の目は迷いなく、まっすぐに聞仲に向かう。
    「わかるよな?」
     だとしたらどうだというのだ、と。もう聞仲はそうは言えない。かれの思考からその選択肢は失われた。そしてかれは不意に思う。だとすれば、──飛虎のことではなく、だとしたら、それで私はどう思うのだ……? ──だとしたら、今、これは、私が私の言葉を、飛虎にかえす番ではないのか?
     心に心をかえすことを聞仲は知っている。
    (──私は?)
     のぼりあがる波濤がある。溢れ、はしりそうな波がある。
     聞仲は黄飛虎を見る。黄飛虎は雄々しく立つ。


     木々の、樹々のとりどりの緑が視界を根こそぎに奪わんかに燃え、萌えている。轟々とごうごうと、若齢の瑞枝がまさに伸びのびてゆく、一葉一葉のうごめいてざわめき、しなやかに拡がってゆく音すら鼓膜を占領して響くように感じられる、そんな錯覚に溺れさせる旺盛さに緑が生きている。
     生命あるものの、それは何人にも阻止できず、阻止すべきでもない横暴さと勢いに溢れている季節だ。はるかに、すべてと関わりながらも、はるかに高く広がる殷の空に向け、年輪も美しさもそのもつすべてを誇るようなその老大木もまた、まさに、深く張った根が幹を支え、太く逞しいその幹が枝々の大きく張りゆくことを支え、張りめぐるその枝々がかぎりなく増えていくような青々とした葉々を繁らせている。
     春だ。熱気を孕む暑さにも春なのだ。雨季を経てそれらはさらに一段と大きくなる。おりしもその証しを見せるかに花が舞う。その季節の成長いちじるしい緑が、燃える命に騒ぐのと同様に、遅くとも、それは春に美しく色づいた懸命な命の健やかさなのだ。ひらり。紅を湛えて花が舞う。その花弁だけを見てだれがその泰然として屈強な老大木を思うだろう。可憐さと色っぽさに魂まで眩むようだ。ざ、──ざ、めらめらと燃え萌える。止まぬ魂のほむらだ。そしてその旺盛で清新な緑だけを見てだれが。むせかえるような生気と精気に。
     美しい世界と時間だ、ありのままの季節と光景だ。
     樹々の緑に、黄飛虎の黄金色の金髪が映える。その強い緑をただ背景にして黄飛虎はなお燃えるようだ。聞仲の淡い金髪を、──聞仲を、うす紅の花びらが装飾する。その品あるうつくしさに彩られて、聞仲はかれの光輝と艶やかさをなお発揮する。かれらはそれぞれに主役だ。生きている。その時間に、その季節に。その春に。その生に。


    「だから、聞仲、俺を好きになってくれ」
     強く、ふてぶてしく黄飛虎が言った。聞仲が、だとしたら私はなにを思っているのかと、そうかれ自身に問うて考え、黄飛虎に答えるまえに、だからこうだと黄飛虎は黄飛虎自身を聞仲にぶつけ、願い、告げる。
    「──、私も、おまえを好きだが、」
     だが、聞仲はまだ言葉を持たない。それでも、そう言って見あげた黄飛虎の顔に、聞仲はなにもできない、なにもしていないおのれへの悔しさともどかしさを不意に募らせる。生じるやそれはおもむろに烈しくなり、かれはかれ自身に疑問を感じる。怒りに似たものすら持つ。それは見たことがない黄飛虎の顔なのだ。その顔に生じた筋の動きに、わずかな表情の歪みに、黄飛虎は苦しく痛く切ないのだとかれは思った。
    「やっぱわかんねぇか、わかってねぇよな、聞仲」
     黄飛虎がかれに確かめる。そうしながら、だが、黄飛虎の目はいっさいの諦めをもたず、太く獰猛な眼光を爛爛と光らせる。違う、おまえの言っていることはわかった、──わかっている、だが、と、だが、聞仲の言葉は声にならなかった。
    「好きになってくれ」
     黄飛虎は要請する。
     引き寄せられる、と聞仲はまなこを瞠る。胸に、波に、黄飛虎の切なさと思いが乗り込んでくるように感じられた。
    「好きだ、聞仲」
     聞仲の反応を待たず強引に距離をつめると、躊躇なく黄飛虎は聞仲の唇を奪う。


     聞仲の唇のやわらかさがぐつぐつと黄飛虎の本能を煮る。そうして聞仲への情熱をかれの肉体に溜めながら、また聞仲に口移しながら、これで聞仲もかれの気持ちがわかっただろうと黄飛虎は思う。これでわからずとも、口を触れ合いつづけるこの瞬間の連続にわかるだろうとも信じている。だが、想像するそんな結果は副次的な産物であるだけで、わからせるための口づけなど、その思考にも行動にも黄飛虎は持ちあわせない。
    (もしこいつが嫌なら)
     黄飛虎は身勝手に思う。
    (俺は、いつもみてぇに怒られんだろ。完全に怒りまくって、跳ねのけられるかもしれねぇが)
     そうわかりながら黄飛虎は聞仲を引き寄せる。聞仲への恋慕が黄飛虎をつき動かす。それはただかれの聞仲への求愛なのだ。そうして黄飛虎はかれ自身をぶつけ聞仲を待つ。そうしてまたかれに返る、その瞬間の、次の瞬間の、ならばまた黄飛虎もかれを聞仲に返す、どの瞬間のどんな聞仲をも黄飛虎は欲している。それが黄飛虎の望みだ。
     だが、まだ聞仲は聞仲だけがもつその反応を、心を、その意志を黄飛虎に見せない。黄飛虎が触れる、聞仲の唇と、黄飛虎が掴む、聞仲の肩と上腕の感触だけがかれの熱を煽りつづける。黄飛虎が触れているのは聞仲なのだ。硬く、柔らかく、しなやかな筋肉に黄飛虎の太い指が食いこむ。殷のために鍛えられた体がかれにわかる。聞仲だ。ふっくらした唇がかれに伝わる。弾力がわかる。純粋で無垢で愛しい、聞仲の唇だ。聞仲だ。黄飛虎の人生を、黄飛虎の心を奪った男だ。こんなやつがいるのか。こんなやつはここにいる。こんなやつがいるのだ。──聞仲、──聞仲。黄飛虎はかれ自身を聞仲にぶつけ、かれ自身の心のままに振る舞う。そうして、聞仲はどの瞬間にも黄飛虎に喜びを与え、黄飛虎を奪いつづける男なのだ。
    (おまえも、聞仲、俺を好きだよな)
     そして、黄飛虎が奪いつづける男だ。
    「────、──────」
     聞仲の目は驚きに見開かれたままだ。触れ合わされた黄飛虎の唇の厚みと熱さをいやおうなく知りながら、だが、かれの思考は黄飛虎を押しのけるより、目のまえにせり上がる怒濤を、そして流れこみかれの胸を一杯に満たそうとする黄飛虎の心を理解しようとする。
    (これは、飛虎の、だからこうだの心だ)
     その暴流を無意識の誠実さをもって聞仲は把握する。黄飛虎が晒すかれへの欲望と真剣さにかれは曝されている。苦しいと感じるような胸の切なさに聞仲は目を細めた。黄飛虎はそして、昔から好きだと言うのだ、昔から、
    (──私を?)
     腑に落ちない混乱にやはりかれは襲われる。だが、聞仲の思考はやまず、かれが在る足場を進むための波を掻く。聞仲にとって、波は自明に揺れ、同時に自明に越えるものなのだ。黄飛虎が明かした、明かしているものをかれは見つめる。しかも、黄飛虎は本気で今も好きだと言うのだ。
    (今も、──私を? いや、……──私を、か)
     示される以上、聞仲にそれを無視する道は最初から存在しない。だが、黄飛虎の唇はそのうえに念を押すかになお強く存在する。聞仲の心に、そうしてようやく黄飛虎の主張はその意味と形を、明確に堅固になしはじめる。ならば、かれはそれを確実に懸命に掴み、受け入れるだけだ。そして? だから、だ、とかれは思う。
    (だから、飛虎は、こんな、)
     春の木立ちのもと、黄飛虎に口づけられながら、かれは思う。
     だが、かれなりの豊かな思考と感情に溢れるその永い一瞬は、聞仲がそう思ったとき、急に動いた。
    (! ──?!)
     それまでは閉ざされていた青い目と、黄飛虎と、聞仲は目が合ったのだ。それは、深い青だ。黄飛虎の灼熱の青だ。突然に、至近でぶつかる黄飛虎の目に聞仲は驚く。ぶつかるその目に映るかれの知らない必死さにかれの胸は跳ねた。だが、押しつけがましく、──力強く、──同時に優しい、──懸命で、──ぶしつけな、それはかれがよく知る黄飛虎だ。なにも変わらない、と聞仲は不意に思う。そのありさまも、本体も、かれが好ましいと知る黄飛虎がただそこにいるだけだ。かれが好きな、それはただ黄飛虎なのだ。せつな、聞仲は透きとおるその水色の切れ長を閉じる。思わずに、せつな、なぜか黄飛虎と目を合わせていられなかった。かれの上腕から腰に黄飛虎の片手が移る。視界を閉ざされ、かれの触覚は、皮膚はより強くかれに黄飛虎を伝えた。熱く、ぶ厚く、大きくがっしりと、当然の顔をした強欲で、黄飛虎はかれの腰を掴む。聞仲は、そして思いつづける。
    (だから、飛虎は、この手を、この唇を、だからこんなに)
     だから、飛虎は、こんなに執念深くなお優しいのか。まどいはなお入り混じる納得を、それでもたしかに聞仲は知る。黄飛虎の力がより強くなった。かれと黄飛虎の肉体と肉体は近く、触れ合っている。その体の熱さまでがかれに伝わる。それは黄飛虎の、だれよりも大きく逞しい男の体だ。
    (そして、こいつは私にも好きを期待している)
     聞仲は、──そして、また唐突に理解する。かれに性的な欲望を見せて接触する黄飛虎は、しかも、かれにもそれを求めているのだと。飛虎は、私にも、その口にこの口を、その手にこの手を、その体に、その熱さに、その思いに、私の同じものを返せと言っているのだ。飛虎は、私に、飛虎自身に対応する存在であれと。こいつは、私にもそれを期待しているのだ。
     そう思ったとき、ぞくりとなにかが聞仲の体全体を震わせた。
    (なに、なんだ、)
     神経がさわぎ、体が溶けるような感覚を聞仲は制御できない。身体中の細胞は溶けながら昂揚するようだ。かれ自身のその変化に聞仲は驚く。ずっと、すでに触れつづけている黄飛虎の唇が、突然に異様なものだと感じられた。早鐘を打つあまりに胸が音を失いそうだと感じる。体が発火しそうな熱を訴える。ぞくり。その信じがたさにも、かれはなすすべを持たない。まただ。やまないどころか、まだだ。その耐えがたさにかれは震え、驚き、耐え、応える。
    (なんだ。体が、勝手に)
     聞仲は黄飛虎を跳ねのける。精一杯に力を入れ腕を張った。それは黄飛虎が口を開きかれに侵入しようとしたのと同時だった。舌と舌がもうすこしで触れるというところで、離れたとき、かれと黄飛虎はたがいに口をすこし開いていた。


    「嫌だったか、悪ぃ」
     突き飛ばされた驚きの顔は、だがすぐに聞仲に向いた。呆然と聞仲も、ゆっくりと返す。
    「──いや、……驚いたが、そう言うなら、突然なのはそれはいい」
     聞仲のわずかな歯切れの悪さに、その言外があることを感じ、黄飛虎は食い下がる。
    「……よかねぇよな。──すまねぇ」
     だが、黄飛虎はつづける。
    「だが、俺とどうこうなんか、おまえは考えたこたねぇんだろうが、俺は本気なんだ。聞仲、つきあってくれ。俺を考えてくれねぇか」
     聞仲は黄飛虎をじっと見た。真剣だが、勝手でやはり押しの強い男だ。しかもかれへの要求は増えている。
    (こいつは人の気も知らず)
     思わずにかれは腹を立てる。
    (私は、考えているだろうが)
     聞仲の体も思考も、そのうえおのれが知ったばかりの異変に、変化に、まだ理解もできず、驚きつづけているところなのだ。
    「……飛虎。私も、おまえの言うことはわかったつもりだ。考えないとも言っていない。おまえが真剣なら、無論考える。だが、おまえの言うことに驚き、考えもまとまらないのに、あんな、──おまえはやはり唐突すぎる」
     平静をつとめても、聞仲の口調には不興が滲んだ。
    「そこは悪ぃ」
     黄飛虎もそう真摯に謝る。だが、そこには同時に、聞仲の本音を感じている嬉しさも当然に溢れた。そんな黄飛虎に、聞仲はなおつづける。
    「しかも、あんなことの、それがおまえだと、私だと思った時、私は体がおかしく、いや私自身が、──とにかく慣れない感覚に、また驚いたのだ、それでどうして、」
     なにを考えられる。
     だが、そう言った聞仲の言葉は黄飛虎の耳に入らなかった。黄飛虎は、かれにとってなによりも大切で大事なことを聞仲から聞いたのだ。黄飛虎は止まり、聞仲を見る。ひらり、とあてやかな紅色の花が、黄飛虎の巨体に、かれの黄金色の金髪にも舞い落ちた。
    (聞仲、俺を意識して感じたのか?)
     黄飛虎はそう言いかけ、そのすべてをその大きな胸に溜め、そしてそのすべてに替え、聞仲に腕を伸ばした。聞仲、俺に反応してくれたのか? 全身でそう言いながらかれは聞仲を抱きしめる。
    「飛虎?!」
     聞仲が暴れる。だが黄飛虎は離さない。いっそうに強く聞仲を抱きしめた。このまま聞仲をどうにかしてしまいたい。聞仲を好きでたまらない。どちらの気持ちもが黄飛虎の胸を、体中を荒れ狂う。
    「聞仲、好きだ。考えてくれて嬉しいぜ」
     一瞬ののち、しかたがないというような聞仲の声が黄飛虎の耳に届いた。
    「だから、まだ考えられていないと言っただろう。……飛虎、──もう一度、確かめるぞ。おまえは、本当に私を、……そういった意味で、私を好きなのだな?」
    「っ──、──! ってんだろ、俺はおまえを、好きでたまらねぇんだよ」
     黄飛虎の気持ちにも、聞仲自身の気持ちにも鈍い聞仲に、そうして黄飛虎の愛しさは募りやまない。聞仲は本気で真摯にそう言っているのだ。どこまでも真面目で誠実な男だ。そして、その聞仲は、黄飛虎のものなのだ。もう一度、かれに口づけたいと黄飛虎は思う。
    「すこし離れろ」
     強い力が黄飛虎を引き剥がした。聞仲がまっすぐにかれを見る。
    「飛虎、時間をくれ」
     真摯な声が言う。かれらしく、誠実に黄飛虎に言う。
    「飛虎、一人で走るな。私がおまえとおまえの心をどう思っているか、少しでいい、考える時間がほしい」


     黄飛虎と聞仲は、それぞれの昂揚を、わずかな紅潮を隠しきれない頰をもちたがいにたがいと見交わす。精悍で純粋な青い目と水色の目が笑う。それは緑が生長する遅い春だ。潮位はすぎて溢れた。だが、潮位などあってないようなものだ。凪も嵐も、あらゆる波を打つ胸は、どこまでもそれ自体が大きく広がってゆく。
     かれらの背に緑が燃える。まるで戦いの鼓だ。かれらのうえに花が舞う。まるで人生の祝いとはなむけだ。ほかのなにごとでも、ほかのなにものでもなく、かれら自身が、季節を、時を、その体に刻み、積み、また刻んでゆく、積んでゆく。
     かれらは山を降りる。殷が、殷の武成王と殷の太師を待っている。かれらを、黄飛虎と聞仲の殷が、かれらそれぞれの殷が待っている。それは春でも、山でも、それ以外の季節でも、国でもない。それは、ただ命に溢れる世界だ、命を燃やす時だ。ただかれらとして生きるかれらだ。
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    いしえ

    DONE▼聞仲さまの教育方針=生き様について(ミュ2の話も少しある)(朱聞要素と、途中から飛虎聞とある)
    ▼ミュの飛虎と聞仲について(たぶんCPではない)
    後者はCPではないものの、ともにミュに関する色が強いのでまとめました。
    封神考察とメモ集2(①朱聞要素と、途中から飛虎聞②たぶんCPではない)▼聞仲さまの教育方針=生き様について(ミュ2の話も少しある)(朱聞要素と、途中から飛虎聞とある)▼


     王として生きることは、王として死ぬこと。血族を残し、場合によっては殷のために殉死することで、長期的視野での“殷”全体、即ち殷王国の存続のバトンをつなぐこと。それが王太子の地位に生まれた者の責務である、というのが聞太師の教育でまず刷り込まれることだと考える。
     これは朱氏に子=殷の存続を託されたときから無意識に掲げていて、聞仲さまの潜在意識にあったことで、そして、仙道としての生が意識的に冷酷にさせた、個々の人間生へのまなざしだと思う。聞太師に直接託された“新たな殷王”は、朱妃の子個人のみでなく、半永久的に続くべき、“今後のあらゆる殷王という可能性”なのだった。聞仲はそれをじゅうじゅう承知して、次々に代替わりせざるを得ない人間生を、受け入れるしかなかった。
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