土曜日の穏やかな夜。長尾にのすりと跨ってきた憲顕の目は隠す気もない熱を帯びている。
「世間には、夜の主従逆転ごっこというものがあるらしい」
「はあ」
「お前も明日は休みだろう?」
……つまりやれと。
ことがことだけに辞めさせたいが、憲顕の興が乗った時点で結果は決まっているようなものだった。長尾は大人しく流されて、降ってくる唇を受け止めた。
「先日、岩松が話していてな。面白そうだと思って」
ちゅ、ちゅ、と戯れにキスを贈る憲顕は上機嫌に腕を回してくる。完全にやる気だ。
「……いつもの通りでは満足していただけませんか」
「今日はダメだ。ふふ」
なけなしの苦言もあっさり却下されて、合わさった唇から滑り込んだ舌はわずかな酒精が香る。この程度では晩酌が進みすぎたということもないだろうから、素面で言っているのか。……素面のほうがたちが悪い。
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