魂の味。(🚖)+おまけ──迷界のホテルにおけるタマシイの扱いは、嗜好品であったり、美容目的の妙薬……のような物だったりする。
今日もこのホテルの主人に押し付けられた様々な仕事を終えたタクシーは、ホテルのロビーの年季が入り薄汚れたソファに、グッタリと腰掛けていた。
「新しい魂を現世で取ってこいとか……無茶言うなよなぁ……」
薄暗いロビーの中、肘掛けにもたれながら、タクシーは不気味に輝く小瓶を手に掬ってハァ…と息を吐いた。小瓶の中で青白く光る魂は、まるで水中を漂う海藻のようにユラユラと揺れている。タクシーは横目でそれを見ながら咥えタバコに火を付け、目一杯息を吸い込み、ハァー…と全力で肺の中の空気を出し切った。口から立ち上った煙を見ながら、今シェフに見つかったら即お陀仏だな…などと思案して、適当に十字を切り…タクシーはよく知りもしない神に祈りを捧げた。
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最近、新たに迷界に入ってくるゲスト…もとい魂が中々居ないとかで(入った先から全部食べてしまっているだけでしょう…とは誰も言えない)、タクシーはグレゴリーから、現世で魂の調達をして来いと命令されていた。やり方の指示も何も無いので、適当にタクシードライバーとして現世をブラついて、心身共に疲れ果ててそうな客を乗せ、迷界まで連れてくる……そんな事を繰り返していた。
──今日はツイていない日だ。
いつもならホテルの前まで連れてくれば、客はそのままフラフラとホテルに吸い込まれて行く。それを見送って、タクシーの業務は終了だった。しかし本日という日はホテルに着いたと言うのに、お客さまはタクシーを降りようとしなかった。……それどころか、降りたくない、家に帰りたいと仰る。
「お客さァん…?……困りますね、ここまでもう走らせてしまったので……」
車ってタダで動いてる訳では無いんスよ。
そうタクシーが告げ客を振り向くと、客は嫌だ!嫌だ!とヒステリーを起こし、タクシーの車内を暴れまわり始めた。迷界に来た魂は基本的に身体を持っていないのだ。車内をビュンビュンと飛び回る魂に、タクシーはうわ~~~…と口をあんぐり開けてしまった。良い大人が癇癪かよ…と、正直ドン引きである。少しの間呆然としてしまったが、こうなっては仕方無いと…タクシーは車内に積んでいたコンソールボックスの蓋を開ける。中から取り出したのは透明な小瓶だ。緩く栓をしていたコルクを外し、魂が動き回る後部座席に小瓶を持った腕を伸ばす。車内の壁に縦横無尽にぶつかりながらバウンドしている魂の軌道を読んで、数回腕を振ると、スポッと魂は勢い良く瓶に収まった。
万が一の為に瓶を積んでおいて良かったな…と、タクシーは魂が逃げない内に蓋をする。
「も~お客さん…手間取らせないでくださいよォ…」
タクシーは接客スマイルで魂にヘラりと笑いかけた。顔を近付けるとヒィィィ…と悲鳴が聞こえた気がするが、タクシーの興味はもうソコには無かった。このあと、この魂をホテルの管理人に預けなくてはならないのだ。
「余計な業務を増やしてくれちゃって……なぁ?」
タクシーがにこやかな笑顔で、ブンブンと小瓶を容赦無く振れば、中の魂はアァアァ…!と悲鳴を上げた後、スン…と大人しくなった。
「い〜こい〜こ…そのまま大人しくしてて下さいねェ?」
小瓶を雑にドリンクホルダーに突っ込んで、一服してから行こうかと…タクシーはタバコを取り出しライターで火をつけようとした。しかしすんでのところでそれを止め、代わりに魂が入った小瓶のコルクをほんの少しズラし、鼻を近付けた。ゆらりと、何とも名状し難い匂いが漂って来て、タクシーは顔を顰める。
「こんなんの、何処が良いんだか……」
漢方的な感じなのか、珍味的な感じなのか……まぁ、迷界のホテルの支配人の感情など、計り知れた物では無いか…と。タクシーは早々──思考を諦めたのだった。
おわり。
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オマケ妄想。魂食べたことある☎️とドン引きの🚖と舐めたことある🪞。
☎️「俺食べたことあるよ~」
🚖「エッ…?お前アレ食べたの…?」
☎️「結構旨いよ、アレ」
🚖「うへェ~…物好きだなァ…」
☎️「ミラーは?食べたことある?」
🪞「俺か?舐めたことなら」
☎️「なめ…!?…スケベェ…っ!」
🪞「なっ、なんでだよ…!?スケベ…!?」
魂美味しい闇鍋妄想。
☎️「なぁ〜もう煮えたかな?」
🪞「生でもイケるんだから、サッと湯掻く位でいけるんじゃねェの?」
🚖「ン〜…美味いなコレ」
☎️「エ!どれ?何色…!?」
🚖「この水色の…」
🪞「いや、全部水色だわ」