and after all.雑踏の中で、少年が大きな楽器ケースを背負って歩いている。ショートヘアで、ブルネットとは違う、光を通さない黒髪。身につけているものは上から下まで全て黒で、そこだけ異質、まるで大きなカラスが歩いているようだった。高校生くらいかもしれない。行き交う人より頭半分ほど小柄にも関わらず、誰とも接触せず、器用にすいすいと進んでいる。
交差点に行き着くと四方を見回し、しばらく考えた様子のあと、少年は老夫婦に話しかけた。身振り手振りでしばらくやりとりしたあと、老夫婦は笑顔で手を振り、少年は頭を下げた。日本人だ。日本で育って、つい最近ここへ来た日本人。確実に、たぶん。
「…あいつだ」
向かいの通りの店先から緑色の瞳を通して一部始終を眺めていた男は、感心したように呟くと、改めて少年カラスの動きを追う。
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