比翼連理「ねぇヤシロ」
今までと何ひとつ変わらない日常。
「すきだよ」
ただ、ひとつ変わったのは俺だけが好意を伝えるようになったことだけだ。
【比翼連理】
今日もヤシロは振り向いてはくれない。
幾ら好きだと伝えてもあの時以降、何も返してくれなくなってしまった。ヤシロの好意を無下にし続けた俺にはそれを問う権利も、理由もない。
それでも俺は君に愛を謳い続ける。
毎日、ちょっとずつだけどシチュエーションを変えてみたりしたこともある。ヤシロは夢見がちだから喜ぶかなって思ったけれど、俯いてしまっただけだった。もしかしたら、俺が見落としてただけで喜んでくれていたのかもしれないけれど。
…ここまで必死になったのっていつぶりかな?思ったよりも最近なのかもしれない。
ヤシロを初めて泣かせてしまった時?
ヤシロに好きだって返した時?
それもそうだけど、何かが違う。
ああ、そっか。俺、いつも必死なんだ。昔から好きな子に無視されるのが辛くて、寂しくて。振り向いて欲しくて。
――ねぇ、ヤシロ。俺がもっと早くに言えてたらこんな思いしなくて済んだのかな?
悲観的になったのを誤魔化すように今日は、もう一度だけ。
「俺、ヤシロが好きだよ。」
「………知ってる。」
…返ってくるなんて思ってもみなかった。
煩いくらいにないはずの心臓が高鳴る。顔も、首も信じられないくらい熱い。もともと幽霊である俺には体温なんてないはずなのに。
「花子くん、かお真っ赤」
「…それはヤシロもじゃん」
ヤシロもヤシロだ。今まで散々焦らしておいて急に距離を詰めてくる。
昔、拾った女性誌に「押して駄目なら引いてみろ。」みたいなことが書いてあった気がする。もし、ヤシロが意識して今それをやっていたのなら、とんだ悪女だ。
それでも俺は君を愛しきる自信があるケドね。
「花子くん。」
「…なに?」
何よりも愛おしい助手に呼ばれて、浮力でできた身長差を埋めるように少しだけ上目遣いで見上げられて嬉しくないなんてあるはずがない。
「さっきの、もう一回言って?」
あぁ、もう。しょうがない。ヤシロがやめてって言ってもやめてあげないからね。
手を取って浮いてできた差を地面に降りることで埋めて。跪けば君の理想の王子サマに近づけるかな?なんて。
「ずーっと好きだったよ」
そう言えば、いつから?なんて悪戯っぽく君は言う。
「ヤシロが生まれる、ずーっと前から」
かな?と笑い返せば、また耳まで染めてふわりと笑ってくれる。
うん、やっぱりヤシロには笑顔が似合うよ。
やっと叶えられた願いに喜びそうになるのを蓋をして、君の額にひとつだけキスを落とした。
――今度は、ヤシロのお願いが叶いますように。