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    Whitelily0114_1

    @Whitelily0114_1

    自創作を描きます
    小説とかはこっちに投げる予定です
    あんま来ないかも

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    Whitelily0114_1

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    葉を殺した後のアステルの話です。この頃のアステルは75歳。

    後悔と喪失、未来への思い…なんだろう、今、すごく寂しい。

    血管の中全てが喪失感で満たされている感じ。
    それもこれも、おそらく昨日の出来事の所為。

    ーー昨日、そう、昨日。
    なんだか妙に胸騒ぎがして、家から飛び出して聖堂に行ったんだ。
    3月20日。「彼ら」がちょうど5歳になって、太陽と月の祝福を受け取る儀式をする日。
    本来厳かに、平和に、つつがなく執り行われるはずの儀式。太陽と月が生まれると言っても過言ではない儀式。先々代の月が帰ってきた時でもある。
    なぜか、本来晴れやかなはずの儀式に、不純物が混じるような気配がした。

    「…っ」
    ああ、思い出したくもない。あの光景。
    息が詰まるほど漂う鉄の匂い。目を背けたくなるほど穢い赤い色。

    「…アステル?」
    あの目は、一生忘れることはないだろう。
    自分に向けられた、恐怖と困惑、驚愕が入り混じった目。殺した後も殺してやりたいあいつの目。

    「お前が!…2人を…」
    あの時は冷静さを欠いていた。呪いのせいでもあったが、目の前に起きていたことが、とても現実に起きていることだとは思えなかったから。
    その後の奴の言葉に耳を疑った。
    「ああ。そうさ。オレが、殺した。2人とも。研究のために。」
    そんな、そんな。奴の知的好奇心のために、未来ある2人の人間の命が奪われていいはずがない。吐き気がする邪悪。
    こんなやつをのさばらせてはいけない。そう、思った。

    その後はあんまり記憶にない。あんなひどい思い出を自分の脳に留めておきたくなかった。みんなとの幸せだった思い出が、あんなやつの身勝手な行動で上書きされたくなかった。

    ただ、覚えているのは。
    あいつを殺したこと。

    聖堂の中だと場所も狭いし、民間人に被害が出るかもしれなかったから場所を変えたんだ。
    死闘の場所は、僕が初めて意識を持った場所。
    僕が生まれた場所。
    街の郊外の丘。木も何もない草原。いつしか、4人で天体観測をした場所。
    星々がよく見える場所。

    文字通りの死闘だった。勝てば信念を貫けることができ、負ければそこで人生が終わる。
    あらゆる手を使った。自身の血、持ちうる限りの魔法、星の力。
    時刻は逢魔時。視界が薄暗く、武器の視認が難しい時間帯だった。
    相手は暗器使い。視覚の外から攻撃をしてきた。何回頬を刃物が掠めたかわからない。
    腕、脚、腹を、何回貫かれたかわからない。
    それくらい、お互いに限界の戦いだった。殺意を込めた攻撃だったから。

    最後に僕はあいつの正面、懐に飛び込んで、

    自分諸共レーザーで吹き飛ばした。


    そのあとは、なんだっけ。ああ、そうだ。
    気がついたらノクスに介抱されていて。聖堂の一室で目を覚ましたんだった。
    どうやら僕はうまくやったらしくて、あいつの心臓を貫いたようだった。
    右胸が今もジワリと痛む。人間ではない者だから、回復は早いはず。一週間もすれば痛みは消えていると信じたい。

    ああ、もう、何もかもが自分の手から離れていった。
    もし殺されたソルが、儀式で「ソル」の記憶を持ったら?もし殺されたゲアラハが、また「ゲアラハ」であったら?
    そんなことは考えたくない。
    大事な人も、これから大事な人になるかもしれなかった人も、知ってる人も、全てが掌からこぼれ落ちていった。
    自分の不甲斐なさに涙が出る。あと数分、数秒つくのが速ければ。もしくは、出会った時にあいつと知り合いにならなければ。
    「ゲアラハ」の言ったことは正しかった。見ず知らずの者は、簡単に信用しちゃいけない。あの時家にあげたのが間違いだったんだ。

    次のソルとゲアラハは、果たして生まれてくるのだろうか。こんな出来事は初めてだと、ノクスは言った。
    もし、次が生まれて来なかったら。その時は、どうしようか。
    「ソル」はソルとして帰ってくるのだろうか。それとも、別の形で?
    確証がないことを約束するんじゃなかった。「またね」と言って別れるんじゃなかった。
    いつかわからない「また」を約束するには、まだ早かった。
    また惰性で生きる日々が続くのだろうか。
    左手薬指の冷たさが、骨まで伝わってくるようだ。
    息を止めんとする呪いと共に、いつまで彼らを待つのだろうか。
    終わりのない苦しみに僕を置いて行くことに、彼は気付いていただろうか。

    僕は何が目的なんだろう。「ソル」と再会して、何がしたいんだろう。
    再会することが目的なんだったら、僕は今すぐにでも毒を飲んで死ぬ。そして、空の元で再会を果たすだろう。
    だって、その方がずっと楽だから。
    僕は、彼と何がしたいんだろう。
    55年前までの、4人での暮らしは戻ってこない。たとえ彼が、彼らが戻ってきたって、ナデシコは戻って来ない。
    僕は、何をしたいんだろう。
    楽になりたいのだろうか。それとも、苦しみたいのだろうか。

    でも、約束したから。彼との最後の約束。
    「ソル」は、僕に生きていてほしいのだろう。「ゲアラハ」もそうだった。彼らは、僕を大事に思っているから、生きていて欲しいんだ。
    僕は、別に孤独に生きたいわけじゃない。みんなで一緒に生きていたかっただけなんだ。
    僕1人じゃ、この家は広すぎるし寒すぎる。
    至る所に痕跡は残してあるが、それでも時と共に薄まってしまう。

    もう少しだけ、待ってみよう。
    まだ決めるには早い。僕には時間がたくさんある。次の2人にかけてみよう。
    もし、次がなかったら、その時はその時だ。

    「よし。」
    喝を入れるため、指輪をはめなおして立ち上がる。
    「僕がこんなだと、みんなも心配しちゃうよね。」
    卓上に飾ってある桔梗に話す。返事はもちろん帰って来ないが、寂しさを紛らわせるには十分だ。
    いつも通りに、日常を過ごそう。
    大丈夫、1人になるのは三度目だから。
    「大丈夫。大丈夫だから。」
    彼女がやってくれたように、自分を落ち着かせるために口に出す。
    僕が耐えれば済む話ならば、喜んでそうしよう。

    彼が帰ってくるまで。
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