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    manju_maa

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    manju_maa

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    三学期明智、自分が死んでる存在であることは最初の段階から気付いてそうだけど、自分が主人公の願いで生きてることまでは誰かに言われるまで分からなかったんじゃないかな~って思いました(最後まで読めば言いたいことが伝わる発言)

    明智が嫌いな竜司の話───俺は、明智が嫌いだ。
    テレビ局で会った時から気に入らなかった。『僕はなんでも知ってますから』みたいなすまし顔も、自分以外のヤツを内心では見下してそうな舐めきった態度も、貼り付けたような胡散臭ぇ笑顔も、生中継で迷いなく怪盗団を否定しやがった発言も、何もかもだ。
    俺らの悪口を言った途端テレビで引っ張りだこになって、色んな奴に持て囃されて、探偵王子だかなんだか知らないがお高く止まりやがって。そんな気持ちだった。今にして思えば、アイツは俺らと出会った頃には俺らが怪盗団であることを知っていたように思える。だからこそモルガナの声も聞こえたし、付き纏うようにいつも俺らの前に現れていたんだ。いや、俺が会ったのは一度だけだけど、蓮の前にはしょっちゅう現れてたらしいから。



    文化祭で直接俺らの正体を知っていると脅してきて、真の姉ちゃんのパレスを攻略しようって話になった時──つまりアイツの裏の真実を知って、双葉や春の母ちゃんや父ちゃんの仇だって分かった時…何度あの白々しい顔をぶん殴ってやろうかと思ったかは分からない。あれだけ正義の探偵サマ面して、堂々と俺らを否定しておいて、そんな奴が世間を騒がす事件の実行犯だったなんて、とんだ茶番だ。しかもその罪を俺らに擦り付けて、アイツは大事なダチを殺そうとしている。蓮を守るためとはいえ、俺らはそんなヤツを仲間として引き入れなければならない。なんの冗談だって話だ。



    真の姉ちゃんのパレスから脱出して、蓮は囮となって警察に捕まってしまった。俺らは蓮が明智とその裏に居る黒幕の息の根がかかったクソな大人達に囲まれて酷いことをされてる間、何もすることができない。そういう作戦だったから。
    それでも、明智を出し抜くためとはいえ蓮に全ての負担を押し付けてしまったみたいで、仲間として、アイツのダチとして、不甲斐なかった。結局そのクソみたいな明智の作戦は俺らの作戦の返し勝ちで、蓮は殺されることなく生きて帰って来てくれた。でも、ボロボロになった親友の姿は何処までも痛々しくて、やっぱり明智への許せねえ気持ちが増すばかりだった。



    「レンはアケチのヤツとしょっちゅう夜に会ってたんだ。わざわざパレス行った後とかも、吉祥寺まで出向いてさ。ビリヤードしに行くとか、カフェとか、ジャズバーとか、ゲーセンに行くとか言って色んなところ行ってみたいたぜ。ニージマのパレスを攻略してる最中もずっとだ」
    「でも、自殺報道が出たってことはアイツが認知存在の蓮を殺しやがったのは事実だろ。結局蓮を騙すための演技だったんだよ、全部」
    「それはそうかもしれねーけど…正直ワガハイ、そうは見えなかった。アケチのヤツ、レンと話すのは純粋に楽しかったんじゃねーかな」
    「はぁ?寝言言ってんなよお前」
    「だって、じゃないと全部知った上でもレンがアケチに会いに行く理由がねーだろ。レンもレンで、アケチと会う時間は結構充実してたみたいなんだ。だからワガハイ、分かんねーんだ。アケチはアケチなりにレンのこと気に入ってるはずなんだよ、間違いなく」
    「…………だったら、ンなもん尚更駄目だろうが」
    すぐそばで見ていたモルガナだからこそ、その話は嘘でも思い違いでもないと思う。でも、そんな話を聞いたところで「はい、そうですか」なんて言えるわけがない。
    蓮と会う時間を楽しんでたくせに、真の姉ちゃんのパレスであんなにノリノリだったくせに。結局アイツは俺らを、蓮を裏切った。蓮を殺すための殺意はしっかり残しながら、アイツは蓮との時間を過ごしていた。いつか殺す相手だと理解しながら、その殺す相手と楽しい時間を過ごしていたなんて、どんな頭をしてたらそんなことができるんだ。考えるだけでゾッとする。
    本当は殺したくない、とか、計画のために仕方なくとか。そういう少しは同情の余地がある感情がアイツにあったのだろうか。無かったのならば、そこまでしても明智の中で蓮を殺すことに迷いが生まれなかったのならば、アイツにとって蓮との時間はその程度のものだったはずなんだ。
    なのに、蓮は明智に対して恨んでいる様子がない。あんなにボロボロにされておいて、アイツは明智に微塵も怒りを覚えてない。問い詰めても蓮にしてはスッキリしない返事をしながら苦笑いを返してくるだけ。何をして何を話していたかは知らないが、蓮の中で明智はまだ『楽しい時間を共に過ごした相手』なのだ。
    だから、蓮が明智を恨まねえ代わりに俺が恨んでやるんだ。それくらいしか、今の俺にできることはなかったから。



    獅童のパレスで、明智の───ありのままの姿を見た。
    親父に捨てられて、残った母ちゃんを早くに亡くして、居場所もなくして。『自分は望まれない子供だ』という気持ちを抱えながら自分の取り巻く世界を呪って、行き場のない感情の全てを父親への恨みに変えて。アイツはそうやって人生の全てを復讐に捧げて生きてきた。それが、明智の実行犯としての本当の真実だった。
    明智は蓮に『あと数年早く出会いたかった』と、そう言った。出会い方さえ、出会う時間さえ違かったらと。そう本音を零した。ようやく聞けたアイツの本音が、それだった。
    …その瞬間に自分の中の明智吾郎という男の像が全て壊れた。あんなに嫌っていたアイツを、恨んでいたはずのアイツを、恨みきれなくなった。分からなくなった。ぐちゃぐちゃになった。

    だって───その話を聞いた時、少しだけ明智の気持ちが分かってしまったから。

    クソッタレな親父と大人のせいで、人生を狂わされて。居場所がなくなって。俺も世界の全てを恨んでいた。けど、俺には母ちゃんが居た。蓮が、杏が、モルガナが。怪盗団の皆が居た。でも、明智には誰も居なかった。自分を大切にしてくれる人も、居場所をくれるダチも。アイツには居なかった。だから、あんなになっちまった。
    分かってしまった。明智は、蓮に出会えないであの学校で腐ったままの毎日を生きた俺の成れの果てだ。だから、こんなにもアイツの気持ちに親近感を覚えてしまった。
    明智を許してはいけない。受け入れてはいけない。理解してはいけない。明智に共感してはいけない。なのに。理解してやりたい。
    そんなことを、思ってしまった。

    ……けれど、アイツはそんな親父にアッサリと切り捨てられて、そのまま俺らを庇って閉じたシャッターの向こう側に消えた。
    『獅童を改心させろ』という、本心から出た願いを俺達に託して。



    「竜司」
    「あ?なんだよ」
    獅童の野郎の改心を成功させて、命からがら帰って来た現実世界。何故か杏を筆頭に皆に袋叩きにされてヒリヒリと痛む身体を鞭打ちながら先を行くアイツらを追おうとしたところで、唯一静観していた蓮が服を引っ張ってきた。振り向いても、俯いているのか深く被ったフードでその顔はよく見えない。
    「…………」
    「んだよ。さっさと行かねーと置いてかれちまうぞ?」
    俺ら以外の奴らはもう走らないと追いつけない位置まで先を行ってしまっている。なのに蓮は服を掴んだまま、俯いている。
    どうしたもんかと思っていると、蓮が未だに湿布や絆創膏が取れない傷だらけの顔をゆっくりとあげた。
    「竜司は、竜司だよな。ちゃんと、生きてここに居るんだよな」
    「はあ?何言ってんだよ、当たり前だろ」
    「怪我、とか、してるのか。痛いところとか、気分が悪いとか。あるのか」
    「いや…まあ…さっきフルボッコにされたおかげで身体中は痛ぇけど…」
    「痛いんだな。痛覚。あるんだな」
    「お、おう…どうしたんだよ、さっきから」
    揺れる瞳を伏せて、蓮は再び俯いた。ぎゅうっと服を掴む力が強くなる。
    「……竜司まで居なくなるのは……もう、嫌だから」
    「……………………」
    「ごめん。意味分かんないよな」
    その声は震えている。俺『まで』居なくなるのは───その言葉で全てを察した。
    バカ、分かんないわけねーだろ。喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。飲み込んだ代わりに肩を叩いて、励ますようにニッと笑ってやった。
    「心配すんな。俺はちゃんと生きてっから」
    「………竜司」
    「行こうぜ。アイツらに置いてかれちまう」
    「ん...」
    そこで初めて安心してくれたらしい。不安げな顔がようやく少しだけ和らいで、蓮は笑ってこくりと頷いた。そんな蓮の背中を押してやりつつ、国会議事堂を後にする。頼れるリーダーの大きいと思っていた背中は随分と小さくなったように感じた。
    「(…クソ野郎。だから俺はお前が嫌いなんだよ)」
    蓮にこんな顔をさせたのは、後にも先にもアイツだけ。勝手に暴れて、勝手に消えていったアイツだけ。
    出そうになった舌打ちは、なんとか抑えた。



    一月。蓮のペース配分のおかげで丸喜センセーのパレスの攻略は順調だった。まあ、もしかしたら蓮にアドバイスがてらうるさく口出ししてる奴が居るのかもしれないけれど。
    今日はパレスの探索ではなくメメントスの探索だった。集合時間より少し早い時間帯にカラン、カランとルブランのドアベルの音が鳴る。読んでいた漫画から視線を上げると入ってきた明智と目が合った。
    「…意外だね。君がこんな早い時間に居るなんて」
    「んだよ、別に俺が早い時間から居たっていいだろうが」
    「いつも悪びれもなく遅れて来ていたからあまりにも珍しいと思って」
    「けっ、悪かったな。いつもお待たせしてよ」
    「それより蓮は?まさかまだ寝てるとか言わないよね」
    「アイツはマスターと双葉と三人で買い出し。今は俺が店番してる」
    「ふぅん、そう」
    自分で聞いておいて興味もないかのような振る舞いで明智は店内に足を踏み入れ、俺が座る入口手前のボックス席を横切り、その次の列のボックス席も横切り、最後に一番奥の階段手前のボックス席まで足を運んで、静かに腰を下ろした。あそこがルブランで集合した時のアイツの定位置だ。仲間として振舞っていた仮の時も、仲間ではないが取引相手として怪盗団にメンバー入りしている今も、アイツは俺らとは一線を引いた離れた位置に着く。
    「まぁ君一人に店番を任せるくらいだし、すぐ帰って来れるような短い買い物なんだろうね」
    「どういう意味だよそれ!確かにすぐ戻るとは言ってたけど!俺にだって店番くらい務まるわ!!」
    「どうだか」
    「テメっ…このヤロ…」
    俺らが丸喜センセーの力でバカになってた時から明智は蓮と合流して行動していたらしい。ちなみに獅童のパレスからどうやって脱出できたのかは誰も知らないままだ。
    探偵王子をしていた胡散臭ぇ演技を止めた明智は随分と無愛想な奴になった。大嫌いだったあのヘラヘラと舐めた態度こそなくなったものの、代わりに言葉の棘がハリセンボン並に増えて、口を開けばひねくれた発言ばかり。前の明智もなかなか腹立つ奴だったが今の状態も大概性格が悪い。人を腹立たせる天才かよコイツは、とは思いつつも今の態度の方が大分取っ掛りやすくはあるのも事実で、こんな風に互いに接し方は大きく変わった。
    「…………」
    明智は十二月二十四日──悪神を倒した後に、蓮の前に姿を見せたという。
    獅童の立件のために蓮が出頭する代わりに、事件の実行犯として名乗り出たとか。俺らとしてはそれを聞いただけで満足だった。許すことはなくても死んでほしいわけじゃない。無事に生きていて、罪を償える機会があるのならばそれでもういいのだと。そう結論づけて、皆で明智の生還を喜んだ。
    けどそれも丸喜センセーの力でチャラとなり、明智は釈放されて今に至っている。丸喜センセーを改心させて本当の現実に戻ったら、コイツは再び出頭した状態に逆戻りになるだろう。ニュースは小難しくてあんまりまともに見てなかったけれど、去年までの精神暴走、廃人化事件による被害者は数えきれないほど沢山居た。正直一度入ったらもう一生シャバには出れないほどの罪を明智は背負っているはずだ。
    「なあ、お前さ。蓮とは今も会ってんの?」
    だからこそ、聞きたかった。今しか聞くタイミングはない。
    相変わらずのアタッシュケースの中から取り出した文庫本を読み始めている明智に話しかける。据わった視線は本の中から出てこない。
    「今こうして会いに来てるけど?」
    「そうじゃなくてプライベートでだよ。去年はしょっちゅう会ってたんだろ?吉祥寺で」
    「蓮が一方的に呼びつけてくるだけだよ。だったら何?」
    明智の冷めた視線がようやくこちらに向いた。敵意はないが、『お前には関係ねえだろ』と目が言っている。ムッと来たけど我慢した。
    「別に深い意味はねーよ。ただ、蓮にはもう少し優しくしてやれよな。獅童のパレスで別れた後のアイツ、お前が死んだと思ってスッゲー凹んでたんだぜ」
    「…………」
    明智と共に行動するようになってから、蓮は明智に話しかけることが多くなった。純粋にリーダーとして経緯はどうあれ異世界慣れしている明智に意見を求めて話しかけることもあれば、指示のために話しかけることもあり、明智から話しかける姿もよく見る。あんだけ俺らとは成立しなかったホシを使った連携技も明智となら抜群のコンビネーションで敵を蹴散らせていた。聞けばホシの力も借りずに即興でやってのけたのだと言う。なんでよりにもよって明智となんだよと思う気持ちがありつつも、まあ明智だからなと思ってしまう自分も居て、その話は少しだけ複雑だった。
    けれど、それほどまでに蓮にとって明智が生きていて戻って来てくれたという事実が目に見えて浮かれるほど嬉しいことだったんだろう。結局どれだけ敵対しても最後まで蓮の中で明智が『倒すべき悪』になる瞬間は無かったらしい。
    「蓮のヤツさ、今のお前とダチとして最初からやり直したいんじゃねーかな。去年は騙し合ってたけど、今はお前も俺らも騙す気はねーんだし。お前だって下手な演技しながら我慢するより、今の包み隠さねえ態度で蓮と話してた方が気楽だろ?蓮もそう思ってんだよ。だからさ、」
    お前も蓮のこと気に入ってんなら、現実に帰って会えなくなる前に───いい加減素直になっちまえよ。
    そう言おうとして、明智の顔を見た。
    「───────」
    予想外に、明智は俺の言葉を聞き入っている様子だった。
    「やり直し?蓮が、僕と…?」
    素の性格になった明智にしては珍しい顔だった。信じられないという顔で本気で驚いたような様子で目を見開かせている。それでも、眉間には皺が寄ったままだが。
    「………………………………………………」
    そしてしばらく黙りこみ何かを考え込んでいる。
    そんなに意外だったのだろうか。アレだけ露骨ならコイツの頭の良さなら分かるもんだと思うのに。
    「………………ハァ。くだらない」
    しかしすぐに明智は露骨に不機嫌そうに鼻を鳴らして、そう吐き捨てた。持っていた本を閉じて、両腕を組んでフンとそっぽ向く。
    「馬鹿ばっかりだよ。アイツも、わざわざそんなこと言ってくる君も。本当に救いようのない」
    「ンだよ、せっかくアドバイスしてやったんだろうが」
    「心の底から余計なお世話だ。頼むからもう黙っててもらえる?耳障りだから」
    「ハァ!?お前ッ、ほんっとうに性格悪ぃな!!」
    「そう。褒めてもらえて嬉しいよ」
    「…コイツっ…」
    やっぱり俺はどこまで行っても明智が嫌いだ。せっかく背中を押してやろうとしたのに。救いようのねえ馬鹿はどっちだって話だよ。
    もういい、勝手にしちまえ。お前が現実に帰ってもどうなろうと知ったこっちゃねぇ。絶対誰になんと言われようと面会になんか行ってやらねえと、その時の俺は心に誓った。



    ────そう考えてしまったことを、心の底から後悔した。

    丸喜センセーを改心させて戻ってきた元の世界に、蓮とモルガナと明智の姿はどこを探しても居なかった。
    渋々ルブランに戻れば、蓮は出頭して今はもう少年院に居るのだとマスターは不思議そうに話した。それはおかしい。だって、それは明智が引き受けたって話だったはずだ。はずだったんだ。
    「そんな…明智さんが…」
    丸喜センセーの現実で起きていたことは元の現実では全て無かったものとされていた。死んだはずの人間は死んだままになって、無かったものは無かったままに。それは年明けからではなく十二月二十四日から始まっていたもので、その日に今まで行方不明だった明智が急に現れたのは、ただの再会なんかじゃなかった。
    「なんだよ、それ…」
    ……明智は、あの一月を共に過ごした明智は。丸喜センセーが蘇らせた、蓮の願いから生まれた存在だった。
    丸喜センセーを改心させたらあの温かい現実と一緒に消えてしまう。そういう、双葉の母ちゃんや春の父ちゃんと同じ。曲解で『死んだ現実』を捻じ曲げられた存在。
    「テメエが消えんの、分かってて戦ってたのかよ…」
    明智はそれを最初から知っていたんだ。知りながら、アイツは最初から丸喜センセーの現実を拒絶し、戦う決心をしていた。
    自分は本来獅童のパレスのあの時に死んでいる存在で、なのに丸喜センセーの現実でどういうわけか生き返ってて、でもそれだけは嫌だから。だからアイツは蓮の元に訪ねたのだ。怪盗団と共にあの現実をぶっ壊すために。自分が元に現実に戻って今度こそちゃんと、死ぬために。
    「(……ふざけんな……)」
    そんなの常人の考えじゃない。明智はいけ好かない野郎だったけど、昔はそれなりに苦労して、それでも人並み以上に努力して、頭が良くて、俺より一個年上というだけの、だだの高校生の男だ。重すぎる罪をしっかり償って、それから改めてアイツ自身の人生を始めるべき奴だったのに。そんな重すぎる覚悟を当たり前のように決めていい奴じゃない。そんなものを抱えて普通の顔して過ごしていい奴なんかじゃなかった。一体どういう気持ちであの一ヶ月を過ごしていたんだ。着々と自分の死へと近づいていくことに、何も思うことはなかったのか。迷いも、恐怖も何も無かったのか。
    なんで誰にもそれを言わない。言ったところで明智が丸喜センセーの現実を受け入れることはない。ならば言っただけ無駄だ。
    でも皆で考えれば他に良い方法があったかもしれない。……でもきっと、明智はそれを望まない。
    …蓮はそれを知っていたのだろうか。
    もしその真実を事前に告げられていて、元の現実に帰ることが明智の死を意味することを知りながら、それでも現実に帰ることを選んで、そして今頃一人で少年院の中に居るとするなら、そんなの。
    「(そんなの……ねえだろ……)」



    例え明智が居ないままの現実でも、それでも俺らはこの現実を選んだ。なら立ち止まっているわけにはいかない。明智もきっとそれだけは望まない。だからまず、蓮をふざけた冤罪から救い出した。皆で蓮が無実である証拠を見つけ出して、色んな人の協力も集めて。そうして、正真正銘自由になった蓮はまたルブランに帰って来た。
    皆が蓮に『おめでとう』『おかえり』と声をかけて笑い合っている。蓮もまた『ありがとう』と笑って、そしてアイツは店内を見渡した。俺と杏とモルガナと祐介と真と双葉と春とすみれとマスター。久しぶりに見る皆の顔を見てもまだアイツはまだ他を見た。居るかもしれないもう一人の姿を探していた。
    「…………」
    そして、その探し人が居ないことを理解して…薄く笑った。
    「…皆。俺のために色々してくれて…本当にありがとう」
    他の奴らから見たら感極まっているように見えるであろう喜びの微笑。でも、俺だけはその笑みが諦念の苦笑に見えてしまった。
    やっぱり蓮は知っていたんだ。自分が選んだこの現実にアイツが居ないことを。明智の居ない現実を、自分自身の意思で選んだことを。

    〇 

    「ぶっちゃけ、竜司だから言うけどさ」
    「あ?」
    「俺、明智のこと好きだったんだ」
    あれから数年が経って、俺と蓮は二人でどこにでもあるような居酒屋で酒を飲み交わしながら飯を食っている。
    蓮は怪盗団の仲間達とはしょっちゅう時間を作っては会って食事をしたり出かけたりしているらしい。今日はそのうちの、俺とサシで飲む日だった。
    「今思えばそれ以前から好きだったんだと思うんだけど、獅童パレスのあの後に気持ちにやっと気付いて…。だからクリスマスの日にアイツに会えた時、本当に嬉しかった」
    「…………え。待って。好きって、もしかして、そういう?」
    「ん、そういう」
    「…お、おお…」
    酒の力なのか、はたまた純粋に相手が俺だからと話してくれているのかは分からないが、いきなりのカミングアウトだった。
    でも、自然と腑に落ちる発言でもあった。好きすぎだろとは常々思っていたが、それがずっとそういう『好き』から来るものだったならば、そりゃあまあ、好きでしかないだろうと。
    「アイツ、あの日…自分の命のことを『この程度』だなんて言ったんだ。酷いと思わないか。なんだよ、この程度って。この程度なわけないだろ。それじゃあ、その程度の奴を好きになった俺はなんなんだって話だ」
    「…まあ、そうだな」
    「なのに、丸喜と戦うって言ったら嬉しそうに笑ってさ。…ホントに酷い奴。最低で最悪だ。約束一つも守れないくせに偉そうで。絶対結婚できないタイプの男だ。しなけりゃいいんだ、あんな奴。顔が良いくせに色んな女に見捨てられて、それで路頭に迷えばいいんだ」
    ハア、と大きく溜息をつきながら蓮は机に突っ伏する。
    「………そうすれば、俺が拾ってやれたのに」
    「……………」
    「馬鹿だよアイツ。本当に馬鹿。バカ明智」
    突っ伏している蓮の方から鼻が啜る音が聞こえた。
    グラスを持って、中身を喉に一気に流し込む。勢いよく机にそれを置くと、目を赤くした蓮が上目遣いでこっちを見上げた。
    「惚気てるところ悪ぃけど」
    「…ん」
    「俺は明智のこと…今までもこれからも、ずっと嫌いだから」
    「…………」
    ゆっくりと顔を上げて、腫れた目で真っ直ぐと見つめられる。
    しばらくの沈黙の後、蓮は二ッと笑ってみせた。
    「知ってる。だから竜司に話したんだ」
    その笑顔は嬉しそうで、寂しそうだった。
    「ありがとう竜司。いつも俺の代わりに明智に怒ってくれて」
    「………………おう」

    ───俺は明智が嫌いだ。
    一人で全部抱え込んで。勝手に消えて。大切な親友を傷つけて、こんな顔をさせちまう。
    そんなアイツが、大嫌いだ。
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