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    manju_maa

    @manju_maa

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    manju_maa

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    ──ピピピピピ。
    マイルームに鳴り響く携帯端末の目覚ましタイマーの音に意識を呼び戻される。
    今日は一段と音が大きく聞こえる気がする…。
    とにかく早く止めなければ。
    モゾモゾとうつ伏せていた顔を上げ、端末の画面を押す。
    音は消え、聞こえる音は隣で眠るギルガメッシュの寝息だけになる。
    記憶が正しければ昨日は王座で頬杖をつきながら眠りの体勢についていたはずだが、いつの間にかこっちに移って来ていたらしい。
    まぁいつものことなので、特に驚く事はない。
    ギルガメッシュを起こさないように静かにベッドから降り立ち、洗面台に向かう。
    水を両手のひらで貯めて、顔に押し付け顔を洗う。
    傍らに置いたタオルで濡れた顔を拭い、改めて鏡に映る己の姿をこの目に入れる。

    見慣れたウェーブがかった栗色の髪に、寝間着用にと着替えた体操着。
    そして頭から覗く猫耳のような物体と、下半身から見えている猫の尻尾のような物体。

    ───うん?

    ちょっと待て。
    私はいつの間にこんなコスプレをしている。
    いやそれはいい。
    とにかくこれを早く外さないとギルガメッシュが起きてしまう。
    こんな姿を見られたが最後、笑い上戸である彼の浅いツボにハマりしばらく戦闘不能になるまで笑い転げることだろう。
    そんな未来は嫌だ。
    きっとこれはカチューシャか何かなのだから、どうせすぐに外せる。

    と、頭に手をかけたところで私は気付く。

    カチューシャであるはずなのに、頭にはそれらしい部分がない。
    いや違う。きっとピン留めのように猫耳の部分だけ着けるタイプなのかもしれない。
    そう思いながら震える手で猫耳に手をかける。
    引っ張る。痛い。取れない。

    ──痛い?

    もう一度引っ張る。
    耳を摘んで引っ張られたような痛み。

    ……………………。

    これは、間違いなく、この耳は私の神経と繋がっている。
    すなわちこれは、カチューシャではなく、本物。
    私は、岸波白野は、猫人間になってしまったようです。

    …………。
    …………にゃ…………。

    にゃんじゃそりゃーーーーーー!?



    ○ ○



    洗面所から響き渡る契約者の叫びにも似た声にギルガメッシュの意識は呼び戻される。

    いくら耳に心地良い声だからといっても今の奇声だけは許されるものではなく、なんとも最悪な目覚めになったものだと内心で悪態をつきつつ、体を起こす。
    開ききらない目を指で擦り、若干ぼやけた視界に映るのは、何故か頭から布団をかぶり顔を蒼白にさせた契約者の姿であった。


    「……朝から喧しいぞ雑種。なんだそれは。駄肉めの真似事か?」

    「い、いや、うん、確かに出来ることなら今日はマイルームで引きこもってゲームしてたい気分ではあるけど」


    ハハハハ…と必死に作り笑いをしながらの言葉。
    しかし目に焦点が合わず、物凄く泳いでいる。
    神の視点を持つ彼でなくとも、彼女が何かを隠して、そして焦りを隠せないでいるのは明白であり、その原因は被った布団の中にあるものであることはすぐに分かった。
    ギルガメッシュはベッドから降り立ち、一直線に白野のもとに歩み寄る。
    最初の一歩を踏み出したところで白野の体がはねた。


    「ちょ、待って、来ないで!」

    「マスターの異変の原因を突き止めるのがサーヴァントの役目であろう」

    「いつも王さまルールのくせになんでこんな時に限ってサーヴァント面してるの!?いや待って本当に待って!来ないでとは言わないけど…いや言うけど!!せめて何か着てから来て!キャストオフの状態で来ないで!!」

    「何、案ずるな。我が裸身に恥ずべき所はない」

    「そういう話じゃないし!!」


    などと不毛な言い争いにもならない茶番を繰り返す内にギルガメッシュの手が白野が被った毛布に届く。


    「待って…本当に…止めて…」

    「断る。その中身、一体どのようなカオスになっているか、この目で見届けてやろうではないかっ、フハハハハ!!」

    「いやーーーーーー!!」


    バサリと勢いよく布団を白野から取り上げる。
    そこには顔を真っ赤にさせながら両手で頭の一部分を必死に隠しながら座り込む白野の全身が現れた。
    その小さな手からは何やら獣の耳のようなものが見えているし、下半身からは猫の尻尾のような長細い何かがうねうねとしている。


    「………………」


    未来を見通す目を持ってしても、流石にこの展開ばかりは予想だにしなかった。


    「なんだそれは」

    「……わ、私が……聞きたい……」

    「とにかくその手を退かせ。どうせ見えている。隠す意味などなかろう」

    「…………」


    白野はおずおずと耳を隠していた両手を下ろす。
    その感情に合わせてなのか、その獣耳もどことなくしおれている。
    その姿を見下ろし、ギルガメッシュは口に手を当て考える。
    あの耳、尻尾は紛れもなく猫のもの。
    ネコ科に分類される動物の毛並みや触り心地はなかなか悪くない。(ライオン的な意味で)
    つまりこの雑種の頭と尻に生えたこれもまた、あの触り心地である事に他ならないのでは?

    そう考え終わる頃にはギルガメッシュの手の中には白野の頭の猫耳が収まっていた。
    その触り心地はまさしく本物。


    「──ほう」

    「……いや、『ほう』じゃないよ。何やってるの」

    「いやなに、ほんの好奇心よ。うむ、だが悪くない。ネコ科は好きだぞ」

    「唐突に猫派宣言されましても…。とにかくこれなんとかしないと。…迷宮探索どころじゃないよ、こんなの」

    「別にいいのではないか?あって支障が出るものでもあるまい」

    「それギルが耳触ってたいだけでしょ!?」

    「当然であろう」

    「開き直るな!!」



    〇 〇



    ──とりあえず。
    私はいつものようにセーラー服に、ギルガメッシュは黄金の甲冑姿に。
    仕切り直しもかねて二人とも一旦着替えました。


    「とはいえ引きこもるだけでは解決するものもしないであろう。元に戻したいであらばまずは生徒会の連中に相談するべきではないのか?」

    「…そうだよね…あんまり乗り気はしないけど…まずは凛たちに相談しようか…」

    「我としてはそのままでも良いのだがな」

    「猫派の意見は聞いてないです」


    溜息をつきながらマイルームの扉を開ける。
    やれやれと呟きながらとどこか残念そうにしているギルガメッシュを背に生徒会室を目指し、その扉に手をかけ、開ける。

    「あっ、先輩。おはようござ……えっ!?」

    「あら、おはよ……」

    「…………ミス、白野。それは」


    生徒会室に入るなり、桜と凛とラニの視線が私の頭部の耳に集中する。
    ……知ってたもん……こうなることくらい知ってたもん……。


    「えーっと岸波さん?それは、……何?」

    「見たところ猫耳のように見えますが」

    「見ての通り猫の耳だ。もちろん本物のな。肌触りも本物そのものだぞ」


    俯く私の代わりにギルガメッシュが答える。
    ていうかどんだけ触り心地気に入ってるんだこの王さまは。


    「どうしてそうなったの?」

    「知らない…起きたらもうこうなってた…」

    「エラーは見られませんしバグではないようですが…」

    「であれば可能性は一つしかありませんね」


    ラニが人差し指で眼鏡を押し上げながら言う。
    原因不明の異常。バグではない。
    ならばつまり、残る可能性は───


    『もちろん私でーっす!』


    その瞬間、視界が強制的に切り替わった。
    見慣れた桜マークとハッキングナウの文字。
    いつも視界を強制ジャックして行われるBBチャンネルだ。


    『こんにちはセンパーイ!半猫化した気分は如何ですかぁ?』


    どこか機嫌が良さげにキャッキャと笑っているBB。
    やはり犯人はお前か!おのれBB、許すまじ!!


    『もーそんな目くじら立てないで下さいよ。ほんの出来心じゃないですかぁ』

    「な……で、出来心って……」


    そんな軽いノリでこんなことになったこっちの身にもなってほしい。
    BBは『やれやれ』と言わんばかりに大きく溜息をついて持っていた小さな杖をくるりと回す。


    『仕方ないですねー。センパイだけに特別にBBちゃん特製プログラム、ニャンニャン☆パニックの解除方法を教えてあげます。
    いいですかぁ?………………』

    「いや無理でしょ!?」


    BBに伝えられたその方法。
    あまりに無理難題すぎる内容に声すらひっくり返ってしまう。


    「ほ、本当にこれしかないの…?」

    『もちろん!ま、その耳は別にあっても特に何かあるわけでもないですし、そのままでも構わないと言えば構わないというか個人的にはそのままの方が見てて可愛いので解かないでもらいたいと言いますか…どのみちギルガメさんの性格とセンパイへの扱いを見る限り無理そうなので必然的にそのままになりそうですねー♪』


    ぐぬぬ…このAIいい趣味してやがる…。


    『好きな子ほどいじめたくなるってやつです♡
    マイルームのクローゼットに色々と送信しておきましたので、あとはお好きに使ってくださーい♪』


    そう言い残し、BBチャンネルは終わり視界が生徒会室に戻る。
    例によって発言権は私にしかなくもジャック自体はされていたのか、他の皆も疲れた顔をしている。


    「はぁ…本当に唐突に始まるわね、アレは…」

    「もうここまで来ると慣れてきましたけどね」

    「あの、先輩。その、解除方法は分かったんですか?」


    桜が恐る恐る尋ねる。
    どうやら解除方法については本当に私にしか伝えていないらしい。

    …余計に悪質だ…。


    「何やら我の名が出ていたようだが?」

    「…………」


    ギルガメッシュが腕を組みながら、横目で見てくる。
    気づけば全員の視線がこちらに向いている。
    『ソレ』をやらねばこの猫化の呪いは解けない。
    しかし『ソレ』をやるならば見られる人物は必要最低限でいい。
    ある意味では一番見られたくないギルガメッシュには、むしろ見てもらわなくてはならないわけだが…。


    「……岸波さん。今日はとりあえず迷宮探索はお休みでいいから、それをなんとかすることに専念しなさい」


    察してくれたのか凛はしっしと手を払っている。
    戦闘に支障が出るのも避けたいですしね、とラニも凛の言葉に頷く。
    桜も反対することなく笑っている。

    ありがとう…持つべきものは仲間だ…。


    「あ、でもせっかくだし」


    と、思い出したように立ち上がる凛は私に駆け寄ると、その手を上げて私の猫耳に触れた。


    「………………」

    「あー確かにこれは…。ごめん白野。さっきはああ言ったけどやっぱり直さなくていいんじゃない?」

    「ミス遠坂。独り占めはよくありません。私にも触らせるのです」

    「あ…わ、私も…」


    気づけばラニや桜も私を囲んで耳をペタペタと触っている。

    前言撤回。もう誰も信じない。
    絶対元に戻してやる。



    〇 〇



    凛とラニ、桜の包囲網から逃げ延び、マイルームに戻って来た私とギルガメッシュ。
    ……いや、戻って来たから一安心というわけではなく、むしろ本題はここからだ。


    「で?あの乳袋から元に戻す方法を聞いたのであろう?早く直したいのならば疾く始めよ」


    ギルガメッシュはいつものように王座に腰掛け、頬杖をかきながら退屈そうにしている。

    ……覚悟を、決める時か……。


    「……分かったよ……わ、笑わないで、ね」

    「ふむ、善処しよう」

    「…そこは分かったって言ってほしかった…。とりあえず…着替えるから…」

    「そういえばクローゼットに何か送信したと言っていたな…手短にな」


    ふぅ、と溜息をつくギルガメッシュ。
    溜息を吐きたいのはこっちだっというのに…ちくしょう…。
    そしてクローゼットの中身を見るなり再びその気持ちに押し潰される。
    …なんで私こんな辛い思いしてるんだろう…。


    「………………はぁ」


    大きく息を吐いて意を決して、セーラー服を脱ぎ、それに手を通す。
    しばらく黙々と着替えを続け、遂に終わってしまった。
    鏡に映る己の姿を顧みる。
    頭に生えた猫耳と下半身部に生えた尻尾に合わせたのかどうなのかは不明だが、平仮名で『きしにゃみ』と書かれた名札が付いたスクール水着に、猫の手足を模した大きめの着ぐるみの一部分的何か。
    これではパッと見だだの痛いコスプレイヤーだ。
    そして死ぬほど恥ずかしい。何これ公開処刑?
    何が恥ずかしいってこの姿をこのカーテンの向こう側で仏頂面で座り構えているギルガメッシュに見せなければならない所だ。
    今すぐ逃げれることなら逃げたい。

    しかし岸波白野に後ろを振り返ることは許されない。前だけを見続ける。
    それが岸波白野が岸波白野であり続ける唯一の方法なのだから。

    さぁ、行くぞ英雄王!覚悟の貯蔵は十分だ───!!

    シャッとカーテンを勢いよく引く。
    そして空かさずポーズを決め、


    「ご奉仕するニャン♪」


    精一杯のウィンクとたっぷりの笑顔を目を真ん丸にしているギルガメッシュにぶつけてやりました。


    「………………」

    「………………」

    「……………………………………」

    「……………………………………」


    時間が止まった。
    ギルガメッシュは頬杖をかきながら、ただひたすら唖然としている。
    素で固まっている。
    察しの良すぎる彼でもこの展開は予想外だったようだ。

    そしてその沈黙が私には最大の攻撃になった。
    真っ赤になった顔を手で覆って隠す。


    「……あの、ごめん…せめて…笑ってください…」

    「ははははは」

    「棒読み!!」


    もはや哀れみの笑いだ今の!


    「いや許せ。あまりに予想外だった故言葉を失った。うむ、笑えと言うのならば笑うが?」

    「言っといてなんだけどやっぱり止めて…。もうやだ…元に戻らないから条件も満たしてないし…死にたい…」

    「そう落ち込むなよ雑種。何を言われたかは知らぬが、ここは一つ我がひと肌脱いでやろうではないか」

    「キャストオフは勘弁して下さい」

    「違う。そうではない。貴様今ご奉仕すると言ったであろう。我への奉仕を許すと言ったのだ」

    「言ったっけそんなこと」


    もう色々と頭がいっぱいで自分が何を言いながらポーズ取ったのかすら覚えてない。
    ギルガメッシュが眉間にシワを寄せながら『言ったわ』と言っているので言ってしまったのだろう。


    「一つ気になることがあってな。どれ、こちらに来い雑種」

    「…………」


    人差し指でクイクイと指招きするギルガメッシュに従い、彼の王座に歩み寄る。
    その途端ギルガメッシュは手を伸ばし、私の尻尾の付け根の部分をガシッと掴んだ。


    「っ!?」


    もちろん尻尾にも神経が繋がっているので、全身に衝撃が走ると共に脱力する。


    「ふにゃ…」


    立つのもままらなくなり、床に座り込む。
    空かさずギルガメッシュはそんな私の顎を掴み、クイッと上げる。


    「ふむ、どうやら感覚もネコ科に寄っているようだな。そら、顎を撫でてやろう。猫はここが好きなのだろう?」


    ニヤリと笑みを浮かべ、私の顎を掴む指がそのまま撫でる形に入る。
    人差し指と中指を巧みに使って無駄のない動きで私の顎を撫で続けるギルガメッシュ。


    「あふっ……あっ……うぁ……!」


    そのスキルはどこで身につけたのか、正直とても気持ちいい。
    気持ちいいのが逆に恥ずかしくて、顔は火照り、目尻には涙が溜まる。


    「ふん、素直になればよいものを可愛げのない女め。だが尻尾が立派に立っているぞ。体は正直よな」

    「……………」


    地獄のなでなで攻撃が終わり、満足げに再び頬杖をかくギルガメッシュ。
    私は床に膝と両手をつけて項垂れる。


    「どうした雑種。奉仕とやらは続けぬのか?」

    「……………………」


    だめだ。
    これを言っては完全に負けだ。
    別に勝負していたわけではないのだが、なんとなくこれを言っては人としていけない気がする。
    言ってはだめだ。だめだけど、でも──

    私は俯けていた顔を上げ、火照った顔と涙目のまま


    「……ギル……今の…もう一回……やって……?」


    ここだけ見れば完全に不健全な何かにしか見えないだろう。
    しかし仕方ないのだ。あまりにもギルガメッシュの顎なで攻撃が気持ち良かったのが悪いのだ。


    「────────」


    その時、ギルガメッシュの眉毛が一瞬ピクリと動いた。


    「…?」


    再び時間が止まる。
    しばらくの静寂の後、ポン!と間抜けな音と共に私の猫耳と尻尾は綺麗さっぱりなくなった。

    元に戻った…?

    ならばBBが提示したのあの無理難題な条件を満たしたということか!?
    元に戻れた喜びより、そっちの方が気になってしまいギルガメッシュの方を向く。

    そこには顔を手で覆い、俯いている王の姿が。


    「あ、あの、ギル?」

    「何も言うな」

    「で、でも」

    「言うな」

    「…えっと…」


    なんとも言えない空気。
    この様子ではギルガメッシュ自身もプログラムの解除方法を察したのだろう。


    「おのれ乳袋……我を虚仮にするとは…覚えていろよ……」


    ブツブツと恨み言を呟いているギルガメッシュ。

    何が彼のツボに入ったのかは分からないが、これ以上は私のためにも、彼のためにも、考えない方がいい。
    なんとなく気まずい雰囲気のマイルームで、私はそう決意した。
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    Replies from the creator

    manju_maa

    DONEタイトル通り。二番煎じに二番煎じを重ねてテンプレを煮詰めたような話。たぶん主明
    ※ペルソナとか異世界とかなんもない本編とは全く関係ない謎時空
    ※明智が架空の病気(※ここ大事)で心臓弱い子
    ※明智ママがガッツリ出てくる。
    ※なんでも許せる人向け
    小学生の病弱吾郎くんと蓮くんが出会う話①この街には小学校の登校路から外れた道を行くと、低めのフェンスに囲まれたかなり大きい家がある。アニメなんかでよく見るお屋敷のそれ。道路も公園も、なんなら住宅も少ないその区域に静かにひっそりとそれは佇んでいた。
    フェンスの内側は芝生が生えた庭があって大きな桜の木が一本生えている。花見し放題だななんて思いながらボーッと眺めていたある日、飛び交う桜の花びらに混じって木の陰に隠れていた屋敷の二階の窓から外を覗く奴が居ることに気づいた。
    チョコレートのような、牛乳をたっぷり入れたココアのような、そんな茶色の髪を風で揺らしながら。夕方近いとはいえまだ太陽が昇っている時間帯にパジャマの上からカーディガンを羽織るという格好で、そいつはずっと外を眺めていた。髪は長いし顔も女の子みたいで、下から見上げるだけじゃ性別は分からない。年齢は多分同い年くらいだと思う。
    35875

    manju_maa

    PROGRESSごろうくん視点。獅童編中盤の全カットした空白の二週間の話の一部とヤルオ討伐後の話。「」ない。
    本当は本編に入れたかったけど時間が足りなくて泣く泣く書くのを止めたけどやっぱり書きたかったから書いたシーン
    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話~番外編③~色んな人の世話になりながら、39度近くまで上がっていた熱は完全に引いた。今は蓮が診せたという医者に言われた通り、静養期間だ。身体が元気なのに学校にも仕事にもなんなら外にも出れないというのは、中学時代の謹慎中の三日間を思い出す。
    熱がある間は昼間は双葉に、夜から朝は蓮が泊まりがけで付きっきりでそばに居たが、熱が引いたことで蓮はひとまずルブランに返した。
    『こうなったのは俺のせいだから』『お前は放っておくとまた無理するから』と色んな理由を述べられて拒否されたが、ならモルガナを監視役として引き続き家に置くからという妥協案を出すと、渋々承諾した。とはいえ昼間は双葉が家に乗り込んできて持参したパソコンをカタカタといじっている。蓮と約束ノートなるものを作って、それのおかげで一人で外出もできるようになったんだと自慢げに話していた。『明智はわたしの恩人だからな!』と満面の笑みを向けられたときは眩暈を起こしかけたが何とか耐えた。
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