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    manju_maa

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    manju_maa

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    ごろうくん、自分に優しい人に全く耐性がない。
    初日目終わり。終わりが見えなさすぎる。

    来栖暁があけちごろうくんを育てる話③「ひとまず無いと今日困るものは一通り買えたな。まあまだ全然揃ってはいないから、それはまた明日買いに行こうか」
    「……ありがとうございます」
    「いいんだ。何か欲しいものとかあったら言ってくれ。すぐ用意するからさ」

    暁さんは買ってきたものを袋から取り出していく。
    選んでもらった服のラベルを切って、部屋にあるタンスを開ける。

    「服はここに仕舞うからな。着替える時はここから取って」

    タンスの中に仕舞われていく服を見る。
    暁さんは沢山色んな服を買ってくれた。こんなにいっぱいの服が全部僕のものなのだというのがちょっと信じられない。色んな色の服が並んだタンスの中身が宝箱のように見えた。

    「……っと、そろそろ夕飯の時間だな。……吾郎はカレー好きか?」
    「…カレー?」
    「そう。カレー。カレーライス。今日は吾郎が来る日だったから、朝から作ってたんだ。もしかして苦手だったりする?」

    首を横に振る。
    暁さんは安心したように『良かった』とニコリと笑った。

    「じゃあ食べようか。カレーで吾郎の歓迎会をしよう。俺のカレーは師匠のお墨付きだから、きっと美味いぞ」

    暁さんと一緒にリビングに向かう。『座ってていいよ』と言われて、僕はテーブルに座らされた。
    暁さんはすぐに台所にある大きな鍋が置いてあるコンロに火をつけて、食器棚からお皿を取り出して、炊飯器からご飯をよそっていく。
    どんどんとカレーの匂いがしてくる。美味しそうな匂い。初めてじゃないけど初めて嗅ぐ匂い。
    ご飯が乗ったお皿を暁さんは持って、お玉でよそったカレーのルーを流し入れた。

    「お待たせ。これは吾郎の分だ」

    そうして、それが目の前にゆっくり置かれた。
    すぐに暁さんが自分の分のカレーと一緒に、正面の椅子に座る。
    パチンと両手を合わせてこちらを見てくる暁さんに合わせて、僕も両手を合わせる。

    「いただきます」
    「……いただきます」

    そしてぺこりと頭を下げる暁さんを真似するように、僕も頭を下げた。

    「一応甘めに作ったつもりだけど、辛かったら無理して食べなくていいから」
    「……………………」

    暁さんは言いながら、ずっと僕を見ている。僕が食べるのを待ってるみたいだった。
    スプーンを持って、ルーがかかったご飯を乗せて、それを口に運ぶ。

    「っ!」

    口に入れた瞬間に、今まで食べてきたどのご飯よりも美味しいと分かった。
    ちょっと辛いけど、それがとても美味しい。

    「どうだ?辛くないか?」

    ふるふると首を振る。

    「美味しいです」
    「ほんとか?」

    こくんと頷く。

    「カレーは」
    「うん」
    「カレーは、学校の給食と、お湯で温めて食べるやつしか、食べたことなくて」
    「ああ、レトルトのやつか。……うん、それで?」
    「……このカレー、給食のよりも、レトルトのやつよりも、美味しいです」
    「…………………………」

    暁さんはしばらく目を丸くしていたけれど。

    「…そっか。気に入ってもらえて良かったよ」

    すぐに嬉しそうにハハッと笑った。


    〇 〇


    カレーを食べ終えて、少し時間が経った。
    暁さんが入れてくれたココアを飲みながら、色んなこれからの話をして。

    ……そして今。僕はそんな暁さんと一緒にお風呂に入っている。

    頭や身体を洗ってもらって、逆に暁さんの背中をゴシゴシと洗ってあげて、今は二人でお湯に浸かっている。
    暁さんが指先を上手く使って水鉄砲を作って、僕もそれを真似して、どちらの方が水がよく飛ぶかの勝負をしたりして。
    誰かとお風呂に入るのは初めてではなかったけれど、こんなに楽しいと感じるお風呂は今日が初めてだった。

    「吾郎、こっち」

    風呂から出てコップに入れてもらった牛乳を飲んでいると、暁さんに手招きされる。
    近寄ると椅子に座るように指を差されるので、従って座る。
    すると、ウィーーンという音と一緒に温かくて強い風が頭に掛かった。

    「吾郎の髪はサラサラで綺麗だから、ちゃんとドライヤーで乾かさないとな」

    言いながら、風を当てながら暁さんの手が髪を雑に撫でる。
    親戚の人の家に居た頃もこの音は聞いた事はあったけど使わせてもらえることはなかった。
    優しい手つきで髪を撫でられながら、温かい風が濡れた髪を乾かしていく。それがなんとも、心地よく感じた。

    〇 〇

    髪が乾いてから、少しした頃には時計は九時半を指していた。
    『そろそろ寝る時間だな』と言う暁さんに見守られながら、部屋のベッドに入る。

    「一人で寝られるか?」
    「……大丈夫です」
    「分かった。何かあったら隣の部屋に居るから、遠慮なく言ってくれ」

    こくんと頷く。

    「じゃあ、お休み吾郎。また明日」
    「……おやすみなさい」

    パチンと電気を消される。
    暁さんは明るい部屋の外に出て行って、バタンと扉が閉められた。
    ドアの向こうから、暁さんの足音が遠ざかっていくのが聞こえる。

    「……………………」

    ベッドは、相変わらずフカフカで気持ちいい。
    今までは薄い布団でしか寝たことがなかったから。初めての体験だ。

    「(まだどきどきしてる)」

    胸の中がずっとバクバクしてて、身体がそれに合わせて揺れている。
    落ち着かせようと手を当てても、押し返されるだけで全然落ち着いてくれない。
    今までは、叔父さんや叔母さん達が怖くてそうだった。でも今日は違う。

    「……暁さん」

    優しい人だった。
    ずっと、最初から最後まで笑いかけてくれて、気にかけてくれた。
    僕のものを沢山選んで、買ってくれた。僕がこの家で暮らしていけるように、全てを用意してくれた。カレーも美味しかった。また食べたい。
    今まで会ってきた大人達はこんなことしてくれなかった。ご飯はいつも少なくて適当なものばかり。服も自分達が不要になったものしか渡されなかった。
    暁さんがしてくれたことは今までされて来たことと何もかもが、違った。

    ……だから。それが、とても嬉しかった。

    「………………」

    目を閉じる。
    耳元でうるさい胸の音のわりに、意識はすぐに閉じられた。
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