子供たちのためのゆりかご白くて大きくて、サングラスをしてて、目が見えない、あのお兄さん。
背はすごく高かったけど、たぶんオトナかコドモかって言うとコドモで、でも今まで会った誰よりも落ち着いて話す、不思議なお兄さん。
生きるために必死に走って逃げて、帰るべき場所から遠ざかっているのか近づいているかも分からない中、わたしたちは走り続けて、そして、お兄さんに出会ったの。
あの人が教えてくれたあの建物は、なんだか学校みたいだった。いろいろ壊れてて使えないものの方が多かったけど、それでもわたしたちはそこで久しぶりに、本当に久しぶりに美味しいご飯をおなかいっぱい食べた。
みんな嬉しそうだった。はじめはみんなお兄さんに、この場所に警戒しているみたいだったけど、ご飯を1口、2口と食べていくうちに、なんだか気が抜けて、安心して、泣きそうになって、わたしたちは笑った。
ちらりとお兄さんの様子を伺うと、お兄さんは大きいカバンを大事そうにぎゅって抱きしめて、コドモみたいに寝てた。
寝たフリとかじゃないよな…?と仲間の1人がほっぺをツンツンしてみたり、
カバンの中をこっそり見てみようとした子に別の子がやめなよ!って怒ったり。
約束を破ってしまったあの日から、いつもみんな余裕がなくて、こんないつも通りの日常みたいなやり取りなんて本当に久しぶりで、わたしたちは嬉しくて、笑って、その後はお兄さんを真似て、食堂の床でみんなで集まって眠った。
こんなにすぐ眠れたのも、安心して眠れたのも、物音で目が覚めなかったのも久々で、それも嬉しかった。
硬い床で、空腹を誤魔化すように眠る毎日だったけど、今日は、今日だけはこのあたたかな安心と平穏の中で眠っていいんだ。
お兄さんは、なんだか幸せそうな顔で眠っていたな。わたしたちも、たぶん、同じ顔をして眠ってた。
明日にはまた辛いことがたくさん待ってるかもしれないけど、明日には全部無くなってしまうかもしれないけど、幸せな未来なんてもうわたしたちには来ないかもしれないけど。きっと、わたしたちの罪はゆるされないけど。
それでも、今日は、今だけは。
迷子のわたしたちは、あたたかさの中で寝息を立てた。